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【初期版】創世の賢者【連載凍結】  作者: 春風駘蕩
第Ⅰ章 怠惰な魔女と異世界漂流者
23/69

19:賢者の粛清

 事態はその後、大きく変動していった。

 終戦記念日を翌日に控えていた共和国を突如襲ったテロ、人間至上主義者による他人種への偏見と侮蔑から生じた身勝手な暴動、その実行犯たちは再編された軍や民衆の抵抗にあい、また一人の魔女の手によって瞬く間に鎮圧されていった。

 銃、及び火薬を使用しテロを引き起こした実行犯たちは捕えられ、また首謀者と思わしき元王族とその支持者であった魔術学校の教師、そして有力貴族は殉死。関与の疑いがあるものは速やかに探し出され、片っ端から捕縛されていった。

 この旅の騒動で出た死傷者は7千人、共和国の人口の実に7割が巻き込まれたこととなる。その犠牲者のさらに8割が他人種であったことは言うまでもない。


「先生……‼ 先生ぃ‼」


 そして彼もまた、争いに巻き込まれ重傷を負い、死の淵を彷徨っている状態にあった。

 血まみれで単価にのせられているイワオの傍らに縋りついて、悲痛な叫び声をあげているのは甲司。絶体絶命の状況にあった彼は、イワオの尽力によって軽傷で済んでいた。

 代わりにイワオは全身に銃弾を十数発食らい、致死量に近い流血をしていた。急所は外れていたものの、傷を負った状態で甲司を庇い、安全地帯まで走り続けていたために酷く衰弱していた。


「頼む! まだ逝くな! あんた副団長だろ⁉︎ 仕事ほっぽり出して逃げる気かよ‼︎」


 庇ってくれたことについては感謝しかない。しかしそのために庇った本人が死にかけているなど、甲司には罪悪感で耐えられそうになかった。そのうえ、相手は数少ない元の世界の知り合い、そんな貴重な縁を失うことは、自分の体の一部を引き裂かれるような恐怖があった。

 ただただイワオの存命を願い、声をかけ続ける甲司。するとそのうち、イワオの瞼がぴくぴくと震え、口元に弱々しくも不敵な笑みが浮かべられた。


「き、こえて……らぁ。うるせ……なぁ」


 か細い声で、イワオはうっすらと開いた目で甲司を見つめる。

 いつまた眠りにつき、永遠の別れになるかとハラハラしている甲司ににやりと笑いかけると、イワオは視線をよそへと向けた。


「慎二……の、奴は……どこ、行った……?」

「え? あ、ああ! 今、国のやつらが被害とか犠牲者とかの割り出ししてるけど……まだほとんど把握できてないって」

「……そう、か」


 イワオのこの言葉は、久しぶりの再会を果たした数十年前の教え子を案じているように聞こえるが、その表情はどこか違う感情をはらんでいるようにも思える。また離れ離れになってしまったことへの寂しさではなく、違う意味でどこか遠くへ行ってしまったことを悲しむような、そんな複雑そうな顔であった。

 甲司も似たような表情でうつむき、悔しさと怒りを交えた様子でこぶしを握り締める。

 思えば、もっと彼のことを注目しておけばよかったかもしれない。一ヵ月をこの世界で過ごしながら、いまだに現実味を持てずにいた彼に親身に寄り添っていれば、このような事態を防げたかもしれない。今さらどうしようもない後悔を胸に抱きながら、二人の異世界人は沈痛な表情で黙り込んでいた。

 唇を噛み、内心で小さく毒づいていた甲司は、ふいにイワオが咳き込み始めたことで動揺し、腰を浮かせて恩師の肩を掴んだ。


「い、意識そのまま保ってろよ⁉︎ もうちょっとで医者がくるからな‼︎」

「…自分の教え子が、おれより、先に死ぬ、なんざ……できる、わけ、ねぇだろ……」


 気丈に振る舞おうとしているものの、イワオはもはや甲司の姿さえ目に入っていない様子であった。虚空を見つめたまま、聞き取ることも難しいくらいに弱り切った声で教え子の一人に語る。

 どうにか意識を保とうとしていたが、徐々に我慢の限界に達したように閉じていく。


「ちょっと……疲れたな。しばらく……休むわ………」


 不敵な笑みを浮かべたまま、イワオは笑みを浮かべたまま沈黙する。

 ピクリとも動かなくなった恩師を前に、茫然としていた甲司はわなわなと肩を震わせながらうつむく。ぽたぽたと目から大粒の雫を垂らし、自分の膝を八つ当たりのように殴りつける。

 震える背中からは痛々しさしか感じられず、周囲の者達も気まずげに目をそらすほかになかった。


「先生ぇ……‼」


 その場に居合わせたシオンもまた、痛々しい甲司の姿から目をそらし、師匠から預かったままの杖を握りしめる。


(もっと早く来ていれば、もっと力があれば、もっと多くの人々を……)


 そんな後悔ばかりが押し寄せ、胸の奥が締め付けられるような痛みが走る。

 あるいは、自分の師ならばもっとうまく動けたのではないかと無駄な責任転嫁に及びかけていた思考を、シオンは必死に振り払う。何もできなかったくせに、何を勝手な期待を抱いているのだろうか。

 軽い自己嫌悪に陥っていたシオンは、そこでふと気づく。

 不満を垂らしながらも、事件解決の一役を担った魔女の姿が見えないことに。


「……師匠は?」


     ◇ ◆ ◇


 西の空に、日が沈む。

 地平線の彼方に光が消え、昼と夜の狭間へと移り変わる僅かな時間帯。青とも赤とも形容しがたい不思議で幻想的な、人によれば不気味で忌避感を抱かせる彩りの空の下を、一人の青年が必死の形相で走っていた。

 暴動によって、周囲の街並みからは光も人気も失われ、ほぼ完全な無人となった通りを一心不乱に走る彼の横顔は、焦りとともに大きな怒りもにじみ出ている。現状に対する不満や物事がうまくいかなかったことに対する苛立ちがにじみ出たその表情は、餓鬼のように醜悪に歪んでしまっていた。かつての普通の夢見がちな青年の面影は、完全に消え去っていた。


(なんでだ……⁉︎ なんでだなんでだなんでだ……⁉︎)


 誰もいない通りをしわくちゃな顔で駆け抜ける慎二の内心は、様々な感情が渦巻いている。

 思えばこの世界で目を覚ました時から不満しかなかった。チート能力に目覚め、モンスターや魔物をなぎ倒しながら英雄として敬われる展開や、美人や美少女と仲良くなって心地のいい生活を手に入れられる未来、地球の知識を有効活用して多くの人間に祀られる人生、そんなもの一切なかった。

 実際はただの獣に獲物として追い立てられ、出会った女にはさしたる興味も抱かれず、培った知識も全く役に立たない。

 自分の力を必要とする、見る目のある連中に出会ったと思ったら、余計な邪魔が入って計画はおじゃんになってしまった。


(やっと……やっと俺の望んだ展開になってきたと思ったのに……‼︎)


 地面の段差に足をとられ、何度か転んで顔を打ちながらも、慎二は憤怒の表情を浮かべて走り続ける。

 別に誰かが追いかけてきているわけではない。連中に協力していたことを知っているのは、あの眼帯の魔術師だけだからだ。

 しかしそれでも、あのままとどまっていればそれも明るみとなり、関係者として断罪される未来もあり得る。何より自分の思うようにいかないあの場所にいたくないという拒絶が、慎二をできるだけ離れるように促していた。


(どこだ⁉︎ どこで間違えた……⁉︎ あいつらの計画はうまく行くと思ってたのに……て言うかうまく行くって言ってたのに……‼︎)


 思い浮かぶのは、少し時代遅れではあったが充分脅威と言える兵器を手に兵士が巡回する街を、何食わぬ顔で抜け、自分の雇い主のもとに顔を出したあの魔女の姿。いけ好かない高慢な女の顔だった。

 恐怖のあまり逃げ出した慎二にも一切手を出すことなく、ただただ面倒くさそうにすまし顔で佇んでいたあの顔に、慎二は憎悪を募らせていく。


(あいつだ……‼︎)


 ギリギリと歯を食いしばり、慎二は魔女に対する憎しみの炎を燃やす。

 あの女さえいなければ計画は順調に進み、その立役者である自分は称えられる立場にあったはずだった。英雄として人々の羨望と敬意の視線を集め、歴史に名を遺す偉業を成し遂げた人物として語り継がれるはずだったのだ。

 地球ではできなかったことを現実に成し遂げ、ただの平凡な人間のまま終わっていた未来を変えられるはずだったのだ。


「クソが……あのモブキャラのせいで全部台無しだ‼︎ なんなんだよあのチートキャラは‼︎ 話のバランスめちゃくちゃじゃねぇか‼︎」


 まだ、終わらない。

 功名心だけではない、ただ一人の女に対する憎悪が慎二に新たな活力を与える。

 火薬の知識の存在がここまで自分が買われる要因となったのだ。地球の技術が発展する要因となった知識を次々に披露すれば、他の国でも自分は貴重な人材として渡り歩けるはずだ。それだけではない、自分でも銃や兵器を使えるようになれば、気に食わない相手を排除できる実力も身につくのではないか。

 そすれば、そう遠くないうちに自分の元にはあらゆるものが揃う。金も、地位も、力も、女も、自分が憧れてきた登場人物たちのようになんでも手に入る。

 そうすれば、あの女にも目にものを見せてやれる。圧倒的な力で、今度は自分があの魔女を見下し、踏み潰してやるのだ。


「そうだ……‼ こんなので終わるわけがない……おれはいつか、あの女も跪かせられるだけの人間に………‼」

「……あら、遅かったわね」

「ぶごっ⁉︎」


 妄想したまま走り続けていた慎二は、突然顔面に突き刺さった固いものに弾かれてうしろ向きに倒れこむ。

 衝撃で鼻の穴の血管が切れたのか、盛大に鼻血を噴出した慎二は一瞬意識が混濁させるが、すぐに目の前に割って入ってきた存在を血走った目で睨みつける。見覚えのあるシルエットに、それが誰であるのか瞬時に把握していた。


「……自分に協力してくれた連中全員見捨てて自分だけ逃げ出すなんて、ずいぶんひどいんじゃないかしら?」


 片足で硬いヒールの踵を突き出した女、アザミは相変わらずの無表情で慎二を見下ろす。

 以前から興味なさげだった目は、より冷たく見下したように慎二を射抜いている。道端の石ころを見るような無機質な眼差しであったものが、排水溝のどぶを見るような嫌悪をはらんだ凍てついたものに変わっていた。

 それに気づいた慎二は目を吊り上げ、獣のような唸り声をあげて体を起こす。だらだらとあふれ出る鼻血をぬぐうこともせず、血走った目を向ける彼の姿は、ほぼ人間離れしているように見えた。


「……火薬の作り方なんて、あんたよく知ってたわね。ま、あの世界の住人なら知っててもおかしくはないか……資料も無しに覚えているというのは、さすがに驚きだったけど」

「なんなんだよッ……なんなんだよお前‼︎ なんで邪魔するんだよ⁉︎ ここは異世界だろ⁉︎ 元の世界となんの関係もないんだろ⁉︎ 元の世界で活躍できなかった分、こっちで頑張ってみてもいいじゃねぇかよ‼︎」


 呆れたようにつぶやくアザミに我慢の限界に達したのか、ここぞとばかりに不満をまくしたてる青年に、アザミの眉間に皺がよる。

 この異世界から来た青年はまるで理解していない。自分がもたらした知識が、どれほど恐ろしい可能性の扉を開いてしまったのか。魔術という、才能によって実力が上下する技術がはびこるこの世界に、才能無き者でも簡単に扱える技術が混入するという危険性を。そして同時に、扱いを間違えば簡単に人の命を奪える力が広まることの危険性を。

 虐げられる者たちが皆、善人とは限らない。募りに募った不満を爆発させ、己を見下してきた者たちに、そして己に同情しなかった者たちにもぶつけるようになれば、その先に待っているのは目も当てられないほどに泥沼と化した地獄である。

 そんな未来を予測するにはこの青年はあまりに幼く、世間知らずであった。


「お前さえ……‼︎ お前さえいなきゃ全部手に入ったんだ‼︎ モブのくせに! 脇役が主人公の邪魔してんじゃねぇよ‼︎ 死ねよクソが‼︎ 死んじまえよ‼︎」


 アザミは罵倒し続ける慎二に対し、何も答えない。

 聞くに堪えない罵詈雑言に反論することもなく、しかし真正面から聞き入れようとするわけでもなく、ただただ無言でその場に佇んでいるだけであった。

 そんな態度も、慎二は気に入らなかった。


「おい! いつまで無視してんだよ! なんとか言いやがれこのクソ……‼︎」


 震える足に叱咤して立ち上がり、さらなる罵倒を口にしようとした時、慎二の体にわずかな衝撃が走った。

 つい口を閉ざした慎二は、自分の体に感じる違和感に訝し気に眉を寄せ、何やら熱と気持ち悪さに戸惑う。勝手にあふれ出る冷や汗に恐怖を抱き、慎二はゆっくりと自分の体を見下ろし、激しく後悔した。



 失われた自分の両腕を目の当たりにして。



「ひ……ひぎゃああああああああ⁉︎ 腕っ…俺の腕がああああ⁉︎」

「……ハァ、あんたみたいのがいつまでもいつまでも現れるから、私はいつまでたっても休めないのよ」


 悲鳴を上げ、尻餅をつき、ドバドバと鮮血を噴出す腕を見下ろしてパニックに陥る慎二に、アザミは血のついた巨大な斧を肩に担いでため息をつく。

 彼女の身の丈をはるかに超える、分厚く広い純黒の刃を備えたそれは明らかに隠せるものではない、そして女の細腕で振り回せるものではない。突然現れたとしか思えないそれを片手で振り回し、目の前に立っていたにもかかわらず知覚できないほどの速度で振るわれたその斧を、アザミが地面に突き立てる。

 バゴンッ、と凄まじい轟音とともに地面が陥没し、蜘蛛の巣状に亀裂が入る。そこから察することのできる己の重量もそうだが、それを操るアザミの異常な腕力にも戦慄を抱かせた。


「てめっ……ふざっけんなよクソがぁ‼︎ ぃでぇ……俺の腕になんてことしやがるゴラァ……‼︎」


 だが慎二にはそれどころではなかった。明らかに出血多量で死にそうな傷を目の当たりにし、自覚した途端凄まじい激痛が襲い掛かってきたのだから。

 傷口を止めたくとも、両腕を斬り飛ばされているために抑えることもできない。できることと言えば、そんな真似をした張本人をこれまで以上にゆがんだ表情で睨みつけることだけだった。


「……ただでさえ、魔術なんてものが流行っちゃったせいで戦争の被害が拡大しているっていうのに、そこに火薬なって混ざったらどれだけ恐ろしいことになるか、考えたこともなかったのかしら? …ああ、そうか。あんたは殺す側じゃなくて殺させる側にいたものね。命のやり取りなんて縁遠い場所にいたんだもの……想像なんてできるわけないか」

「うるっせぇんだよぉ‼ ラノベの主人公だってやってんじゃねぇか……‼ あとちょっとで……おれが主人公になれたのに‼」


 今や慎二の顔から、徐々に血の気が失われ始めている。遠からず死に向かっているにもかかわらず、反省の言葉もなく罵倒し続ける慎二にアザミは嘆息する。

 そして数秒の沈黙ののち、彼女(・・)は我慢をやめた。




「いい加減耳障りだ、クソガキ」




 ケダモノのように魔女を睨みつけていた慎二の顔が、その瞬間凍り付く。

 紡がれたアザミの声が、全く別のものに変わっていたことに気づいたためだ。


「…………え?」


 慎二の目の前で、アザミの姿が揺らいでいく。

 魔女の周囲に奇妙な黒いもやがかかり始め、それに包まれた部分が変貌していた。グローブに包まれていた細い腕は、竜の腕を思わせる籠手に包まれたものに。細く華奢でありながら豊満であった体は、分厚い漆黒の鎧とローブに包まれた体躯に。

 半分を眼帯で覆った顔は、フードを深くかぶった竜の、あるいは鬼の仮面に包まれる。

 身の丈もすでに平均を超えていたそれを大きく上回り、へたり込む慎二には巨人のようにも見えるほどに巨大に変わっていた。


()はずっと……お前たちを監視してきた。この世界に知識()を持ち込むたびに、粛清すべきか否かを判断してきた……全ては、貴様のような愚者をこれ以上増やさないために」

「な…なんっ……⁉」

「そして貴様は選択した……愚者としての道を。命を踏みにじり、世界を蝕む道を。……ゆえに俺は、ここに来た。己が役目を果たすために」


 慎二はもう、怒りも忘れて目の前の異形を凝視するほかにない。

 不愛想で傲慢な魔女と思っていた女が、得体のしれない鎧とローブの大男に変わっていく光景を目にし、思考が停止してしまっていた。

 気だるげなアルトボイスも、雷が轟くような低く恐ろしげなものに変わっていて、凍り付いたように動けない慎二にとっては恐怖以外の何物でもない。逃げる事さえも許されないような、そんな覇気を真正面から受け、慎二は下半身に湿り気を感じながらその場に縫い付けられていた。


「貴様は此度、選ばれたのだ―――罰を受ける、罪人としてな」


 鎧の大男の左目が、ギラリと赤く光を放つ。血のような鮮やかさでありながら、底知れない闇を感じさせる色の光が、紫色に染まっていく空の下でただ一つ灯る。

 気づけば、慎二の周囲にも闇が迫りつつあった。夜の闇ではない、先ほど地面に入った亀裂から黒いもやが生じ、へたり込む慎二の全身に絡みついていた。まるで地の底から伸びた無数の亡霊の手が、罪人である慎二を引きずり込もうとしているかのように。


「ゆる…許して………も、もぅあんたに手なんか出さないから……‼ あの子にも近づかないから……だから……だがら……‼」


 ボロボロと涙を流し、体を震わせながら懇願する慎二だが鎧の大男は歯牙にもかけない。

 淡々とした様子で青年の罪状を読み上げ、大地の亀裂から噴き出した闇に促して愚かな人間を覆い隠していく。


「貴様に下す刑は痛み……貴様がもたらした毒で奪った命の分、そのすべてを体験することだな」

「ぅあ……ああぁあぁああ……‼︎」


 もう慎二の体から、一滴の血も流れてはいなかった。

 なのに慎二は悲鳴を上げ、体にまとわりつく闇から逃れようと藻掻き続けている。顔色も死人のように、いやもはや死者の色に変わり果てているのに、一向に青年にこと切れる様子はなかった。

 老人のようにしわくちゃに歪み切った顔となり、肘から先のない腕を伸ばす青年に、鎧の大男は吐き捨てるように告げた。


「永遠に死に続けろ」


 その言葉を最後に、慎二は闇の中に完全に呑み込まれていく。

 死ぬことも許されなくなった哀れな青年を取り込んだ闇は亀裂の中に消えていき、跡形もなく消え去ってしまう。慎二が流した血も涙も、一切の痕跡を飲み込んで地の底に消えていく。

 まるで小早川慎二という存在を丸ごと消し去ってしまったかのように、夜へと変わり始めたその空間は静けさを取り戻していた。


「…………古来より、自ら賢者を名乗る輩が賢者であったためしはない。人よりも優れた力を、人にはない力をひけらかし、そうでないものたちを見下し嘲笑う。それが賢者と呼ばれし異世界人共(ドリフターズ)により創り出されたこの世界の理だ」


 己以外誰もいなくなったその場で一人、鎧の大男は語る。

 その声が向けられるのは、今まさに消えてしまった慎二か、それとも別の誰かか。


「故に()は、こんな狂ったくだらない世界を創造した()自身を、最初の異邦人(・・・・・・)として嫌悪を以って名乗る……」


 暗い闇へと変わりゆく、多くの命が奪われた哀しき地にて、彼は自分自身に吐き捨てるようにして告げた。

 己自身に、言い聞かせるように。


「―――創世の賢者と」

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