ある聖書の一節
お初にお目にかかります、春風駘蕩と申します。
オリジナル小説は中学生以来ですが、皆様がご不快にならない作品となることを目指して精進いたそうと思います。
お目汚し失礼位いたします。拙い作品ですが、どうぞお楽しみください。
それは、もう世界から神々の神秘が消え去って久しい時のことであった。
遠き地より現れた、神々の叡智を自称する者たちが現れたことにより、世界はゆっくりとよくない方向に進もうとしていた。
力を持った欲深き人が、己が欲望を抑えること敵わず、隣人の物を欲しがり奪い合うようになり、その悪しき心が広がって大きな戦が始まった。
多くの者がそれによって命を落とした。生まれ出でたばかりの赤子も、心優しき若人も、慈悲深き乙女も、皆例外なく儚き命を散らし、赤き血潮を大地の染みへと変えていった。欲深き者たちは狡猾にして、自らの手を汚すことなく他者を傷つけ貶めて、己一人の幸福の身を求めるばかりで、世は荒れに荒れていった。
しかして戦は終わることなく、死にたえるは人ばかりではなく数多の命さえも脅かされつつあった。獣が、鳥が、虫が、草が、水が、土が、あらゆる生けとし生ける命が死にゆく定めに捕えられ、されど欲深き者たちは争うことをやめなかった。
すべての命が滅びへと向かう暗黒の時代に、ある異邦人が足を踏み入れた。
獣の顔を持ち、白き衣に身を包み、いと高き背をお持ちの方であった。
遥か遠き地より参られたその方は、かつての神々の神秘をその時代に蘇らせた。枯れゆく大地に命の息吹を宿させ、朽ち果てるばかりであった草木を芽吹かせ、腐りかけた河川を甦らせ、倒れた人々に活を取り戻させた。
彼の方は仰った。
「我は旅人、遠き地より流れて参った者。
我の力は己のものにあらず、また其方らのものにもあらず。
しかして我のものであり、其方らのものである。
命の力は万人に与えられるもの、そしてそれらは己のみのものにもあらず。
草木は土を食み、獣は草木を食み、人は獣を食み、土は人を食む。
命とは繋がれゆくものにして、独占されるものにはあらず。
人の子よ、忘るるなかれ。
命は別の命と共に在るもの、そして永遠に世界の流れの中に在るものなり」
彼の方の教えは多くの人々を救い、滅びに絶望していた人々は感謝と畏怖を彼の方に贈った。
しかしその時、戦に明け暮れ疲弊した欲深な者たちは怒りに燃えた。
神々の神秘を我らによこせ、支配者たる我らにこそその力は相応しいと。
多くの欲深な者たちが彼の方を手中に収めんと、他の無垢なる命さえ毒牙にかけんと迫った。
清められた大地を再び汚さんと、押し寄せて来る欲深な者たちに向けて、彼の方はついにお怒りになられた。
「命の流れを断ち切る者よ、自らの価値を貶め愚弄する者たちよ。
報いを受けよ」
彼の方がその手を振るうと、世界が彼らに牙を剥いた。
大地は割れ、山は火を噴き、海が荒れ、欲深な者たちを飲み込んでいった。
彼の方の怒りは凄まじく、その炎は全ての罪人を焼き尽くすまで治まることはなかった。
人々はそれを畏れながら、敬いもした。
正しき人を救い、悪しき人を裁くその姿はまさに、神々の降臨の再現に他ならなかった。
その炎が消えたとき、彼の方は再び旅に赴いた。
遠き地にて現れたる、神々の叡智を自称する者たちを討たん為に。
彼もまた、流れ往く世の中の一片であるがゆえに。
彼の方に救われし者、導かれし者はその教えを自らも広めていった。
彼の方の願いを後世に伝えるため、はたまた彼の方の望んだ世を創造するために。
貴き知識を伝え、神々の神秘を宿し、後の世の礎を築かれた偉大なる彼の方を、人々は畏怖を以って、創世の賢者と呼んだ。




