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女神様、もっと他にいいスキルはありませんか? 

作者: きのい

 俺は死んだ。ほんのつい先程の事だ。


「――ぷっ、相変わらず面白れーわ。これ来週どうなるんだろ……って来週また休載かよ」


 くそ暑い夏の日の午後、俺はクーラーの無いボロアパートから逃げ出し近所のコンビニで漫画を立ち読みしていた。買わずに立ち読みで済ませるくせに、ああだこうだと評論家気取りで文句だけは一人前につけていく。そして読み終わったらトイレで糞して何も買わずに帰るんだ。ふふふ、なんという外道。なんせ俺は将来、ニート王になる男だ――「ドンッ!!」


ん?ドンッ?? 心の中の効果音が現実に聞こえた気がして顔を上げると――目の前にはトラックが迫っていた。


「へ???」


 ――こうして俺の短い人生は終わりを迎えた。居眠り運転のトラックがコンビニに突っ込むという痛ましい事故の被害者として、惜しまれながらこの世を去った。

はずだったんだが……



「目が覚めましたか?」


 コイツは誰だ? ああ、俺は奇跡的に一命を取り留めたみたいだ。じゃあ、ここは病院というわけか。そしてこの娘は白衣の天使! しかもちょっとカワイイじゃないか! 好きです!どうか僕と結婚して養って下さい!


「いやー、カワイイなんて照れますね。あ、ちなみにここは病院ではありませんし、あなたはもう死んでますよ。あと、全然タイプじゃないんでごめんなさい」


「へ? ……じゃあここは天国とか?」


「厳密には天国とはちょっと違うんですが……まあ似たような場所です。申し遅れましたが、私は女神アルテと申します。さて、時間も限られてるので手短に用件を伝えま――」


「あー、なるほど! 全て理解しました! つまり俺を異世界に転生させてくれるんですね。わかりました、是非行きましょう! 異世界に行って俺TUEEEEしてハーレムライフを手に入れます!」


「……いや、まあ、動機が不純なのが気になりますが、だいたいそれで当ってます。それにしても随分と順応性が高いんですね、話が早くて大変助かります」


「ええもう、ラノベでバッチリ予習してましたから。いつ呼ばれても大丈夫なように働かないで自分の番が来るのをずっと待ってたんですよ! さあ、早く俺に反則級のチートスキルを与えて下さい!」


「……そ、そうですか。じゃあこの中から一つ選んで下さい」


渡された紙には色々なスキルの名前が並んでいた。名前を見る限りは、どれも強力そうなスキルばかりだ。どれにするべきか……これは迷うな。いっそ全部欲しい。


「あのー、貰えるのは1つだけですか? 特別に2つとか……」


「ごめんなさい、どれも特別なスキルなので」


……ちっ、ダメか。


「……今、舌打ちしましたか?」


「いえ、まさか。女神様に向かってそんな事するはずがありません! そんな事よりスキル名だけだと決められないので、効果も教えて貰えないでしょうか」


「露骨に話題を逸らしましたね……まあいいでしょう。全部を説明している時間は無いので――そうですね、5つまで。気になった物があれば言って下さい」



5つか…。慎重に選ばないと。

「じゃあ……この『鋼の肉体』というのは?」

「そのスキルを持つと筋力が200アップします。」

おお!これは当りな気がする

「そして知性が100下がります」

ただの脳筋だった……



くっ、1つ無駄にした気がする。

「じゃあ、この『鋼の精神』というのは?」

「それは、どんな痛みにも耐えられる精神力が手に入るスキルです」

「おお!つまり無敵ってことですね!」

「いえ、ダメージは普通に受けるので、無敵ではありませんよ。しかしスキルレベルを上げる事で、痛みを快感に変換できるようになります」

ただのドMだった……



あれ? なんか、思ってたのと違う展開だな……

「じゃ、じゃあ、このいかにも強そうな『邪眼』ってのはどんなスキルですか?」

「あ、それ気になっちゃいました? お目が高いですね。そのスキルを持つと額に3つ目の眼が開いて凄くカッコイイんですよ! あと視力も1.0ほど増えますよ!」

邪眼の視力1.0じゃねーか! ……あと何でこの女神、急にテンション上がった?



もっとマシなのは無いのか……もう少し無難なのも聞いておくべきか。

「えーと、これはだいたい予想付くんですが一応……この『勇者』というのは?」

「それですか……そのスキルを持つ者には、魔王を倒す使命が与えられます」

「え? それだけですか? ステータスが凄く上がるみたいなのは……?」

「はぁ……全く。あなたもですか。あのですね。本来、勇者というのは、勇者になったから強くなれるというような代物では無くて、長い冒険を乗り越えて心身共に強くなった人だけが辿り着けるモノなのです。なので、そもそもそういったボーナスを目当てになろうとするようなモノじゃないんですよ。何の見返りも求めず、ただ世界を守りたいという強い想いこそが人を勇者足らしめるのです!」

な、なんかもっともらしい言葉で諭されてしまった……



「あ、そうだ。簡単に強くなりたいのなら良いスキルがありますよ」

「え? あるんですか!?」

「ええ、『魔王』というスキルです!」

「……なんか、聞くまでもなくヤバそうですが……一応教えて下さい」

「このスキルを持つと全ステータスが3倍になります」

 おお、やっとチートっぽいスキルが来たー!

「その代わり世界中から嫌われて、勇者からも命を狙われます」

 嫌過ぎるわ!!



「さて、これで約束の5つを説明しましたが、どのスキルにしますか? 勿論、今説明したスキル以外の中から選んで頂いてもいいですよ」


……なんでこんな外れっぽいスキルばかりなんだよ。この中から1つ選ぶなんてとても無理だって……。だからといって、説明も聞いていないスキルを名前だけで選ぶのも今までの流れ的に危険過ぎる。一体どんなデメリットを背負わされるか、分かったもんじゃない……。


「あ、あの……女神様、もっと他にいいスキルはありませんか?」

……すがるような思いで、最後の望みを賭けて俺は女神様に願う。


「……はぁ、仕方ないですね。じゃあ、特別に1つだけオマケです。宜しければこの中で私が1番オススメするスキルを御紹介しましょうか?」


「は、はい! お願いします女神様!!」

なんだよー!そんなのあるなら最初から教えて下さいよー。


「そのスキルとは――」

チートスキル、カモン!!


「『死に戻り』です!」

……ん?


「このスキルは凄いですよ! 死んでもゼロから異世界生活を――」

「うん、もうわかった!わかったから、それ以上は……」

……とんだ地雷スキルだった。



「あ、いけない! もうこんな時間じゃないですかー! ……さて、すみませんがそろそろ旅立ちの時です。これ以上時間を掛けていると大事な合コ……神様会議に遅れてしまうので、今回だけ特別に、先ほど説明したスキルを全部まとめて差し上げる事にしちゃいます! あなたの新しい人生が幸せに満ちたものになるよう、女神アルテの祝福を――では、行ってらっしゃいませ!!」


「はい??? あと絶対今、合コンって言ったよねぇぇぇ~……」



「――はっ! ……ここが、異世界か?」

気が付くと、俺は異世界に居た。


異世界に着いた瞬間、女神様から与えられたスキルが一斉に発動する。

「うぉぉぉ! 力が漲って来たぁぁぁぁぁ!」

「あー!無性に魔王をぶっ殺したいぜぇぇぇぇ!」 

「邪眼よ! 魔王はどこだぁぁぁぁぁ!」

「はっ! 魔王は俺だったぁぁぁぁ!」

「見つけたぞ! 死ねぇぇ、魔王!!」

 ――ザクッッ!!

「フハハ、たとえ心臓を貫かれた所で痛みなど感じ――グフッ……」


――そして俺は、()()死んだ。

瞬間、『死に戻り』スキルが発動する。



「――はっ! ……今、俺は死んだのか……?」

その瞬間、女神様から与えられたスキルが一斉に発動する。

「うぉぉぉ! 力が漲って来たぁぁぁぁぁ!」

「あー!無性に魔王をぶっ殺したいぜぇぇぇぇ!」 

「邪眼よ! 魔王はどこだぁぁぁぁぁ!」

「はっ! 魔王は俺だったぁぁぁぁ!」

「見つけたぞ! 死ねぇぇ、魔王!!」

 ――ザクッッ!!

「フハハ、たとえ心臓を貫かれた所で痛みなど感じ――グフッ……」


――そして俺は、()()()()死んだ。

瞬間、『死に戻り』スキルが発動する。



「――はっ! ……ま、また俺は死んだのか……?」

その瞬間、女神様から与えられたスキルが一斉に発動する。

「うぉぉぉ! 力が漲って来たぁぁぁぁぁ!」

「あー!無性に魔王をぶっ殺したいぜぇぇぇぇ!」 

「邪眼よ! 魔王はどこだぁぁぁぁぁ!」

「はっ! 魔王は俺だったぁぁぁぁ!」

「見つけたぞ! 死ねぇぇ、魔王!!」

 ――ザクッッ!!

「フハハ、たとえ心臓を貫かれた所で痛みなど感じ――グフッ……」


――そして俺は、()()()()()()死んだ。

瞬間、『死に戻り』スキルが発動する。


…………

…………

…………

…………

「フ、フハハ、たとえ心臓を貫かれた所で痛みなど感じ――グフッ……」


――そして俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……………………

瞬間、『死に戻り』スキルが発動する。



「……ハァ、ハァ……も、もう嫌だ、誰か助け……」

その瞬間、女神様から与えられたスキルが一斉に発動する――


「……ふふっ、()()()()()()()のね」

「ねぇねぇアルちゃん、さっきから何見てるのー?」

「ん? こないだ転生させた人間を見てたのよ」

「へー、どれどれ……うわぁ、なんか無限ループにハマっちゃってるじゃん……。

 これってスキル同士が干渉してバグってる感じ?」

「ええ、そうね。色々つけたらどうなるのかなーって、試してみたの」

「もう! こういう事があるからスキルは一人一個までって決まってるのにー」

「そうね、次からは気を付ける事にするわ」

「で、コレはこのままでいいの?」

「別にいいんじゃないかしら? 誰にも迷惑を掛けてないんだし」

「まあ……それもそっか。それより一緒にお昼食べに行かない?」

「ええ、いいわよ」

「やったー! ねぇねぇ今日のオススメはオムライスだってさー」


ふふふ……夢にまで見た異世界生活、()()()楽しんでクダサイね


「アルちゃーん、何してるの? 早くいこーよ」

「はいはい、すぐに行くわ」

 

あなたに 女神アルテの祝福を――


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