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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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一ジュの巨雷




 戦闘なぞあまり興味もないから、四手赤玉に籠もって黄幻の七に任せていたら、黄幻の五の追撃をかわすことに成功した。


「わははっ助かったぞ、黄幻の七!なんだ貴様は逃げるのは早いではないか、よくも私を怖がらせたものだ!」

 私は気を良くして、先ほどまで居た黄幻の五の地を振り返る。

藍闇の空は変わらないが、黒地に連なる地表の底にいくつか大穴が開いている。

向こう側に大穴が五つ、手前側に大穴が七つ。

領地を示す単純な力による刻印。

七の領地なら穴が七つ。

五の領地なら穴が五つ。

境にある穴の個数で領地を決める、彼ららしい単純な発想だが、その大穴が私が七の領地に逃げ延びたなによりの証となる。

攻撃の心配がないとはなんという至福なのだ。

「うむこうでなくては」

 安心したところで、外界に意思を広げると、微かな眩さを感じて天候の変化に気づく。

 暴風と厚い密度の水素に覆われ、目印さえも見つけ難き荒野。

普段ならそれで終わりだが、今はそこに僅かに予兆があった。

すうっと厚い大気を透視すると、大気の上空に、紫電がまるで身震いするかのようにのたうち、時折青白い光を発している。

なんだ、……巨雷の前触れか。

これはいつもの現象だから、何も心配しなくていい。

私が空を仰ぎ見ると、七も巨雷に気づき、上空に僅かに顔を向け背中の紋様を白く明滅させる。

「避雷発光の準備か、雷は見慣れたものだがこの身に受けるのは初めてだな」

私がぼやくのも束の間、七は地表にまで急降下し、落雷に備える。それを待っていたわけではないだろうが、やがてのた打っていた青電は眼下に繋がりを発し、その身に蓄積してきた力を解き放つ。

『一ジュの巨雷』この星では日常的な自然現象だ。

 考える間に、磁場の高まりによって放出された莫大な電流が帰還雷撃となりて、高空から幾重にも落ち重なり、惑星数個を軽々と内包できるほどの巨雷が遥か先の空を裂き、地表全てが真白に染まる。

 --雷光によって白一色に断絶される視界、地表ごと消し飛ばすような衝撃と、巨大すぎて静けさを残す雷音、しばらくは音を認識できそうもない。

この巨雷は一ジュの間によく起こる。

今は当たらなかったが、巨雷によって地表の半ば以上が雷撃に包まれることも多い。

この世界は雷と共にあって、だから彼らの音を感じる機構はついていない、むしろ音圧を遮断し身を守る構造になっている。

 一撃目は当たらなかったが、今の様子じゃ今回の巨雷は長く続き、次の雷は地表全てを呑むだろう。

七は避雷のための繊棘を地に突き刺し、その周囲に固圧を具現させ、続く雷に備える。

 『億齢』も同様に避雷発光を始めたらしく、地表の内部から表面に掛けて網目にも似た白華を浮かばせ、雷を大気中に受け流そうとしている。


 もう見慣れた核融合生物の営みを見つめながら、私はふと考える。

 一はどこに行ったろう?

なぜ七は黄幻の一を連れていないのだろうか?

七には、一という相棒がいるのに本拠地に戻った今になっても姿が見えない。

 この世界での強さの順列は首領になると、基本的に数字の大きさで決まる、四から八までの首領の内、最も強いのは番号の大きい黄幻の八だ。

八は他の追随を許さぬほど、強い者がなるため、他の名付き個体では勝ち目がない。

 そこで七以下四体の首領は八に抗するべく、自分と相性のいい固有名付きの相方を連れている。

それが首領の腹心ともいうべき固有名持ちの下位番号個体、一、二、三、四の1、四の2の五体。

 七は一と組むことで八と戯れ、六は二と補い八と相打つ、五は三と合わせ八に抗し、四だけはなぜか四の一、二、三の三体で衆を成し、八と隔絶する。

 とどのつまり、四と八を除き二体一組の8と成ることで、どの首領も最強である『黄幻の八』と戦う力を得る。

その首領と共闘し、力を貸す者のことを私は“合一個体”と呼んでいる。

 黄幻の七は普段から『黄幻の一』という素早く近接特化の個体を連れているが、どういうわけか今は『一』の姿が見えない。

 一は戦闘狂だし、七をつけ回していたから、これだけ戦闘が続けば現れるはずなんだが、……領空に戻っても未だに現れないとなると、黄幻の一はどこに?

 姿が見えない一に思いを馳せる内に地表全てを呑み込む巨雷が止み、七は避雷発光を解き、暴風の中をまた滑空する。

無養の地は一見してもなだらかな平野が続く面白みのない土地だ。

これは飛んでる“億齢”の層流剥離を防ぎ揚力を保つための地形要件だが、しかし今は、平野のあちらこちらに強い緑光が灯り、豊かな光が満ち溢れる。

灯し続ける緑は味方を示す彼らの言語だ。

 彼らの言葉の基本は敵を示す『赤光』、味方を示す『緑光』、そして食べ物の岩石を示す『白光』この3つの単語の組み合わせから始まり、僅か40語と少しを数えたところでその文化を閉じた。

 視力が弱いせいで、あまり長い点滅は伝達が難しく、それ以上の言葉が生まれなかったのだ。

 彼らの視神経は何故か赤より黄光の方が視認しやすく、その大切な黄光を名前に使ってしまったのが良くなかったんだろう。

 あちらこちらに灯った味方を示す緑光に感化されるかのように、黄幻の七の総関節にも緑光が灯り、領地にいる疎らな集団の中に降り立つ。

 そうして地に降りると、超臨界流体のうるさいくらいの轟きの中、一つの個体が急速に接近し、藍闇から浮かびあがるように黄幻の七の前に現れる。

 黄幻の一かとも思ったが、形状を見る分に黄幻の一ではなく、七の配下の最上位の中位個体の一体だろう。

 七の配下は七の名を呼んだあと、私の四手赤玉に気づいたのか、私に鋭利で無機質な面立ちを向ける。

感情の存在しない均質な黒色のみの相貌。

 私はそれを見、配下は赤玉を見る、妙な睨み合いを続ける内に、核融合生物の中で何か感情の動きがあったのか、唐突に火孔を吹かせ、腕の瞬影を閃かせる。

 腕を上げた?なにか意味があるのか?私が訝しむ間にも複層石墨とも言うべき黒腕が高々と跳ね上がり、名も無き核融合生物は火孔によって横殴りの暴風に抗した姿勢で、無造作に赤玉に豪腕を振り下ろす。

「ん?」

 唖然とするような鋭撃、硬質な指先は私の入った四手赤玉にぶつかり、鈍重な音を立てる。

猛撃だった。

幸い壊れはしない、“縛”の熱による結合は遠方からも粘るため衝撃に強い。

 しかも四手赤玉は彼らの指より硬いのだ。しかし攻撃?これが割れたら私は……。

「負けやも?あわわまて殺すな、いいやいやいや」

 二手か、二手か?この個体は私に恨みがあるのか?

 なぜ私は攻撃された?攻撃ならなぜ繊棘を出さない?

わからないが、名もなき個体はその一撃のみで手を止め、イィンと強い音をだしてなおも私を注視しているのがわかる。

黄幻の七も自らの腕に加えられた攻撃だというのに微塵も揺るがず、ワイス機構を断続的に発光させ同じように意識を私に向ける。

 そして

「熱圏……だな」

私をくるむようにして、気温が急激に上昇していき二千百炉に達すると、熱圏に白い光が浮かび上がる、固圧攻撃の第2準備段階である白靄の輝きだ。

 その強烈な光渦の間から、『躍散』の熱エネルギーが飛来し四手赤玉に揺さぶりをかけてくる。

どういうわけか彼らは繊棘ではなく、回りくどく“散”の熱によって、四手赤玉を融解しようとしてるらしかった。

 熱の対流を防ぐための殻固圧の形成も始まったが、しかしそれで僅かながら私に猶予が与えられる。

 元々四手赤玉のような四手子の混ざった構造物は、四手子特有の対宇宙への歪みが電子の動きを阻害するため、融点や比熱が高くなり、熱伝導は低くなる。

まあ、表宇宙の物質が近くにあるとそちらには散の熱伝導率が良くなるが、少なくとも四手子には散熱が伝わりづらい。

 それでいて、この四手赤玉の中には私のエネルギー総体があって『縛』の熱エネルギーが濃いから、融解されずに済んでいるようだった。

 私に恨みがあるのならもうどうにもならんが、繊棘を使わなかったことを加味すれば、恨みではなく文化的要因だろう。

 彼らには戦う気の無き者を殺す習俗があるから、私の入る赤玉を生物と判断し私の力を試しているんじゃなかろうか。


 もし力試しなら私の強さをわからせられれば生き残る可能性はある。

 問題は力の見せ方。

赤玉に入った今の私にできることは、余白操作で核融合生物の力を借りることだけだ。

 私はその者に拒まれない限りは、電磁波によって核融合生物のワイス機構に波長を合わせ、余白を借りて固圧を扱うことができる。

 これは私の力というよりは、彼らのワイス機構に初めから定められている機能だ。

 核融合生物の核融合は一瞬毎に莫大な力を発生させるため、エネルギーを放出しきれなければ死に至る。

普段はワイス機構が核融合の余剰エネルギーを逃がそうと、無意識下で、大気中の四手子を適当に温めたり結合させたりして浪費している。

その無意識下の領域こそが余白領域だ。

 その余白はとても広いために、彼らが意識的にワイス機構を使っていても余白領域は使い切れていない。

そして核融合生物のワイス機構は、波長さえ合っていれば同調が可能で、私はそれを利用し余白領域に接続し、固圧を扱うわけだ。

 近い距離で、接続を切られなければ……と言う条件付きでだが。

 私は自分の出す電磁波の波長を好きに変えられるため、普段なら“億齢”のワイス機構を介して、どの個体にも“余白操作”が行えるが、赤玉に入った今の私が、ワイス機構に接続できる範囲は大体一フォア程度、彼らの身長程度しかない範囲だが、目の前の黄幻の七の余白領域なら借りられる。

 さて、あとは拒否されなければなんとかなるが。

「借りるぞ七、ワイス機構を、拒否はするなよ?」

 電磁波を介し、ワイス機構に接続すると七は受け入れてくれたようだ。

おおよそ半径十万フォア内の四手子の動きが精密に再現され、まるで景色を眺めるかのように情報を映し出すことができる。

 ワイス機構の探知方式は電磁波の反射を利用しているが、ガス惑星内は大気密度が濃いため、普通に電磁波を飛ばしても減衰してしまい遠くまで届かない。

 ただ対宇宙側のこの位置は真空に近い閑散とした宙域のため、対宇宙側を経由して電磁波を送る分には減衰がほぼない、だからワイス機構は四手子の歪みを対宇宙側から探査をすることで正確な四手子の情報を得る。

欠点としては、四手子の歪みを探知しているため、四手子無き物質の探知はできないことだ。

一応表宇宙側にも電磁波を飛ばし、情報を得ているが、こちらはガス惑星の厚い大気の影響であまり効果はない。

 文明が発展し、四手子の問題に片をつけて、他の惑星に仮に進出することになったら、表宇宙での電磁波探知が役に立つだろう。

 そうして映った情報を確認する短い間にも、四手赤玉が熱されていく、周りの水素は既に一万炉を超しプラズマ化しているが、熱伝導の低い赤玉表面の炉はまだ四千炉、そこから四千百、四千四百と上がっていく、融点は七千炉だから、まだゆとりはあるが、融点に達したら溶けてしまうから、あまり悠長にはしていられない。

 熱の上昇に耐えられる時間は少なく機会はあまりない、力を示せれば生き、示せなければ死だ。

 そして私は冷静に、しかし、最早自分でも理解不能な一手を打つ。

それは---



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