世代の終わり
二手が七に伝えてくれるか確かめるために、私は二手のくれた精神感応を使って二手に接続する。
それは一応二手の内心も覗き見れるから、使われている内は嘘はつきようがないし、接続を二手が切ればこの話は無しになる。
二手もそれを分かるから、私の告げた条件を素直に七に伝えた。
世界が憎いなら赤玉を壊せばいい、そうすれば世界は滅びる。
世界を残したいなら岩を壊せばいい、そうすれば世界は残る。
単純な質問も言葉を持たぬ七に伝わるまで、それなりに時間がかかった。
二手の感応が終わり、七がワイス機構を光らせる。 見た限り洗脳もしてないようだから大丈夫だろう。
さて七はどうするだろう?
岩と赤玉、壊すのは--
凝視していると七は壊せば滅びる赤玉と存続させる岩を見て、無造作に私の赤玉を掴む。
赤玉を壊す……となると滅亡か
私の諦観をよそに、それはあっけなく終わった。
七は無造作に腕を振り、赤玉を思いっきりぶん投げたのだ、もう一つの岩に向かって。
映るのは迫ってくる岩、私は四手赤玉を全力で硬くし、衝撃に備え、次の瞬間に激突、赤玉がぶつかった衝撃で岩が割れてしまっていた。
それはそうだ斑四手赤玉はエネルギーを喰う代わりにかなり硬い、翻ってこのあたりの岩は四手子にマグネシウムやケイ素の混じったモノで、縛熱少なき四手子は強靭性もさして無いため、赤玉とぶつかって耐えられるわけがない。
赤玉が残ったのはいい、世界は存続だ。しかし、これはどうとればいい?存続を喜べばいいのか、投げやりな決め方をした七を責めればいいのかを決めかねていると、二手が僅かに緩んだ言葉を出す。
『投げたか、いいのだ四手の主』
「何がだ?」
『我は彼らを気に入った故、彼らの文化の根底を貴女に教えよう』
「ほう?」
『この結果でも、彼の者らは決して貴女を赦してはいない』
「それは……貴様の推測だろう?」
二手の心を見てみたが、あろうことか、二手は精神感応を遮断していた。
しかし妙だな、彼らが私を憎むのは納得するが、あの二手が彼らの味方のようになるのはおかしい。
さっきまでは彼らに無関心だと言っていたくせに。
それを少々不満に感じる。
「ふん、だったらなぜだ二手?なぜ七は滅びを選択しなかった?一生痛いのがヤなんだろう?不味いのがヤなんだろう?おかしいじゃないか、辛いなら滅ぼせばいいこんな世界」
私の反論に二手が言う、「それこそが彼の者等の文化の根幹だ」と、文化の根幹?
「意味がわからん、わかるように言え」
『四手……いや、シーフォア、苦痛しかなく、戦いだけが興味となるような世界では、生物はどのような解を導き出す?』
「わからん」
『解は幾つもあるだろうが、彼の者等が導き出した答へは、我慢比べだった』
「我慢比べ?……なんだそれは」
『貴女は果てしなく残忍な世界を作り出したものだ。 神経を灼く永劫の激痛、吐き出したいほどに不味い食事、食料は豊満につき、何もせず生きられるが、だがそれ故に退屈だ』
「他二つはともかく、食料が多いのはいいことだろう、そこを悪く言われるのは心外だな、彼らは戦争で遊んでおるではないか」
『飢えさせるのは、何も悪いことではない。生物は足りないが故に進歩し、食を求めるが故に退屈を忘れられるのだ』
「そんなの餓死させる理由にはならん、それに……退屈したらしたで、その分、楽しい文化を作ってくれると思っていたんだが」
『そういった文化が生まれればよかったがな、手っ取り早いのは戦いだ』
「それはまあ、そうだが……、言いたいことは終わりか?」
二手は私が納得してないとみて、言い聞かせるような波紋を投げかける。
『聞け四手、さればこそ我慢比べだ。彼の者らはこの世界が苦痛だからこそ、他者より長く残ることに意義を見出した、種を保存するために』
「よくわからん」
『いま一度言う、彼の者等の本能が、生きるために一つの文化を作った。
苦痛な生に耐えることを善とし、死を恥とする文化だ。
それ故に戦争は優しさとなる』
戦争が優しさ?
……それまでつらつらと聞いていたが、その言葉でストンと理解できる。
残忍な世界、戦争が優しさ、種の保存、我慢比べ、それを繋げ合わせて納得する、……彼らの戦争参加の規定は子育期が終わり、種の保存に影響がなくなってからだ。
成体を迎えた者たちがそれにあたるが、つまり二手の言う我慢比べとはそういうことなんだろう。
我慢比べは本当に種を保存するために、種に刻まれた本能が導き出した文化だ。
苦痛にまみれ、何一つ希望のない生活では皆自死を選び種が全滅してしまう。
特に今の彼らは雌雄同体で繁殖力がない、幼体の死が多くなれば数を回復できなくなる。
だから、種の本能として、幼体期と子育期は我慢して生きる文化を作った。
我慢して生き、自ら死ぬことを恥とする、そういう文化だ。
それが成体にまでなれば、種としては死んでも構わなくなる。天敵のいない彼らには成体は不要だ。
そこで種の保存本能がもたらす束縛がなくなるが、だが彼らのような高次生命は高い知性を有している。
幼体期からずっと与えられてきた価値観は簡単には捨てられない。
彼らは成体になっても我慢して生き、……だから、戦争は優しい。
成体は戦争を続ける、成体は死にたいが、幼少期から培われた価値観により自分では死ねない。
それでも戦争ならしかたない、戦争になれば生き延びるために必死で戦う、だが、負ければ死ぬ、殺される。
己の意思に関わらず。
戦争は意思に関わらず死なせてくれるから、彼らにとっては救いなのだ。
彼らの文化には死にゆくモノに投げかける言葉が二種類ある。
一つは赤・白・緑の『汝の死を讃える』
もう一つは赤・白・赤の『汝の死を嗤う』
今までは戦った内容などで決まると思っていたが、我慢比べを根底に考えると多少は理解できる。
恐らく最後まで全霊で戦えたかが基準だったのだろう。
最後に力を抜き死を受け入れてしまえば、死を嗤われ、最後まで生き抜こうとすれば死を讃えられる。
「なるほど、それで我慢比べか、ありがとう二手、さらに彼らへの理解が深まった」
『礼か、見下げた女だ、彼らに罪悪を感じぬのか?貴女の作った生命はこの宇宙で最も凄惨な環境で生きる。あの痛みは尋常ではない。我をして非道だと考えるなぞ初めてだ』
んー。
「いや、自死の権利は与えてるんだ。生まれてすぐ死ねば耐えることもないだろう?一応最低限の規定は入れてあると思うが」
『最期まで言い訳か、仕方ない、貴女の意識の浸蝕を開始する、貴女を殺せるのは清々しい気分だ』
そういって二手は連絡を絶ち、私はつと考える。
二手の言動が妙だったな、ついこの前まで憐憫などないと言ってたくせに……偽善者め。
でもまあそうだな、……少なくとも、今後この世界を自慢するのはやめよう。
自慢はやめる、私の世界は最低だ。
そう考えていると七が赤玉を拾って、また腕につける。
さっきの選択の仕方は実に彼ららしい。
石と赤玉、二つの選択がぶつかり合い、赤玉が勝った、だから世界は残る。
七も強かったから残っているだけで、感情は関係ない。
皆死にたいのに、全力で生き、強いから残る。
理に叶っているような叶っていないような、変な価値観だ。
さてもうじき私の生も終わりだ。二手が私の意識総体を食い始めたんだろう、まずは潜在意識の膜の繋がりが絶たれてしまう。
原初生命の精神は広大すぎるため、喰うと二手の精神も薄まる、だから私の全体ではなく矮小な考思及び意識総体と記憶素子だけ喰って去るつもりなんだろう。
喰われ損だが、強さに差がある以上まあしょうがない。
あとどのくらい保つかはわからんが、少しは考えられそうだ。
……飛び始めた七をチラッと見る。
私と違い七は生存競争に勝った。
称号も格上げだな、発固期九代目の勝利者は『未来を駆使せし地表域の平定者』だ。
未来視は欠点が多すぎるために、駆使するを付けるだけで破格の褒め言葉だ。
なんせ他の者は『未来視に呑み込まれし弱者』やら、『未来視にて落ちぶれる者』だったのだから、駆使できるのならすごいことだ。
……世代の終わりが終わると、生き残った者は次の八に討たれるまで、戦い続けることになる。
八としての在り方は本来“億齢”との合一で学ぶ。
それができない者が八になると、四・五・六・七の任命ができず、来た者と死闘をし殺すだけになるため、世代が始まらないのだ。
昔、八でもないのに名を付けようとした面白い平定者がいた。
結局挑んで来た者より僅か強い程度であったため、名付けた後も執拗に狙われ、最終的に打ち倒された。
八が“億齢”との合一で得るのは知識と逸脱した核融合炉の出力。
彼らの文化は力が全てだから、圧倒的な力量差で屈服させた後でなければ、首領としての名を与えることはできない。
だから世代の終わりを生き延びた首領が次の世代を作ることはないのだ。
七はどうなるかな、八ではないから、どうしたって来た者を殺すしかないが、億齢がほとんどの成体を殺した後だから、長く生き延びるかもしれん。
成体無き暗き空を見ながら、そんなことを考えていると、七がコツコツと指で赤玉を叩く。
「なんだ七?」と答えてから、言葉では伝わらんか、と何となく笑う。
ほうっておくと七のコツコツが続いて、それを読み解こうとしたが、どうしたって私にはわからない。
言葉が無いというのは不便なものだ。
私が死ぬまでは近い、そうしている間にも、二手の統合が進み、考えるのも億劫になってきた。
潜在意識を喰われても、私の顕在意識が残っている間は、二手の潜在意識を借りてこうして考えることも可能だが、考えを維持するのも大変なのだ。
潜在意識を間借りしている状態で、接続が切れたら私は死ぬが、私はそんなヘマはしない、潜在意識を喰われてる間はまだもう少し時間がある。
その時間に何を考えようか。
七のコツコツはしつこく続いている、私が試しに、『七』という発光をしたが、コツコツは止まらない。
他にも緑光球、黒霧を出したが、七は赤玉を叩き続ける。
わからんから無視し、ふと下を見ると、遥か眼下に七つの大穴が空いていた。
……七の領地の目印だ。
そういえば私が七と会ったのもこの辺りだったな、と思い、なんでだか微かに寂しくなった。あの時に戻れたら幸せなんだが。
私が死んでも世界は永く残るんだろうか。
赤玉を叩く七の指のコツコツを聞きながら、死後のことを考えていると、彼らに何かを告げたくなる。
どうせ音は伝わらないから、余白を借りて、緑緑赤『耐えろ』をできる限り生成し、核融合生物たちに見えるよう空に解き放ち、解き放ってから思う。
なにか違うな、これじゃない。彼らだって恨んでる相手に言われたくはないだろう。
私が悩んでいると、七がまた赤玉を叩く、この叩きは最後まで意味不明だった。
どうせやれることもないから意味を考えようとし、思考の取り留めのなさから……ついに顕在意識が喰われ始めてることに気づく。
顕在意識は意識の表層の領域で、喰われ始めれば早い、というより既に死んだようなものだ。粗雑さが増し考えが遅くなる。
……遅く?遅くなる、……億劫だな、それならもういいんだ
考えられる意味もないし、元々やれることもない。
私は彼らを見つめるだけの存在だから、居てもいなくても特に変わらない。
ただ理屈でいえば、顕在意識がダメになるとすぐに兆
……ん、顕在、その、あ、顕在いしの……だから、あ、……ーん。
…………ん
……う?あ……こえは……、もじき死ぬな、もじき……、
もじき、となえ、……よは、く、そさし、
彼ら、本当にお、りたかったことば、
しろ・白、シロを発し、七が呆れたのか、指、コツが終わって、まんぞくした。
しろ、みっつのいみは--
『』だから、幸せに、ねがう。
--わたしの生をここでおわろう




