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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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境界の極華




 もし彼らに文字があれば、今回の事象はどう扱われるだろう?

 大地の怒り?それとも世界の終わりや、あるいは信仰にまつわる何かだろうか。

 激痛により怒り狂った“億齢”は、初めて核融合生物を敵視した。

 八万二千の核融合炉の内三分の二ほどを使い、固圧の造成を始める。

 波統では細部はわからんから、光学を使って確認をする。

 空域の攻撃の兆候を探したが、先ほど七と二が戦っていた地点には今のところ変化はない、 五と六の戦闘地点も同様。

 五軍、六軍の戦い全体を見渡しても影響はない。

 ……怒った割に何もしていないのか?訝しみつつ、視点を高くすると、地表すれすれに固形物の雪崩が出現し、地表を飲み込むように転がっていく、そこから視点を上げた時には、各所で撃発固圧生成が始まり、先ほど何もなかった地点、低空から超高空に至るまでに、見渡す限りの物量攻撃が広がっていた。

 広大すぎる配置だが、危険空域としては質の低い三ツから四ツ程度、『連縮白華』はナシ。

そういった意味では、八の配置に似ている。

 しかし内実は段違いだ。

 “億齢”の生成する固圧は、“過熱波”が介在している関係で生成までの速度が速い。

 また長い時を生きてきたために、生成成功率も完璧に近く、悪天候や悪条件下でも普通に生成可能だ。

 阻害系に属する八の無力化でも恐らく“億齢”の固圧の邪魔はできない。

 多少効くのは、『三段防御』や『筒六輪一路』等の妨害系だろうが、それも完璧には決まらないために多少延命するくらいにしかならない。

 そして、重要な変化は『過熱波』と組成純化の影響で弾の質と速度が段違いに上がっていることだ。

 そのせいで殺傷を与える有効射程が普通の倍近い、十八フォア。

 彼らの回避は被弾も織り込んでの方法だから、有効射程の違いは重要だ。これに気づかず避ける者は死ぬ。


 その『境界の極華』は、全域に吹き荒れ、私はまず巻き込まれた六軍と五軍の様子から観察する。

 極華が出現した時、彼らは混戦の最中で、四分の一ほどは格闘戦をしていた。

 格闘戦の空域一帯に極華が生成されたわけだが、文化的に格闘戦中に、遠距離から手出しをするのは礼儀に反する。

 これは中々強い文化規定であるから、中には叱責を示す光言語を灯す者もいて、今のところ極華が現れたことの重大さには気づいていないようだ。

 しかし、彼らとて戦闘種族、それから僅か後、生成された白華の量と、白靄から白華に移る速度を把握した瞬間に危機を察知、皆、一斉に格闘戦を中断し、退避行動に移る。

 格闘戦を神聖視する彼らが格闘を止めるのなら緊急性はとてつもなく高い。

 そこからの動きは急だった。阻害のための電磁波を飛ばす者、妨害のための固圧を生成する者、回避に自信のある者は弾幕密度の薄き空域に全力で飛び去り、下位個体は右往左往するか、全てを諦め殻固圧を身に纏う。

 果たして正解はどれだったか。

 極華が空を蹂躙していく、高度すぎる白輝の前に、阻害は意味を成さず、妨害は間に合わず、探知個体も攻撃対象を見つけられない。

 右往左往した者はもとより、回避をした者も、普段とは違う長い有効射程にその身を穿たれ、試行錯誤の内に致命傷を浴びる。

 落ちゆく者、穿たれし者、天を分かつ命の散華……、最も生存率の高かった選択が諦めて殻固圧に籠もった者なのだから、運命というのは不思議なものだ。



 極華の蹂躙を天に映し出し、洩れ落ちた光に照らされる地、そこで七と二が最後の戦いを行っていた。

 “億齢”のいかな判断か、低空から超高空にかけては、極華の嵐を吹き荒れさせているのに、地表は静止固圧の大雪崩を流すだけで殺す気はないようだ。

 幼体や子育期の者たちは繊棘を地に刺しながら、火孔を吹かして硬き雪崩の超圧に抵抗している。

 二はその雪崩に押し流されながらも七に対して、繊棘を繰り出し抵抗を続ける。

 十六層の黒皮には大小様々な亀裂が空き、それでも速筋を駆使し腕をぶん回す。

 速筋がまだ使えてることから考えて、二はおそらく一度殻固圧に隠れたんだろう。

 黒皮の回りに修復とは違う四手子の固体が薄く張り付いていた。

 組成をみれば、極華とまた違う粗雑なものだから、間違いなく二の静止固圧だ。

 二の二手子が切れて来た頃、唐突に二手から通信が入った。 内容としてはこんな言葉のようだった。

 『六が死んだ、勝負は我の敗けだ』

 それを聞いて、つい笑ってしまう。

「ふふ、最後までなんとも無駄な勝負だ、彼らの世界には私も貴様も必要ないらしい、なんと愉快なことだ」

『ふん、貴女は世界に必要なかろうが、我には我の作った生命と文明がある。 最低限貴女を喰えればそれで良い』

 二手の負け惜しみを聞きつつ、私は二手を宥める。

 ここで宥めて置かないとすぐにでも私が喰われかねんしな。

「……まあ待て二手、もうじきこの世代も終わる、それまでは見よう」

『……待つ? まだ気づいてないのか? 我は貴女や彼の者らに憐憫を持つフリをしてはいたが、本気では憐憫なぞ感じてはいない。貴女の歓心を得る必要がなくなった以上、貴女の意識総体を喰って去るだけだ』

「だから待て、……貴様の負けがまだ確定したわけではない」

『……ほう』

「これは私からの温情だ。世代の終わりを生き残った成体に、世界を滅ぼすかを選ばせる。それで彼らが滅びを選択すれば、貴様の望むように、億齢を宇宙空間に飛ばそう……洗脳はするなよ?わかるからな」

 保証なき私の言葉に、二手は少し考えたようだった。

 そして了承してくれる。

『貴女を信用しよう……世代の終わりを刻限とする』

 信用は嘘だろう。多分損得計算の結果だ

 世代の終わりはもうすぐだ。 それくらい待つだけなら別に嘘でも二手は損をしないし、仮に本当なら得をする。

 そういった計算が働いたんだろう。

 二手は欲望に忠実であるから、ある意味扱いやすい。

 全てを手放せる者にとっては楽な相手だ。

 結果の見えていた二と七の一騎打ちは二手と話している間に終わっていた。

速筋を使い切った二は両腕を上げることができなくなり、七に頭部を貫かれたのだ。

 七は光言語の餞の言葉を灯した後、それからは地表の雪崩に耐えつつ、極華を見上げる。

 極華の瞬きは地にまでは届かない、冴えた大気の中、響き渡るのは雪崩と七の体が発する小さき音。

 動かぬ七に飽きた私は生き残っているもう一体の首領である五に焦点を合わせる。

 ……五は六の骸が消え散るのを見届け、殻固圧が溶け消えると、『境界の極華』が散華する空に飛び上がった。

 これはもはや狂気と呼ぶ他はない。

 別に五は防御や回避に関しては優秀であっても特異な首領ではない、極華に耐えられるような技術もないのに、なぜ極華の天に身を沈めるのか。

……しかし、私にはわかる気がする、五は『愚者の白柱』の頃からずっと理想を追い、高見を目指していた。

 戦闘中に気に入らない配置を捨てる理想の高さだけは知ってはいたが、五には言葉がないから、それがどんな理想かは私にはわからなかった。

だが『仇なす者の白錐』と今回の奇行で、おぼろげながら彼の理想がわかった気がする。

 多分五は、ずっと“億齢”と戦いたかったんだろう。

 『境界の極華』は、今出てきたモノではない、超高空を過ぎれば、いつでも見ることができた。

 超高空域は高いとはいってもワイス機構の認識範囲内に常にある。

 億齢はそこまで飛んだ者を撃ち落とし、殺してきた。

 五は『境界の極華』を常々観察し、そこで生成される“億齢”の固圧組成の高度さをみて、そこに理想を置いたんじゃないだろうか。

 どうして、地表がそれを行いし者だと気づいたのかはわからない。

 ただ五は頭の良い個体だから、何らかのきっかけでそれに気づいた。

 『愚者の白柱』では“億齢”を動かすには足りない、だけれども『仇なす者の白錐』で穿つことで、遂に“億齢”は五を敵だと認識した。

 そうして五は初めて理想に置いた敵と全力で戦っている。

 五は上昇すると、超高空の一カ所に再び『仇なす者の白錐』を組み上げていく、その辺り一帯の四手子を使い空間飽和を迎えさせることで、安全地帯と化させた。

 地表から出たのは多分そこを目指して飛んだのだろう。

 地表は、あくまでも“億齢”に生かされている場所で、“億齢”の気が変われば死地となる。

 だが空間飽和を迎えた空域の付近なら、“億齢”とて手だしはできない、それを見越して、五は超高空に向かう。

 驚いたのはその配置を組み上げる技術の高さだ。

 習熟では“億齢”が完全に勝っていて、五では“億齢”の白華を退けて生成はできない。

 ただ五は億齢の使えない『連縮白華』と配置技術を巧妙に駆使し、空隙を埋め、遠くから徐々に生成範囲を拡大させることで、白錐の雛型を作り出した。

 これは神がかり的な技術力で、正直、配置技術だけなら億齢を軽く超越する。

ただ悲しいかな……彼は傑出した天才であるだけで、億齢と比べればその生体が限りなく矮小だった。

 五は空間飽和で作り出した安全地帯につく前に、三ツの危険空域に捕まった、恐らくは有効射程が長くなっていることは把握していたんだろう。

 回避の幅をあげそれなりによけていたが、極華を初見で対応するのは難しすぎた。

 回避できたのは最初の辺りだけで、時間が経つと極華に直撃する回数が増え、低空を越えるまえに火線が集中、穿たれた五の身体からは、推力が消え、ゆっくりと引力に引かれて堕ちていく。

 “縛”熱の供給を絶たれた彼の身体が光の飛沫に変わるまでは、そう長い時間かからなかった。

 ……七は五と違い地表から決して動かなかった、地に留まり、静かにワイス機構を使って極華の動静を見上げていた。

未来視によるモノか、それとも慎重さによるモノかはわからない。

 ただ一つわかることは、七には危険を好む部分は少しもない、ということだ。

 七は『地表域の死火』だから危険嗜好。地表域で戦う彼を私は昔そう判断し、今も僅かに考慮にいれていたけれど、七にとってみれば、それは危険でもなんでもない、鍛錬の場に過ぎなかったんだろう。

 少なくとも類い希なる回避の力を持ってしてなお、極華に近寄らない七には、危険嗜好は似合わない。

 己を知る七と一緒に私は極華を見続ける。

 いつ止むかな、いま止むかな。

これは“億齢”の初めての怒り。

 “億齢”はどこまで彼らに愛着を持っているんだろう。

 成体はどんどん殺されている。

 その憤怒は止まる気配がない。

ただ、見方を変えれば天は死地でも地表は安全だ。

 “億齢”は幼体や子育期の者のいる地表には攻撃を加えていない。

 それは“億齢”の理性と愛情の発露に他ならず、少なくとも億齢は核融合生物を認識し、共存する意思はあるということになる。

 それなら大丈夫だ。

 “億齢”の極華の洗礼は長く続き、怒りが止んだのか、空からは極華が消えていった。

 ……初めての怒りでこれくらいで済んだのなら上々だが、心の方向を間違えさせないように、“億齢”の精神を動かし、非常に強い不快感を芽生えさせておく。

 その精神的不快感の強さに“億齢”は動揺したのか、まるで幼体たちを保護するように、地表全体を淡い白靄で包んだ。

 その淡い光は、虐殺された命を戻さない無意味で無価値な慚愧の印。

 そんな数多の命を代価に引き出した“億齢”の虐殺へのトラウマこそが、私がこの世界にしてやれる最後の助力だ。

“億齢”が他者を虐げるこの苦しみを覚えていてくれれば、私がいなくとも酷いことにはならないだろう。

 そうして私は赤玉から七を見あげ、二手に話しかける。

「さあ二手、世代の終わりも終わりだ。生き延びた七に褒賞として、世界を滅ぼす権利をやりたい、彼にその旨を伝えてくれ」

『方法は?我の赤玉はもう無いが』

 聞かれて周囲の地盤を見渡し、手近な岩を見つける。

代わりはあの岩でいいか。

「七が私の赤玉を壊せば世界を滅ぼす、あの岩を壊せば世界を残す、それだけでいい、無関心なまま去られても、それはそれ存続させる」

『わかった、七に伝へよう』




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