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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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先天性皮離難化症





 “億齢”なら耐えてくれるのはわかっていても、巨大な白錐が飛沫を吹きあげ、地表に近づいていく様を見るのは落ち着かない。

 かなりの高所から落ちているために、まだ時間はかかるだろう。

 気を紛らわす意味で、六に追われる五に視線を向ける。

 五の身体からはほんの僅かだが黒光が迸っている。

 ここにきて負の激情か、五と三の関係がどんなものだったかは知らんが、三を見捨てた五のことだから、三の死より、自分の力が落ちた。 という所に怒っているんじゃなかろうか。合一相手がいると習熟も早くなるからな。

まあ真実はわからんし、推測だけならどうでもいいことだ。

 白錐の造型が終われば、あとは縛熱だけで維持できる。

 五は白錐を維持しながら補助思考の一つで軍円、もう一つで大気を薄くする固圧を維持し、残り一つの思考で六と相対する。

 主思考一つと補助思考二つ使っているから、残りは補助思考一つか、思考数は固圧の同時使用可能な種類に直結するから、地味に不利……いや、まあ何も言わん。

 自分とほぼ同格の三が負けた相手に思考一つで戦うんだから、勝てるわけがない。

 『三段防御』はまだ生きている、降りしきる固圧の雨の中、六は猛烈な速度で五に迫り、五はそれに抗する術もな……、いや少々意外な方法で対抗する。

 六が猛烈な速度で突撃をかけ迫る中、流れてきた白華が五の周囲を覆い、大きめの殻が五を囲むように顕現される。

 身を守るための殻固圧だ。

 僅かに遅れて届いた六の体躯に殻が激突し、次いで加えられた巨爪の一撃は殻固圧に穴を開けたが内部にまでは届かず、衝撃を散らして殻が吹っ飛んでいく。

 引き抜かれた巨爪には固体まじりの四手子が粘りつき、六が巨爪に火孔の荷電粒子を吹き付けると、固着した四手子が気化し、巨爪が本来の鋭さを取り戻す。

 一瞬の時間の消耗、六は吹き飛んだ殻に追いつき腕を叩きつけたが、既に殻固圧の穴は塞がった後だ、殻固圧は武器の長さより分厚くすれば、武器固圧でも貫き通せない。

 特に巨爪型の武器は攻撃の角度や指の開閉状況によって貫通距離が変わり、今みたいに開いていると貫く途中でどこかしらかが引っかかる。

 外殻に守られた五は、六の攻撃を遮断したものの、飛翔力を無くし空から落ちていく、これはなかなか良い判断だ。

 殻固圧で身を包んでしまえば、内部を熱されて死ぬ。

 しかし、熱殺は殺すまでに時間がかかる。

 だから一瞬で殺されるくらいなら、粘れる熱殺の方が得なのだ。

 六はもう一度分厚い殻に巨爪をめり込ませてから、諦め、殻を叩き落とし、落ちて小さくなっていくそれを見送った。

 そして背のワイス機構を点滅させ、熱殺を始めながらも、今度は遠い戦場に熱を飛ばす。


 遠くに何がある?遠いと視覚で見つけるのは難しいため、しばらく七のワイス機構で探査すると、ようやく六の熱操作地点が判明する。

 場所は三万八千フォア先、地表高一フォアから八十フォアまでの地表域。

そこに数千の『虚仮威しの巨砲』が生み出され、戦いあう二体の核融合生物に撃ちこんでいく。

 戦う二体の核融合生物は七と二だ。

 視点を赤玉に切り替えると、周囲に巨砲の嵐と白華群が映る。

 そして七は地表から八十シーの高さを飛び、地を走る異形と戦っていた。

 二の見た目は普通とは違う、身体の火孔は後背に開いた数カ所しかなく、十六層もある黒皮が弛んで垂れ下がったせいで、間接部も潰れ、まるで盛り土のように見える。

 背面火孔に当たる裏の壱、参、弐、緑を除き、火孔の開閉口が存在しない異常個体だ。

 これは『先天性皮離難化症』という病気によって、本来誰しもが持っている、黒皮を剥離させる機能を失ったことに起因する。

 その結果、黒皮が八層で剥がれず九層を超え始めると、垂れ下がった黒皮によって火孔の開閉機能が阻害され、身動きがあまりできなくなる。

 背にしか火孔がなく、地表から飛び立つ術をもたない、『地這いの防御術者』にして、『片無双満』の片割れたる六の合一個体だ。

 そんな二の武器は異常発達した繊棘だ。

 彼はこの病気のもたらす、もう一つの弊害によって手首から下がなくなり、剥き身になった繊棘が延々と伸び続けている。

 これもまた黒皮の垂れ下がりによって、繊棘を分解できなくなったことが原因だが、繊棘は最も硬い物質だから武器として使うだけなら申し分ない。

 二は地表を高速で走りながら、七十八シーの長い繊棘を振り回し、七の攻撃を辛くも退けていた。

 一度ぶつかり合う度に、七の紅暗槍には傷が走り、しかし、去り際に槍を擦らせ、僅かずつ二の黒皮を削り取っていく。

 二には腕に火孔がないために腕の振りが鈍い、どのような動きをしようと敵の攻撃が直撃するため、なので格闘の方法が他の者とは違う。

 一つは対密の防御の流用、高位者には効きづらいが、敵の斬撃の軌道上に盾を出現させ、止めるか、速度を遅くする。

 次に相討ち戦法、二は腕の振りが遅いから守ろうとしても間に合わない、そのため敢えて繊棘では受けず、最短距離を通して敵を突き刺す。

 お互いに直撃する軌道を通すので、そのまま行けば相討ちとなるが、仮に相討ちになったとしても、二の黒皮は普通の個体の倍の十六層を持ち、抵抗が凄いから、大体はそれを嫌って敵の方から離脱してくれる。

 その上に六との合一で学んだ内部ワイス機構の習熟を彼も行っているので“蠢動”という技が使える。

“蠢動”は黒皮を裂いて進む刃を、黒皮を動かし挟むことで止めたり遅くすることができる。

 これに厚い体皮、対密での減速に、相討ち戦法を合わせることで、敵を手こずらせ時間を稼ぐ。

 その内に六が助けに来て、……というのが、二の近接戦闘のやり方だ。

 今までは時間をかせぐばかりで、それほどでもない戦法だと思っていたが、身体能力に長け、未来視を持つ七が慎重に攻めているところを勘案すると、意外と有用な戦法らしい。

 七は、繊棘の僅か届かない位置から、長さの利を生かし、数撃加えては後ろに回る。

 まあ背後に回ったとてさして変わらない、核融合生物の間接は前側に広い稼働範囲を持つが、ほんの僅かな猶予があれば、間接部の小片の位置を変え、後ろ側の稼働を広くすることができる。

 だからあまり後ろをとる意味はないが、二は火孔を背面にしか持たない性質上、後ろをとられると行動の選択肢が途端に少なくなる。

 七は高速走行する二に対し併飛しつつ後ろを取り、速度差にモノを言わせ、安全な位置から槍での攻撃を仕掛けていく。

 一方的な攻撃だが、さすがに未来視を持つ七がここまで慎重策をとる意味はない。

 七の未来視は鈍重な相手には強いし、七の性格を考えても単発鈍重な二相手には、未来視を駆使して無茶な攻撃を仕掛け、さっさとトドメを刺しているはずだ。

 となると、七は今のところ本気では殺そうとしていないんだろう。

 理由は漠然とはわかる、多分七は、六と五の戦いの結果が出るのを待っていたに違いない。

 それは七なりの配慮か戦略かはわからないが、六たちの戦いが終わって少し経つ今、動き出すなら--、そうやって私が考えた瞬間に、七がそれまで緩やかだった攻撃を苛烈なものへと変化させる。

 長き針山に防がれる槍の連撃、六の援護たる数千の巨砲が地を走る二者に猛撃を加え、岩片の噴き上がりが走路飛路を制限する。

 光の明滅、破壊の交錯、慣性と質量の爆ぜなりを地に引き去りつつ、鈍重なる者が決死の迎撃を続ける。

 槍を通さぬ双対の針山の防御に対し、どういうわけか七はもう一本槍を生成する。

 新たに生み出した槍は、まだ硬さが足りないために、殺傷力を持たない、だから生み出した理由は謎だ。

 七は双槍を振るって、三度の刺突を仕掛けたあと、ひゅっと、地表すれすれから双槍を突き出す。

 下から突き上げるように、二の後背に迫った双槍は針山状の左右の繊棘に激突、あっさりと防がれる。

 そして七が両手を離すと双槍は落ちることなく、二の繊棘に刺さっていた。

 それは繊棘の取っ掛かりで外れなくなったようで、引き摺る形になった双槍は地に二つの跡を残し、二は外すのに悪戦苦闘している。

 なるほど、槍は四手子でできているから尋常ではなく重い。

 むろん火孔の推力なら運ぶのは容易だが、その火孔を持たぬ二は遅筋のみで、槍を持ち上げなくてはならない。

 遅筋も力はまあまああり、自らの腕だけなら難なく動くし、それなりに重い物も持てる。

 しかし、自らの身長より長い超重の槍をくくりつけられては、遅筋では抵抗できない。

 七は両腕を拘束された二を見下ろし、繊棘を出して頭部に強襲。

 二は速筋を働かせ、拘束された両腕を跳ね上げるも、未来視を持つ七には難なくよけられ、時間稼ぎ程度の意味しかない。

 速筋は数回使うと使えなくなるが、一応二も二手子の含有量が多い個体のため、二十回程度は使用可能だ。

 二はほとんど使えなくなった両腕を七接近の度に振り回し、牽制し、さしたる時間もかけずに十六回分が消化され、……もう数回で、七に殺される。

 その瞬間、大地が鳴動した。

 億齢は飛んでいるため、普段から大なり小なり地震が発生している。

 しかし、今回の鳴動はそれまでの比ではない。

 とてつもない音圧の衝撃に遅れて、地表に伝わってくる激震。

 巨雷が落ちた時の方が衝撃は強いが、今回はそれとは別の余波が私に伝わってくる。

 私の総体は億齢の精神そのものだが、そこに“億齢”の痛みを表す波紋が広がっている。

 痛みの箇所と大きさを考えると『仇なす者の白錐』が億齢に直撃し、深くに刺さったことを示していた。

 ひとまず、“億齢”の脳に波統の持つ未来情報を送り、脳の判断を待つ。

 脳内麻酔による痛みの遮断は大きな傷を受けた際に脳の行う自然な反応だが、脳の得ている情報だけで一律に行ってしまうと、周りの状況によっては死を早める場合もある。

 そこで波統が持つ未来の情報を脳に伝達し、脳の判断の助けにする。

 今回脳の下した判断は意識は残し、一瞬激痛を与え、その後しばらくは痛みを遮断する……だ。

 ……そして、その痛みの後、“億齢”の心に湧いたのは、憤怒を示す波統の形だった。

 これはよくあることだ。

いつものように“億齢”の波統に働きかけ、怒りを鎮めようとし……、僅か躊躇う。

 “億齢”は長く生きている割に、感情はよく揺れ動く、精神管理に長けてくれば、そもそも悪い感情を持たないようになるものだが、ことあるごとに私が鎮静化させているから、精神の管理方法を学んでいないのだろう。

 億齢は精神が幼い。私が管理していた今まではそれでよかった、……ただ考えてみれば私が二手に喰われたら、“億齢”の精神は誰にも管理されない状態だ。

 億齢の精神を私が管理しないとどうなるだろう?

ちゃんと飛び続けられるんだろうか?

 ……考えるとやはり心配になる。

 こういう時試すなら、最悪の状況を作って見定めるのがいい。

 私がいる今なら、本当にダメそうなら止めることもできるからだ。

 『仇なす者の白錐』が奥深くに刺さり、億齢は怒っている、それならこの怒りを使えば、私がいなくなった後の“億齢”を見定めることができる。

 私はそう考え仕方なく、“億齢”の精神の整調を止める。

 すると、“億齢”の感じた怒りは、憤怒となり、憤激となり、億齢の幼い心が感じたそのままに荒れ狂い始める。

 波統の動きは大気の流れにも似ている、強い感情が発生すれば、他の落ち着いていた感情たちにも伝播し、動き回る内にやがて猛烈な勢力となる。

 “億齢”の内側で荒れ狂った激情はやがて吹きこぼれ、外部に吹き出し、その原因となった者たちに、怒りを叩きつける。

 地表の鳥と、その上に巣くう核融合生物、二者の間を分かつ白錐による亀裂が両者の闘争の合図と変わっていく。

 ……私は死ぬ前に、“億齢”と彼らの関係を見定め、死後も安定するよう何らかの対処を考えねばならない。

 それにはまず“億齢”の自然な有り様を知ってからだ。

 見ている内に、怒り狂った“億齢”が、核融合生物への攻撃、いや虐殺を始めたのだった。





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