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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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三と六と五と二





 七は未来視により結果を知りうる存在だ。

 彼が二を狙って動き出した時点で、対象を殺す準備ができている公算が高い。

 ……むろん未来は次々と変化していくため、敵が真っ当に強い場合、少しの動きの違いから勝ちの公算など移動中に消し去られるが、『岩翼下の忘王』の静止固圧陣地や『黄幻の四』の千の白橋のような変化少なき物、そして今回の『黄幻の二』のように、地力に劣り防御に依った者は未来視の餌食にされやすい。

 ……六が離れ黄幻の二が孤立した今、七がたどり着けば、粘りながらもいずれは殺されるだろう。

 そんな結果の見えた戦闘なぞ私は興味はない。

 二は七に殺されるものとして、六は二の『三段防御』が残っているその猶予中に、固圧戦闘の変革者たる五と、『相似の守護者』黄幻の三を倒せるかどうかが、戦いの鍵となる。

 三と五はどちらも固圧戦に関しては、最高の技術を持った個体のため、二の助けがある内でなければ六では近づくことさえできはしない。

 しかし、六もそれでいいんだろうか?状況を考えれば二を見捨てるのもわかるが、二と六は下位個体の頃から、合一を組んでいた珍しい存在だ。

『片にして無き、双にして満つる』と私に思わせた彼らが、最後の戦いで片割れを見捨てるのはあまり好きではない、……が、まあ、そんなものなのだろう。


 六は二を護衛している影響で、一万フォア辺りの平均飛行速の指標である最高シ速は低いが、全力を出した際の速度はもっと速い、少なくとも三百六十フォアは越す。


 それに対し、五と三のシ速は二百四十フォア台、追いつくのはそう難しくない。

 そんな六の当面の敵は三のようだ。

 六が五から五千フォア地点を超えた瞬間、前方の空域に、光輝く大気が流入してきて、無数の光が輪郭に具体性を帯びた形状にかわっていく。

 正四方に広がる煌びやかかつ明瞭な光、規則的に広がる光点が、広大な空域を飲み込んでいる。

 五ツの危険空域の低段である『追避の五ツ檻』、五千フォア先にいる三が、六を追い払うために攻撃を開始したのだ。

 五ツ檻内部には当然、空洞も混ざるが、基本的には綺麗な配列が並び、静謐な印象を受ける。

 それを無力化するのは『三段防御』

 暴風によって流れていく『追避の五ツ檻』の配置が、『三段防御』の固圧の雨にぶつかったものから、形が砕け曖昧な広がりに戻っていく。

 『追避の五ツ檻』と『三段防御』どちらも高位の習熟段階にあり、ざっとした目安だと、七段階中六段目で、ほぼ互角だ。

 そうすると先に作った方が忌避反応の分有利になるが、二の『三段防御』は、静止固圧の落下と空洞を利用することで、忌避反応を避けることにある。

 結果、先に作った『追避の五ツ檻』が優位とはならず、習熟の比べ合いは膠着し、大半は無効化される。

 三割ほど生成には成功しているから多少の直撃も受けるだろうが今のところは六が有利だ。

 一応五なら『三段防御』は無力化できるが、彼の気分屋な点が仇となり、今のところその様子はない。

 さっさと『三段防御』を無力化しないと、……意外とあっさり三と五は殺されるんじゃなかろうか。


 私の見立てどおり、『追避の五ツ檻』は『三段防御』に潰されて、特に効果らしい効果をあげていない。

 降雨と縮擬で七割方配置が崩れてしまえば、それはもはや危険空域でもなんでもない。

 白華の多い空域なだけだ。

 非護衛時のシ速三百六十フォアにも達する六の峻烈な輝影は、多少の減速を交えながらも白輝黒光の大流をかき分け、猛然と距離を縮めていく。

 六の周囲に現れる対密の防御の瞬き、複数の盾が顕現しては、飛来した超速の弾光とぶつかって弾の軌道をずらす。

 対密の盾は一シあたり十から二十ほど現れる。

 ただそれはあくまでも調子の良いときで、ここのように四手子が敵の支配下にあったりして、使える四手子が減ると盾の出現量自体が少なくなる。

 盾の綻びから、光の線が時折り入り込み巨体に激震が走る様は、かなり強引に見えるが、六にとってはゆとりのある行軍だ。


 しかし、少しすると、大気にそれとはまた違う兆候が現れる。

 散発的な火線を放っていた『追避の五ツ檻』の並びが崩れ、それとは違う、奇妙な歪みが混じり始めたのだ。

 現れた空隙は着実に広がり、五ツ檻が崩れたことで、危険空域としての殺傷力を落としていったが、その空白の生まれ方の歪みを見る分に、これは恐らく『追避の五ツ檻』が閉じられ『五ツ六ツの極限域』が生まれる兆候だ。

 普段は五が行うが、風の上流で追避の五ツ檻が閉じられる早さを考えれば、今回は三が独りで行っているのだろう。

 三単独では思考の個数を使いすぎてしまうために、五ツ檻と極限域の同時併用はできないからだ。

 広大な五ツ檻が畳まれ、六の遥か先の空域や風上に、五ツ六ツの極限域が横に長く広がっていく。

 これは攻撃を意図したものではなく、自分と六の間の空域に極限域を展開することで、時間を稼ごうという腹か。

 ……五ツ六ツの極限域は普通なら致死をもたらす技だ。

 それが前方の横に広く流れて配置されている場合、上下に迂回して極限域そのものを避けるしかないが、それを何度も繰り返すと大きく時間を消耗する。

 しかも迂回された時のために、迂回した先には中位個体が飛んでおり、中位個体との戦闘に巻き込むことで時間を稼ごうという意図は見え見えだった。

 三は六に時間制限があるなど知りようもないだろうが、さすがに六は、二が死ねば三段防御が止むことを知っているだろうから、恐らくはその辺りの焦りがあるのだろう。

 通常なら避けるべき極限域を六は、無理矢理突破することにしたようだった。

 三段防御で弱めても、極限域までいくと勝手が違う。

 危険空域は位があがるにつれ、炸裂頻度が増え、立方体辺りの個数が多くなり維持が難しくなる。

 それの最終段階たる五ツ六ツの極限域は、五ツからさらに数を増やした、ある種の崩壊を前提とした配置だ。

 遣い手が五と三しかいない繊細な技術であるため、広範囲を崩す三段防御でなら簡単に崩せるが、崩れた極限域でも、大気の四手子密度は高くなる。

 つまり極限域を三段防御で崩しても、入った者の飛速は大きく落ち、静止固圧の瞬間生成や、撃発固圧生成の時短に使われてしまう危険な空間なのだ。

 そう考えていると、六が四手子濃度の濃い大気に突入した瞬間に、その濃い大気に“縛”熱が注ぎ込まれ、流体が凝縮、眩い閃光が宙を灼き、巨大な構造物が顕現する。

 生成された固圧群は、愚者の白柱の大幅縮小版ではあってもかなり大きい。

 しかしここは空中だから完全に行く手を塞げるわけではない、固定されていない大質量なら、彼らの推力を持ってすれば動かせる。

 巨大構造物は六の慣性質量を吸収した瞬間に吹っ飛び、回転しつつ、他の柱に直撃、雪崩をうって進路が開いていく。

 それは豪快な光景だが、当然六への反動も強い。

 目の前に現出する巨大柱に六がぶつかる度に目に見えて失速し、また加速を始めた所で柱の反動を受け、失速していく。

 それを繰り返す内、飛速低下を嫌った六の動きに変化が訪れる。

 こういう時、高位者でよく使われるのは構造物の一つに強い“縛”熱を注ぎ込む方法だ。

 近い位置の構造物を引力で引っ張り吸着し、構造物同士のバランスを崩させて、進路を開いていく……、そんなやり方だ。

 縛熱の注ぎ方によっては、少ない力で路が開くため、高位者は静止固圧の多い空域では労力の少ないこのやり方を好む。

 しかしそれほどの技量を持たぬ六が使うのはもっと強引な方法だ。

 六は巨大構造物にぶつかるそばから端を掴んで、速筋で自らの後方に押しやり反動を生むことで、推力を補い進む。

 稀少な二手子を使った速筋は使用回数が限られる代わりに、莫大な推力を生む。

 それで加速を補うことで、再び速力を増し、飛行に勢いが付いてくる。

 そうしながらも巨大構造物を、“散”熱にて弱め、脆い箇所なら貫き通し、重なりが深ければ、巨爪にて取っ掛かりをつくり、地表に投げ落とす。

 加速力の高い六は静止固圧に強い、減速する力の高い固圧でも、異様な加速力を持つ六への影響は軽微で、極限域が一つ突破される度に、三との距離が縮まっていく。

 いやさすがに極限域を通る六より三の方が速いんだが、まだ全体的に距離があったため、三や五が微量にしか移動しなかったのだ。

 そして一つ失敗が出た、“億齢”の僅かな姿勢変化と、遥かな風上で起きた水素爆発による気流のズレで、極限域の生成位置が変わり、六を阻むモノが刹那消える、六は猛然と加速し瞬間シ速三百九十フォアを叩き出して、一気に追いつく。

 気づくとその距離は僅か五百フォアになっていた……、こうなると本格的に五と三は不味いだろう。

 ここまで距離を詰められてしまうと、三段防御を無効化する前に六の攻撃が届く。

 五はいまだに戦闘を三に丸投げしている状態だ。

 三段防御を最初から素直に無効化してたら圧勝できたのに、六を無視していたがためにこの有り様だ。


 最後の疾飛を始めた六に、三は『落射の格陣』を作るも、これもまた『三段防御』で思った形にならず、三は覚悟を決めたようだ。

 ……五の逃走時間を稼ぐべく反転し、自身の上方に多数の網状固圧を展開する。

 そして三は水平に銃を構え、荷電粒子による超熱の粒子を引きつつ、断続的に火孔を噴かせて後退、短き水平飛行を繰り返し、銃の発射起点となる撃発固圧を広域に流し、六を待ち構えていた。




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