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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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近接の技術




 『区分不明者』が標的とした黄幻の六の格闘の強さは、彼しか行わない特殊な修練法によって培われている。

 普通、核融合生物は習熟を外部ワイス機構を支配下に置くために行う。

 本来独立して動いている外部ワイス機構を、強引に波統の制御下に置くことによって固圧生成を行う訳だが、黄幻の六は低温の炉しか持っていないために、外部ワイス機構の習熟を深めても程度が知れていた。

 そこで彼は外部ではなく、内部ワイス機構の習熟を始める。

 内部ワイス機構は体内にある目立たない器官だ。

 外界に干渉する力を持たず、身体の細胞の生成維持や、エネルギーの循環供給等を管理する生命維持機構で、少しの狂いで死に直結するから、動きの禁則が多く、自由度が少ない。

 それでいて想像力の関係でも習熟が難しいために、軽い習熟どまりの個体ばかりで、特化した個体は過去数体を数えるにとどまる。

 彼の場合、生まれつき火孔の流通路が狭かったため、特に電離気体の流通経路の拡大と、電離気体充填量、熱量を増やす修練を行わなければ動くのが難しく、必要にかられて習熟が行えたんだろう。

 それを克服してからなおも修練を続けた結果、彼の手に入れた長所は『加減速』、緩やかな速度から、一瞬の後には非常に高い速度に跳ね上がる超加速の他、瞬間シ速の高さ、急制動や転回能力も圧巻だ。

 つまり彼は巨体の割に俊敏で小回りが効く、その加速が他の者の常識から逸脱している故に、他者の対応より速く、攻撃を直撃させられる。

 そして格闘戦は一撃必殺だ。

 その峻烈な動きが独特かつ強力であるからこそ、相対した者に即座の死を与え、近接戦最強の名を欲しいままにしている。

 さらに二の『三段防御』が維持されている状態だと、敵は慣れない素の格闘能力のみで、彼と相対しなければならず、大抵は一撃で即殺される。

 初会即殺を体現したそんな彼の武器固圧は長く太い爪。

 平凡な武器だが、腕の振るう感覚を損なわないために、彼は常にこれを使っていた。


 そんな黄幻の六を相手にして、五軍内の近接最強個体『近接に執着する、区分不明者』がどんな戦い方をするか?

 その辺りに私は興味持ち、推移を眺める。

 ちなみに『近接に執着する、区分不明者』は、他者より動きの読みが冴えている、これは予測というより、天性の勘だろう。

 勘が鋭い個体は、大抵、軽度の未来予知能力を持つ。

 七の未来視との違いは、自意識である“考思”に絡んでいないため、未来を直接は見えないことにある。

 だから飽くまでも予感のみで、勘に従えてる内はいいが自分の行動と大きく乖離した判断結果がでると、波統の情報伝達能力がなさすぎるために、自身の不安だけを強く煽る結果となり、思考停止に陥りやすい。

 即断に優れるが、沈思に向かないのが情動による未来予知、つまり天性の勘をもった個体だ。


 そんな『区分不明者』の動きは予感と思考を出来る限り同調させるために観察を主体にしている。

 まだ六から遠い内に、レンズ状の配置を複数展開することで黄幻の六の動きを見極めようとした。

 しかし、『黄幻の二』の張る『三段防御』の固圧生成法により、固圧の雨が降り注ぎ、内部に増殖した粒によってレンズ状の近接配置の八割ほどが無力化されてしまう。

 八割無効化された近接固圧は本来、大した利を有しないが、無駄に火力を集中させているレンズ状固圧配置なら多少の効力を発揮する。

 『区分不明者』はレンズ状配置で六の動きの癖を見極めつつ、六から八百フォアほどの距離を開けて、加速を高め、相対速度をあわせていく。

 彼のシ速は三百二十、本来はもっと速い六に速度を合わせられるわけがないが、六なりに瞬間最高シ速を見せないことで駆け引きをしているのだろう。

 それは六が『区分不明者』を強敵と認識した証拠だ。


 六の背の発光と共に、巨大な四方形の白光体『角の足場』が大量に顕現、飛行進路上、その周囲に高空から数千飛来する。

 暴風によって、四角い巨大構造物は斜めの軌道を描き降り注ぎ、風鳴りの轟音を立てて過ぎ去っていく。

 こういった静止固圧による足止めは下位個体の多用する減速の手段だ。

 六の固圧戦闘能力の低さを指し示す事象だが、区分不明者は四角の巨大構造物を避けながらしばらく六の挙動を観察した後、少なくとも固圧では優位と踏んだのだろう。

 レンズ状配置を空域にひしめかせ、三段防御をもってしても、その火線、猛攻が六の速度を挫く空を作り出す。

 速度的な優位を得た『区分不明者』は、一気に上方向に推力をあげ六を引き離し、急制動をかけてから反転、中空に急峻な弧を描き、わずか二シ後に上方から下方の六に突撃をかける。


 区分不明者は基本的に相手を先に動かすのが好きだ。

 レンズ状配置で周囲への移動を難渋させ、上からは巨大静止固圧を自分の盾に使うつもりなのだろう。


 『区分不明者』の描く弧線の先を落ちていく四角い巨大構造物、それが『区分不明者』に触れた瞬間、弾かれたかのように回りだす。

『区分不明者』が『角の足場』を打突で回転させ、巨大構造物を交えて六の上方から強襲をかけたのだ。


……そこからの動きは私の統合視界でも追えぬほどに速かった。

 打突による急激な速度増加によって、巨大静止固圧が猛然と六に迫っていく。

 区分不明者の張り付く構造物の下には依然巨躯がいる。

 その構造物の下に向かって、レンズ状配置が連続して火を噴き、火線が構造物の周囲を十重二十重に穿ち抜き、私が輝きに見惚れた瞬間--唐突に轟音が響き渡り、区分不明者が盾とする巨大構造物が一瞬落下を忘れる。

 六が下から押し上げたんだと思うが私にはよくわからない、私は視界を構造物の下に移し六を探すも、しかし、下には何もおらず、私は視界を元に戻す。


 その瞬間『区分不明者』の思考には何が映ったのだろう。

 六は巨大構造物の下にいるはずなのに、彼は長き剣を下ではなく横、真左に勢い良く振り抜いていた。

熱操作と慣性により、紐に括られた幾重もの刃片が放出。

 解けたそれが殺傷の霞条鎖となりて遠い虚空を切り、白輝に照らされた空に、擦過が煌めいていく。

 美しささえ感じる攻撃だったが空を切り。彼はそれが真左に伸びきる前に、筋繊維内の二手子を化合爆発、速筋の強烈な膂力を使い、上空に向かい鋭き剣戟を見舞う。

 上を切った?六は下か横じゃないのか?……私が探す視界を上に上げると、直上に振った鎖刃の先に、それを片手で弾き、真横をすり抜け落ち迫る巨躯があった。

その光の残像がブレる。

 すごいな六、私には移動の経路さえ見えなかった。

 長き鎖剣の輝きに沿い振り下ろされる、獰猛な印象さえある巨爪。

 ……六の攻撃を把握していた『区分不明者』は、直上から振り迫る巨体に、思考停止、もしくは観念したようだった。

 周辺にあったレンズ状白華群から猛射を浴びせ、盾の破れ目から発弾固圧二発ほどが六の巨躯を撃ったが。

それは分厚い黒皮に阻まれ、次の瞬間には、振り下ろされた巨爪に『区分不明者』は首から一気に貫かれ、落下中の四角い巨大構造に叩きつけられた。

 情動に働きかける勘はどれほど強力になろうと、未来視とは違うために、確実に死ぬ状況から事前に逃げることはできない。

 いや不吉な予感くらいはしているんだろうが、さすがに具体的な情報がないままでは、それを押し殺してしまうことはままある。

 今の戦闘内容を考えれば、六と相対することそのものが、彼の失敗であったのだろう。



 戦闘は大して見えなかったが、六のしたことは推察はできる。

 ……六の生み出すあの四角い巨大構造物『角の足場』には所々に取手があり、六は速筋を使って自分を振り飛ばすことで、加速することができる。

 そこに他より速い超加速が足されるから私の視官からは消えたように見えたんだろう。

 この速筋含みの急加速によるメリハリのある動きが六の強さの根本だが、実は格闘戦では重要な技術となる。

 彼らの火孔や遅筋はどちらも一定の力で加速していくから、速度増加に大した振れ幅がない。

 それが終速度を迎えた時点で等速運動になり、速度が一定になるため、最大出力で飛んできてもなんとなく単調で動きが読みやすい。

 だから格闘巧者は、火孔出力を最大から七割ほどまでで行き来させ、そこに放出渦の変化などを交えることで、動きにメリハリをつけようとする。

個体によっては、推力は最大にしつつ、前面側の制動、つまり減速をかけながら、飛んでくる場合もある。

 敵に近づいた瞬間、減速をやめれば、加速が爆発的に高まったように感じさせられる。

 この加速の変化によって敵の不意をつくわけだが、食事の量によって二手子含有量の多い六はそこに速筋の動きを付随させることができる。

 速筋は化合した瞬間の爆発力を使うため、その最初の一瞬が最高速となり、加速の勾配が激しくなる。

 一撃で即死となりかねない接近戦に置いて、その急激な速度勾配は高い利をもたらすものだ。

 弱点としては、彼のような巨躯でなければ使用可能回数が数回程度と少ないことと、速筋はあくまでも筋力のため、踏み場のない空中では腕や脚の振りを速くするだけとなること。

 そして最も重要なのが核融合生物の場合、筋繊維がどちらかに最も縮んだ状態でなくては接続できぬため、速筋の使用可能な姿勢がわかりやすい。

 これは核融合生物の速筋が、水炭素生命と違って退化傾向にあり、繊維を働かせる際、わざわざ内部ワイス機構で筋繊維を繋げる必要があるからだが、例えば腕なら完全に畳んだ時か、伸ばしきった時にのみ使用可能で不意打ちに向かない。

 ただ、六は速筋操作自体にも習熟しているから、速筋を使える姿勢がやや幅広い。

 その速筋をつかって、巨大な静止固圧を掴んだり足場とすると、その反動を利用し、空中格闘中でも身体を急加速させることができる。

 ……六の格闘の強さは、二の『三段防御』による近接配置の無力化と、内部ワイス機構の習熟による加減速の異常増強、そして、静止固圧の踏み台を使った速筋による爆発的な急加速、この三点だ。

 正直、格闘戦で彼に勝つことは至難なので、先に二との連携を崩す方が現実的かもしれん。

 もし二が健在の内に格闘で勝つ可能性がある者がいるとしたら、今は亡き『黄四黒呼の3』。

彼の得意技、水素爆鳴気からの斬撃による不意打ちくらいしかないだろう。

 まあ、うまく決まっても相打ちだろうが、他の者では相打ちすら荷が重い、六軍自体と一番戦っていたのがその黄四黒呼の3だが、六とは相対する前に本拠に戻っていたから、本格的に戦かったことはない。

 ……邪魔者を殺した六は急進し、五軍の攻勢を『三段防御』で防ぎつつ、近づく者は格闘で仕留め、三と五を狙い接近していく。

 三段防御が消されない内なら、六は五にも優位に戦えるだろう。……しかし六は現在護衛している二から離れている。

 そして明白な弱点が生まれればあの者が動く。

 六と二と多く闘った経験を持つ首領、黄幻の七は、未来視による試行錯誤の末、遠方の地表を走る二に、一直線に迫っていった。



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