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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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追避の五ツ檻





 ただでさえ、“対密”の防御限界を超えていた集中砲火だ。

 それに対処し辛い『連縮白華』が加わったことで、六への直撃弾が目に見えて増え始めた。

 四方八方から超速の火線が集中し、盾の防御網の綻びから、一条二条と線が抜け、飛行する六の頑強な巨体に穴が穿たれていく。

 あの辺りは四ツの危険空域であるから、六の回避能力では手に余る。

 まだ致命傷は負ってないが、このまま、砲撃に曝されていれば死ぬだろう。

 首領同士の戦いとはいえ、今は遠距離主体の時代だ。

 遠距離で負ければ、相対することすら叶わず死ぬ。

 今代こそ格闘系の首領が多いが、発固期を見渡せば当たり前だが遠距離で決着することの方が多い。

 遠距離戦が誰より苦手な六は、二の“三段防御”が破られた時点で負けが確定したと言っていい。

 ふふ、見たか八め、私の見立ての方が正しかろう、やはり六が最弱なのだ。

 ……私が自分の予想の確かさに満足していると、六を取り巻く状勢に変化が起きた。

 高空で生成されていた『愚者の白柱』の分解が始まり、生成が停止、それによって防がれていた『三段防御』の内、“降雨”と“縮擬”が復活、二の防御法が息を吹き返したのだ。

 不思議に思って数万フォア離れた五の周辺を眺めると、五に対し、七が攻め上がり急襲したところだった。

 『一路の侵略者』もまとわりついていたが、七が襲ってきたことで、五のゆとりがなくなったんだろう。

 一時的に六への攻撃を止めていた。

 あのまま六が五に殺されていれば二手との勝負には勝てたのだが、七が妨害したか。

 だがまあいい、決着の時間が延びたということは、彼らが世界のことを考える時間も延びたということ。

 勝負が終われば私は二手に食われて死ぬし、考える時間があるに越したことはない。

 まあ実際は誰も関心をもっていないから、伸ばしたところで世界のことなど考えもしないだろうが。

 そう思いながら、久しぶりに赤玉に視点を戻し七の周囲の世界を観察する。

 七は最上位に近い格闘能力と身体能力、未来視にて致命傷を防ぎ、使い勝手のいい極小固圧で敵を仕留める、見ていて安定した効率の良い戦闘をする。

 そんな七と五の戦いを視界に映す。

 周囲は四手子濃度が濃いため、光学情報だけに頼ると四手子の塊が渦を巻き、暴風に乗って吹きつけてきて、情報の入りが悪い。

 仕方なく視官に映る光の明度を調整し、見やすくしていく。

 映像をいくら見やすくしようと、戦闘中は燦爛した光が超高速で動くだけだが、光の配列や弾け具合からして、七の周りは『五ツの危険空域』になっているようだ。

 それを把握してから、さらに視界を広げていく、この『五ツの危険空域』は広域で、近辺にいる五、三、七、『一路の侵略者』全てを巻き込むほど広大だ。

 となればこれは三の得意技『追避の五ツ檻』だろう。

 『追避の五ツ檻』は通常の危険空域と目的が違う。

 普通の危険空域は敵を殺すために、攻勢を激しくし、殺傷力をあげていく。

 しかし、『追避の五ツ檻』はそれと真逆に、あえて殺傷力を下げた危険空域だ。

 五と三は格闘が苦手だ。

 格闘最上位者と真っ向に戦ったら負けるため、彼らは危険空域の内部に避難することで、近づいて来た者を追い払おうとする。

 要するに、『追避の五ツ檻』は格闘上位者から逃げるための危険空域を利用した避難所なのだ。

 内部には三と五のための短い安全路が常時形成される他、房状固圧一種類を配して作られた配置は、同じ五ツ群の中でも比較的避けやすい造りとなっている。

 格闘をしに来た敵も五ツの危険空域は忌避するから、そこに逃げ込めば、ほとんどの者は追って来なくなる。

 よくできた格闘封じだが、しかしもちろん欠点もある。

 自ら生成した危険空域でも、固圧は固圧、自分の指示通りに破裂していくだけなので、自分も回避に失敗すれば当然傷を受ける。

 ただ敵の作ったモノと違うのは、大幅なまとまり単位でなら、発射直前で生成停止することができることだ。

 停止さえしてしまえば発射はされず、回避に失敗しても死なないで済むが、停止させるとその白華は自らの干渉下から離れ、簡単に他者に乗っ取られてしまう。

 また危険空域内の四手子濃度は上昇するため、内部に入っている間は、遠距離同士の撃ち合いには著しく弱くなる。

 しかし、遠距離戦が得意な五や三にとっては、格闘戦に持ち込まれるより、不利を背負ってでも格闘を拒否し、遠距離に徹した方が生存率が高い。

 『追避の五ツ檻』はそんな遠距離戦での不利を低減できるよう考え抜かれた危険空域だが、さすがに『面白味にかける双岩』の援護射撃が生きている内は危険だと判断したんだろう。

 五は遠距離固圧の狙いを完全に『面白味にかける双岩』に移し、防戦に回らせ、いやこのまま一気に仕留めるつもりだ。

 そして七とはいえ、『追避の五ツ檻』で敵を追うのは至難の技だ。

 五ツ檻は三の銃と相性が良い。

 銃の飛距離は長く、一撃必殺に等しい殺傷力をしているため、危険空域で進路の狭まった敵には、充分な脅威になる。

 こうして牽制をしながら、敵がなおも突撃してきた場合には、安全路を通ってひっそりと脱出、手の空いている五が『追避の五ツ檻』を『五ツ六ツの極限域』に変え内部の敵を殺害する。

 ……昔から七と五の戦いは、この『追避の五ツ檻』に七が侵入、一が危険空域の外を周り、五、三の脱出を阻む、そして七の周囲が『五ツ六ツの極限域』に変わる前に撤退する、そんな遊びのようなやり取りが過去、幾度も繰り返されている。

 ただそれは調停役の八が居たからで、七や五に戦う目的がなかったから。

『世代の終わり』には八の座を奪うという目的ができ、彼らは本気の殺し合いをする。

 だから私は『世代の終わり』が嫌いであったが、今はそれを見てから命を終えられることが、区切りとしては良いように思えた。

五と七の決着、それはどのようにつくのだろう。


 地表域で鍛えられた七には『追避の五ツ檻』は大した危険がない。

 しかし、五ツ群にまでなると、足留めには充分で、普通に回避をしていると、安全路を進む五や三に追いつけなくなる。


 七も入り込んだ当初はそこそこ近しい位置にいたにも関わらず、気づけば距離が離れてきていた。

 皮膚を滑る反射光はゆるい速度を示すように、緩やかに終端までを滑り切り、次の反射光が先端に映り込む。

 その移ろいを眺めながら、今は何も考えず光景を映す。

 何も考えたくないときは、映像に身を浸すのも良い。


 視界一杯に展開される光の群体、光の房が至るところで弾けては、中心部の水素ガスの爆圧によって弾が引き伸ばされたかの如くに急進。

 黒皮や赤玉に強い衝撃を残し、擦火を引き光空に墜ち消えていく。

 こういう時の七の動きは弾雨の圧力に押されて、普段では考えられぬほど鈍い。

 五ツ群を越すと回避だけでは足りず、妨害も駆使して生を得なければならない。

 七の放つ無数の極小固圧が、進行方向上の白華を穴だらけにして、生成時間を引き伸ばし、その引き伸ばしによって、房状の粘体は七からだいぶ離れてから爆散する。

 七の後を追うように連鎖的に爆発していく房状固圧、その様子は綺麗で美しく、魅入ってしまう。

 辺り一面の光の奔流。

爆散も全域で起きているような有り様だから、ワイス機構を持たぬ生命では何が起きているかすらも分からぬだろう。

 それは私とて同じ、視界だけでは情報の深さが足りない。

 ……しかし私が慌てなくてすむのは、彼らの皮膚は果てしなく頑丈強靭、なおかつ七が五ツの危険空域を苦にしていないおかげだ。

 超速超硬の弾の嵐とはいえ、黒皮を穿てるほどの初速をもつものは少なく、発射位置の近しいものだけを選別すれば、避けるのも可能となる。

 四ツの危険空域までは如何に速度を落とさず抜け出すかが大切だが、五ツの危険空域以降は妨害や阻害にて生き伸びる世界だ。

 この二つの差は、四ツ群なら頑張れば抜け出すことができるが、五ツ群以上になると移動を半ば封じられるため抜け出せない、だからひたすら生き延びつつ、敵が諦めるのを待つしかないのだ。

 その五ツ群の中を進める七は、かなり異常な存在だ。

 爆光が舞い散る空、しばらく変わり映えのしない光輝の散らばりを眺めてから、七のワイス機構に接続、状況を確認する。

 七は現在、危険空域の奥深くにいて追撃に難儀しているが、その僅か先では『一路の侵略者』が執拗に『筒六輪一路』を形成し、三と五を猛追しているようだ。

 一度失敗したのに飽きもせず五に食らいついているのが『一路の侵略者』らしいといえばらしいが、未だ五や三が対処できていない辺り相性というのは面白い。

 『一路の侵略者』と七が戦ったら、七が九割方勝利するだろうが、五や三にとっては、『一路の侵略者』の方が厄介に感じるだろう。

 『一路の侵略者』は、持ち前の六輪の妨害路を使い『追避の五ツ檻』の構成を破壊し、穴あき状態にしていく。

 彼が無理やりに拓いた路によって、七にも徐々に未来視を活用するゆとりができてくる。

 未来視は、激戦になればなるほど、覚えなければならない箇所が増え、効果が薄くなる。

 五ツの危険空域のように攻勢の激しすぎる場所では、未来視は役に立たないどころか現実認識を甘くする害悪でしかないのだ。

 しかし未来視は緩やかな戦闘には強い、攻勢が緩くなればなるほど、その特性が輝き始める。

 『一路の侵略者』が危険空域内部を穴だらけにしたために、七は持ち前の臨機の才と回避能力、身体能力、そして未来視を駆使し、致命傷の固圧だけを覚え込み、飛行の速度を速めていった。

 ……見慣れた五と七の戦いは、一の代わりに一路の侵略者が入ることで、私の知らぬ領域に向かい、徐々に進行を早めつつあった。




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