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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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筒六輪一路





 『熱礎の忙殺者』は普段、中位個体最上位や、敵首領を狙ったりはしない。

 実力の高すぎる敵を雑多な固圧攻撃で殺すのは至難で、戦争中ずっと狙っても倒せる可能性は低い。

 そこで彼は、下位個体や隙の出た中位個体を仕留めながら、実力者に対しては動きの邪魔をする程度に留めるのを基本戦術としている。

 そんな彼が今は熱圏を十数使って、『黄幻の五』の周囲に流して展開させていた。

 ……これはつまり、彼が首領殺しを狙っていることを意味する。

 熱礎に忙殺される者が操る熱圏にも種類があり、それは超広、広域、局所の三種に分かれ、それが次々に下位個体や、中位個体に譲渡され、白靄白華の連なりが生まれては弾けていく。

 譲渡と生成が織り成す攻撃の連環、それは五を仕留めるために展開され、着実に逃げ道を減らしていく。

 しかしながら熱礎の忙殺者は攻撃を集中させるだけで、その他の部分には関与できない。

 ただ譲渡の間隔や、阻害発生状況をかえることによって、譲渡対象を下位個体以上か、中位個体以上、中位個体でも高位の者、これを任意で選べる。

それで大まかに質を保ち、譲渡が終わればまた別の熱圏を生成し、譲渡を繰り返すことで、戦場全域の攻勢状況を采配する。

 普段は全軍が有利になるような差配を取るが、劣勢な今は敵首領を殺して一気に逆転をする作戦のようだ。

 作戦としてはただの首領殺しだが、それを導き出せる賢察を私は褒めねばなるまい。

 波統の助けがあっても、言葉少なき核融合生物には、文化は伝わりづらい。

 私のように文化を深く理解した者ならともかく、言葉無きこの世界で、現況を把握できる個体は少ない、どころか5首領制の仕組みや言葉を理解できず、ずっと野良でいる成体もザラだ。

 理解度を示す目安としては、今のところ、勢力に入る際、幼少期に教わった服従の言葉を話せるかどうかが、成体になった時の第一の試験になっている。

 まあ真似と叱責を主体に、単語のみで大ざっぱに伝えるんだから理解が難しいのは仕方ないが、勢力に入ったあとには第2の壁があり、軍円の仕組みに気づくまでにどれくらいかかるかを知性の目安の一つとしている。

 ちなみに彼らの言語に軍円や5首領制もとい1主4首領制に当たる単語はない、軍円は見て考えて見つけ出し、5首領制は子育期の者が一~八までの名前を伝えて、味方の単語や領地を示す単語と関連づけたあと、服従の言葉を教えるだけだ。

 あとは見て覚えたり勢力に入ってから見よう見まねと間違えた際の叱責で教えられるだけだから理解が浅い者も多く、この文化を真に理解している者は八とほんの一握りの者だけだろう。

 むしろ今は八が代々文化を継承しているから、なんとか維持できているとも言える。

 世代の終わりだって、理解の浅い首領が多かった代では中途半端な動きになったこともある。

 『熱礎の侵略者』はそんな中にあって、優秀な頭脳と、確かな空間及び電磁波把握能力があるために、文化と照らし合わせて軍勢の状況を理解できるのだろう。

 しかし、まあ彼がいくら熱圏を集中させた所で、首領を狙うには足りない。

 熱圏による戦力集中では、どうしても質が担保できないために、よほど配置の上手い者たちが譲渡を受けてくれない限りは、上位者を殺すには至らない。

 それでも元の七の軍勢なら熱礎の忙殺者も、大体誰が参加するかを読めるが、急造の『相剋の軍勢』ではそれは望めない。

 熱圏生成者の主たる役割は、下位個体や、中位個体下位の者の固圧戦闘力を引き出すことだから、囲むことができてもそれ以上は難しい。

 『黄幻の五』は砲火の線条の中を、軽く飛び回るだけで避けてしまい、危険空域にすら入りそうもなかった。

 五は固圧戦の天才で、回避力は七よりは数段劣るが、それでも敵の固圧の意図を一瞬に諒解し、安全な位置を見つけ出す才気走った避け方をする。

 それでも避けきれない時は、妨害固圧で回避経路を生み出すなど、とにかく安定感はあった。

 固圧戦闘に長けた五を追い詰めるには『熱礎の忙殺者』の力ではまだ足りない。

 たださすがに熱礎の忙殺者が全力を傾けてるだけあって、五の逃げ道を大幅に減らす、という最低限の役割は果たせているようだ。

 あとは追い詰めるだけなのだが、そういう時に意図を汲んでくれる者こそが、やはり戦友というものなのだろう。

 熱圏操作者に、足りない質、それを貫き通すように、五のいる空域には一本の長い円筒形の白華群が出現していた。

 その円筒形の配置は、黄幻の五を飲み込むように展開され、その筒の周りに同じ形の筒が五本、年輪のように規模を大きく広げながら同じ一路を刻んでいた。

 周円、小円、中円、大円、巨大、極大と六つの円筒の重なるこの独特の配置は『筒六輪一路』という技であり、七の『麾下の四兵』の一体『一路の侵略者』が得意とする攻防一体の固圧配置だ。 

 これの基礎となるのは通路形成型の妨害固圧で、固圧で妨害することで、自らが安心して進める空路を作る技となるが、それを更に特化させ、攻撃の能力も持たせたのがこの『筒六輪一路』となる。

 妨害路の周りを、さらに五つの妨害の路で囲み、全てを房状固圧で作ったこの技は、実は格闘封じも兼ねていて、形成するだけで、その路内にいる敵を滅殺しつつ進むことができる、安全なのは自らの飛んでる周囲だけという、念の入れようだ。

 何より瞠目するのは、圧倒的な習熟の深さだろう。

 『一路の侵略者』はこの妨害の路を完成させてからというもの、どこに向けても筒六輪、攻撃するのも筒六輪、妨害するのにも筒六輪、それしか使わないため異様に習熟が深化している。

 習熟が深ければ精度や生成の速度があがり、悪天候や敵の妨害、阻害を気にせずに完成させられるようになっていく。

 だから、彼の使う『筒六輪一路』は八と二以外は止められない、最高位の配置術となっている。

 筒六輪一路は防御用の固圧配置で、攻撃能力はそこそこと言ったところか、二千万発以上の固圧を使うから範囲は長いが、直径は二十五フォアと少しで、さして広くはないから一度一度の回避は簡単だ。

 ただ三シに一回は放たれる、長大な円筒を避け続けるのは、意外と精神力を使う。

 それも彼の使う筒六輪は習熟度の異様な深化により、妨害はほとんど無力化される上、内部は砲火が集中する関係で殺傷力が超過している。

 狙われた者は六輪の筒に繰り返し繰り返し捉えられる内に、精神が摩耗し、ふとした気の緩みから脱け出すのに失敗、撃ち抜かれて死ぬ……、というのが『一路の侵略者』に殺されるものの末路となっている。


 『一路の侵略者』との遠距離戦はひたすらに根気との戦いなのだ。

 的確に飛び回る『黄幻の五』を捉えるべく、三シ毎に放たれ続ける長い六輪の円筒、そこに加わる『熱礎の忙殺者』による熱圏の淡い包囲網が五の逃げ場を減らし、動きを絡め取る。

 首領を滅さんとするその激しい攻勢に危機を認識したのか。

 それまで泰然と過ごしていた五は初めて『一路の侵略者』を敵認定、赤光を一際強く輝かせ、攻撃を開始する。

 この強き赤光を発した瞬間こそが、五が本格的に動き出す合図の光だ。

 五の敵意の発露とともワイス機構が唸りをあげ、流れ込む熱風、無数の白靄が大気を覆い、その白靄が渦をなすと、風上から風下の広域に美麗精緻な固圧配置が構築されていく。

 ようやく五が動き始めたようだが、強い敵意とは裏腹に、配置を見る限り、どうやら未だに五は気乗りがしていないようだ。

 五が気合いの乗ってない時に生成する固圧配置は、幻想の配置といって、その大半が殺傷力がない無害なものだ。

 無害なのは彼がわざと完成させずに放置するためで、そうやって放置された配置はただの幻想に過ぎず、避けなくても何もおきない。

 実体を持たず、未完のまま砕けていく幻想の白華群。

 『一路の侵略者』は最初、その無力な固圧配置が誰のモノか、電磁波の探査で探っていたが、……『黄幻の五』が作り出した幻想の配置だと悟ると、対応を変える。

 配置を吹き散らすように、『筒六輪一路』の大部分を自らの周囲から前方に長く展開。

発射の時間差を、“同時炸裂”から“導線炸裂”に変え防御にとる。

 どれほどの固圧熟練者相手でも優先さえとってしまえば、習熟を圧倒的に深化させた『筒六輪一路』で設えた妨害路を邪魔することはできない。


 これは五を仕留める目的からは逆行するが、まあ五相手では守るのも仕方ない。

 幻想の配置はあくまでも、五が気に入らなくて放棄しただけのものだから、放棄されなければ普通に危険なのだ。

 実体化した五の固圧配置は“連縮白華”が無数に使われた危険なモノとなり、『五ツ六ツの極限域』も軽く作ってしまうため、無害だと思って油断していると、彼の気が変わった時にあっさりと殺されることとなる。

 だから、防御に寄せた『一路の侵略者』の判断は正しいが、状況的には少々慎重にすぎるともいえる。

 『一路の侵略者』は、攻撃能力を無理やり捻出している個体だから、ひとたび防御に気を向けると、分けた筒六輪全てが導線炸裂になり、途端に攻撃能力が激減してしまう。

 その結果、始まって早々に五を仕留める包囲網が崩れ、五は再び自由を得たことで段々と自らの固圧配置に熱中していく。

 熱中した五が描き出す、空域に灯す点描の光。気に入らぬ物は幻想に打ち捨てられ、できあがったモノは他の追随を許さぬ完成度と殺傷力を誇る。

 幻想に彩られる無害な配置は、彼の美意識の高まりにより、及第点たる実体化の比率を上げ、対処し難き連縮の力を持って、無尽の被害を敵軍にもたらしていく。

 彼のもたらす殺傷に下位も上位もない、熟練者も戦闘初心者も等しく運の秤にかけ、最先端技法をよけられると考える愚か者を光に沈める。


 五は動き始めが遅いのが難点だが、夢中になれば夢中になるほど強くなる首領だ。

 そんな五との戦いは五を気持ち良く行動させないことが大事なのだが、それをよく知る元七軍の者達と違い、五と戦いなれていない『相剋の軍勢』はその意図を汲むことができない。

 特に元八軍の中位個体最上位の二体が、熱圏の譲渡を無視し続け、五への攻撃に参加していないのだ。

 まあ数の差を考えれば、五の気分を落とさせた所で、遠からず『相剋の軍勢』は全滅するだろう。

 それを考えれば、無意味な心配やもしれない。


 少しの間、五の一方的な攻撃を眺めていると……、五が唐突に至近弾の回避に失敗、危険空域でもなんでもない発弾固圧に直撃し、胴体の黒皮の一部に二層の穴が空く。

 あの位置の黒皮は八層あるため何ら障害はないが、少しズレていたら火孔の開閉扉を貫いたという、かなり危険な当たり方だ。

 回避の上手い五が簡単な固圧に直撃し死にかける。

 それが起こりえるとしたら、それは当然……私は赤玉から七の黒形をちらりと見て、七のワイス機構の余白操作部分以外を確かめる。

 計算記憶を覗く限り、やはり犯人は七だ。


 七からのささやかな不意打ちを受けた五の動きには、変化が起きていた。

 五は未来視にて戦場を俯瞰し、隙をみれば致命にかえる七の存在を思い出したらしく、安全をより強固にするために、回避に無駄なゆとりを増やしていく。

 ……慎重になったから五は死ぬことはないだろうが、集中が切れた五の固圧の大部分は再び幻想化し、『相剋の軍勢』が死んでいく速度がやや緩まる。

 ……しかし数の差がありすぎるため、このままだと結末はかわらない。

 その破綻の速度を完全に止めるため、敵首領に『一路の侵略者』が格闘戦を仕掛けに行ったことは、むしろ自然なことだっただろう。


 彼と五の間の距離は六万フォア、格闘を挑みに行くには本来遠すぎる距離だ。

 しかし、『一路の侵略者』は、まさに一路にて侵略する者。強襲することだけなら造作もない。

 彼のシ速は三百五フォア、もしなんの障害がないとしても時間にして百九十七シほどかかる計算だ、そのシ速を駆って、『筒六輪一路』が戦場を渡る。




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