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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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相剋の軍勢




 『世代の終わり』が始まる前には、八を倒した者がある特殊な行動を見せる。

 黄色の光を関節に灯して飛び回り、八の死を各所に伝えるのだ。

 この時、複数回の黄色の点滅に黒光を混ぜるを繰り返すと、当該番号の首領の殺害を示し、点滅させずに点けっぱなしにすると、最強である八の殺害を示す。

 単純な方法だから、当然間違えたり、嘘を吐く個体もいるが、八や首領を倒した者には集中砲火が加えられるため、首領の実績を持たない者はまず生き残れない。

 本当に殺していた場合も集中砲火を生き抜けないならどうでもよく、殺されてしまえばその座は事実上空席化する。

 報せる空域は、首領殺害の点滅なら当該領地を、八殺害なら“億齢”全域を飛んで報せねばならない。

 この報せる責務は危険を伴い、首領でも死ぬ者はいるが、大抵は配下を引き連れるため履行は可能だ。

 ……単体で行うのは危険すぎて勧められないが、回避の天才である七なら、まあ大丈夫だろう。

 それでも危険があるからだろう、地表域を好む七にしては珍しく高度をあげていく。

 撃発固圧戦は、高ければ高いほど安全だ。

 高空よりの中空を飛んでいるから、七は右岩翼で最も安全な高度を飛行したこととなる。

 七は対外的には危険嗜好に見えて、実際は慎重に生存の目算を建てている。

 地表域に留まるのはある意味で余裕の現れだ。

 その者がこうも高度をあげるあたり、八の殺害を報告して回るのは、私の想定以上に危険な行為なんだろう。

 嵐が過ぎ去ったあとは成体たちはしばらく天候の様子を見る、食事の白灯、この場合は休息を示す白灯を点し、未だに地表域や、低空付近にいて休戦しているようだ。

 彼らの戦争は戦うためだけに行われるために、真っ当に戦えない天候の場合、皆して休むことがある。

 こういう時の再開はその荒天が止み、半数以上が戦闘意欲をみせるようになってからだ。

 食事をしたりもしていたが、ポツポツと赤光を灯す個体も出始めたから、戦闘再開も近い。

 七は黄光を纏いつつ、白から赤に変わる戦場を、高速で飛行していく、……すると空域にいる者たちの灯す光に変化が生じた。

 黄八回の発光が加わり、次いで赤白白の点滅『八』と『死』を示す光言語が伝えられていく。

 各所で生まれたその光は、他者も介して、雨下の波紋のように広がり、透視をすると至る所に、黄光の点滅が揺れていた。

 八の死は、この程度の影響を彼らにもたらし、比較的穏やかに吸収されていく。

そして、黄光が収まった後は地表付近にいた者達は赤い光を発し、唯一黄光を点し続ける個体、すなわち七に対し、一斉に攻撃を開始する。

 首領殺害の時は点滅なのに、八の死の時だけ、報告者が黄光を灯し続ける理由、これはワイス機構での光言語の読み取りづらさに起因している。

 視認を使えぬ遠方だと、四手子の構造で認識せねばならぬため、認識速度に違いがあり、点滅させた場合認識できない個体も多い。

その点、灯し続ける単色は、時間さえかければほぼ全ての成体が認識可能だ。

 つまり八の死に対しては、報復をより激しくするために、最も周知しやすい光言語が選ばれている。


 そうした注目の結果としての集中砲火によって、七の全方位の大気が靄から白輝の粘体に変わり、次の瞬間、破壊の爆鳴を撒き散らす。

 各者各様に違う、乱雑な固圧の群れであれど、密が極まれば不作為の多重が生まれる。

 それによって偶発的にはあるが撃発固圧攻撃の限界、『五ツ六ツの極限域』が現れる。

 危険空域は三ツ、四ツ、五ツ、五ツ六ツの四段階あり、中でも『五ツ六ツの極限域』は固圧の天才しか造りえない

 危険空域中、最強最大の殺傷力を持つため、回避に長けた七でさえ、持続の長い極限域では生き残ることはできない。

 これを生き残るのは妨害に超特化した個体の領分だ。

 この配置による殺傷力の優劣は、造りより持続時間が決める。

 というのも、殺傷力は最初から高すぎるほどに高いので、持続時間が長ければ長いほど敵を殺しやすくなる。

 本来独りの天才が作為的に作るモノだが、今回はあくまでも偶然の産物で、持続時間が短いため、七を仕留めきるには至らない。


 それにしても避ける避ける、七の周囲の空間からは、無尽の火線が音を引いて降り注ぎ、獰猛な牙を突き立てようとするが、極小固圧での妨害と経路選定を合わせ、致命的なものはことごとく避けていく。

 未来視は単発攻勢に強いが、細かきに弱い、未来視だけではここまで避けられない以上、超高度な回避技術との併用なんだろうが、自分で避けたことのない私は、それがどれほど凄いことか実感できない。

とかく七は回避に長ける。

そして--

「槍の雨だ」

 高空から落下してきていた槍が雨の如くに降り始め、七の黒皮にぶつかり、衝撃を残して回転し落下していく。

 この槍の雨は核融合生物の攻撃だ。

 今回は下位個体が多い故に、静止固圧の割合が高くなったんだろう。

槍状の静止固圧の雨は、遠距離戦における下位個体の最強攻撃だ。

 連携の上手い四の残党故か、今回のそれは広域に渡り、避ける場所はありそうもない。

 これで七が中空域にまで上がっていた理由がわかった、こういった槍状静止固圧は基本的に高空に生成し、引力に引かせて地に落とす。

 殺傷力を得るには落下中に硬くする必要がある。

 それには時間がかかるから、高空や中空ではまだ足止め程度の効果しかなく、低空の下層や地表域にさしかかってようやく殺傷力を得る。

つまり、いくら槍が降ろうと七が中空にいる限りは安全なのだ。

 槍の雨は見た目の割に効率が悪く、普段なら地表域で受けても対処可能だが、数十から数百の個体に狙われる現在は自由が効かず、槍の防御に手が回らない。

 それを七は事前に未来視で知り、中空を飛ぶことにしたんだろう。

 槍が降り始めれば小休止だ、槍の雨で周辺の白華が破壊され、危険空域が一時的に無力化、七は槍を跳ね飛ばしつつ悠々と飛翔速をあげる。

 周囲を見渡せば、……この辺りにいた六はおらず、八と四の残存勢力しかいなかった。

 そしてそこかしこで、四と八の死を告げる光が瞬く、六がいないならつまり今ここは主無き戦場で、主を欠いた個体は服従しやすくなるから、七の回避や妨害の華麗さに感歎した個体が、徐々に服従していく。

 彼らには強さへの敬意はあっても、主への敬愛は無に近い。

 むしろ、強き者の戦い方を見、それへの憧れから服従することが多い。

 だから四の軍勢は少ないし、今は全滅した七の軍勢は地表域へ侵入する者の割合が多かった。

 戦法には好みもあるため、ただ強いからと言って配下に加わるとは限らず、七に服従したのは三割程度だ。

 後のものは戦争が終わった後は各所に散り、野良個体として、戦争に単独で参戦しつつ、自らの心を動かす首領が来るのを待つか、もしくは力をつけて首領化する。

 そうして岩翼を過ぎた時には、配下がそこそこ集まり、七は僅かではあるが新たな軍を組織した。

 ただこれは弱い軍勢だ。服従したばかりの者達はまだ七の電磁波を覚えていないために、軍円を張ることができない。

 軍円喪失によって敵味方を識別できない軍は『相剋の軍勢』と化し、敵味方が入り混じった時に、同士討ちを始める。

 さしたる役には立たない弱い軍だが、攻撃が分散することを思えば、七単体でいるよりは遥かにマシだ。

 ……相剋の軍勢を得た七は、飛行を続けていく、岩翼から出て、後尾に当たる火地、左右岩翼から首鶴にかけての水跡、中央の無養と……大まかに分けて三つの地域を行き来する。

 シ速三百三十フォア程とはいえ、他者の攻撃も避けねばならぬし“億齢”の広さを思えば、結構な長旅だ。

 そこで見られる光景は非常に美麗だ。

 プラズマトーラスによるオーロラに、紫電、青雷の各所の瞬き、炉の高低により千雷の尽きぬ地もあれば、固体に近い粘体を湛えた赤く輝く湖もある。

溶岩、青炎、緑炎と、発光体の多い、暗闇に映える世界ではあるが、彼らの目にはそれは見えない。

 彼らにとって美しさは、無に等しい。

 ……遠い空には、チカチカと光が行き来する。

 その光点から遥か離れた空に、白輝が広い範囲に立ち込め、縮小しては鮮烈な輝きを放ち分散し、流星の如く尾を引いて消えていく。

 その光の散華の隙間を光点が高速で動き戦は続く。

 ……そんな光輝を見ているうちに、彼らの文化の移り変わりを、微かに思い返す。

 始誕の後、寄生代、分核代、指地代、表出代でようやく今の核融合生物が生まれ、文化区分も、格手期、止静期、発固期まで来た、次の期は、連縮固圧によるものになるだろうから、発固・縮鎖期とでも名付けようか。

 ……私は戦争は嫌いだったが、こうも記憶にあるのなら、私にも彼らの文化への興味はあったんだろう。

…………それからは七の動きを横目に、藍闇に光漂う空を、ぼんやりと眺めていた。

 すると、どういうわけだろう?超高空のさらに上に、ここの星の事象ではない、不思議な光景が映る。

 奇妙なことに遥か上の空に、流れ星のように過熱した物体が複数個現れたのだ。

 速度や角度からして“億齢”の飛ぶ高度より遥か上から落ちてきたものだろう、厚い大気を抜けて、こちらに接近してくる。

 ……それをさらに詳しく透視すれば、それは何かしらの金属でできた塊のようで球形をしている。

 綺麗な金属の球だ、形状的に自然物ではなく、人工物、こういった事例は初めてだ。

 ……宙に放物線を描き、接近してくる巨大な質量は、圧縮による熱上昇と摩擦熱、地圧や放射線にやられ幾つかは球状を保てず砕けたが、造りのよかった一つは残っていた。

 ……しかし“億齢”外気を囲む四手子の層に触れた瞬間、金属結合が四手子に阻害され脆弱化、瞬く間に分解、溶解されていく。

 ここの大気は溶解する力が強い、特に金属や有機物は良く溶かす。

 四手子が自由電子の移動を阻害するためだが、そこに散熱による激しい分子運動と縛熱の吸引、有機物を溶かす超臨界を迎えた水素が混ざるのだから、表宇宙の物質で溶けないものはそう多くはない。

 まあダイヤモンドは硬く安定しているし、金属結合でもないから、酸素の混ざらんここの大気では溶かされんが、金属や有機物ならそう時間もかからず溶解する。

 しかし、珍しいこともあるものだ。

 溶けた物体は金属の殻を持っていたから、エネルギー生命の作ったモノではなく、原子を扱う素粒子生命の技術だろう。

 他惑星にまでやってくるのはエネルギー生命体が多いが、エネルギー生命体の作る物はエネルギーとの親和性が高い故に、移動の速さを上げる技術と、危険な宇宙のエネルギーを避ける、経路と時期選定に力をかける。

 ただエネルギー生命はあくまでも始粒子や素粒子に光子が混ざった体でしかなく、さして発展せず飽きるのだ。

 一時期原初生命間で流行ったあとは、素粒子・原子生命に流行りが移った。

 今墜ちてきた金属の殻はその主流たる水炭素生命の技術だろう。

 水炭素生命は変化に富み、躍動に満ちて面白い。

 ただ水炭素生命は宇宙に弱く、基本的には他の銀河系には移動できないから、近くの星から来たと考えるのが妥当だ。

 この近くに水を湛えた惑星があったから、多分そこに生まれた生命だろう。

 彼らの目的はなんだろう?

 “億齢”の軌道に金属塊、恐らくは探査機が落ちてきたということは、つまり計算で“億齢”の存在に気づき、調べに来た水炭素生命と見てとれる。

 特に無視しても問題ないが、そういえば二手も水炭素生命を作った……と言っていたな。

 そして、文明に干渉した……とも。

それを考えると、大体の推論は出る。

「今のが二手の作った生命のものとすると、それで勝負の報酬をあれにしたのか、全く過保護な男だ」




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