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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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未来視




 死風に気づいた一体は四の配下で、死風の出現を気にせず、八との交戦を続けていた。中位個体でも強い方なのだろう、八の造り出す危険空域に入らないよう、大回りをして距離を取っている。

 慎重な性格の割には死風には対処していないのが不思議ではあるが。

 これは恐らく、死風は小さな固圧なので、発固期の常識から言えば危険無きもの。

 それよりかは、目の前の首領たちに対処をする方が賢明と見たか。

 死風に接したもう一体は、八の配下だ。

 好奇心が旺盛な者のようで、迫り来る死風に補助思考を割き、白靄や固圧をぶつけて状況を確認。

 そして危険に気づいたのか、逃げるように針路を変更する。

 八も状況は分かったようだが、固圧生成をほぼ無効化する自分の力に自信があるようで、死風に若干相対速度を合わせ接触までの時間を伸ばした他は、特に変化が見れない。


 最も不可解なのは七だ。

死風が放出される前に、凄い勢いで戦線を離脱していく。

 八の配下の実験より早かったから、危険を勘で察知したようだ。

 思考力では有り得ない早さであったから、尋常ではない危機察知能力と言える。

 七の危機察知能力は昔から少々高すぎるので、私の予想だと彼は『未来視』を持っている。

 未来予知は核融合生物だけでなく水炭素生物等も基本的にもつ能力で、精神には時の始粒子である“時軸”が早く伝わる性質があるため、伝導率の違いにより他の物質より早く時間が進んでいる。

 その性質を利用し、精神が先に未来の状況を知っておくことで、近い未来でおきる生命の危機に対し、不安感や危機感など、情動による警告を与え、危機回避の機会を得る仕組みになっている。

 そのように未来予知による危険予知は生物が基本的に持つ力だが、七はそれが殊更に発達していると思われる。

 時軸は縦に巡る粒子で、川のどこを泳いでいても俯瞰すれば下流中流上流とが同時に存在するように、時も今この瞬間にも未来現在過去が同時に存在して流れているが、未来予知の力が高い者は未来から戻って来たり、途中途中に滞留している粒子を捕まえるのが上手い。

 ただ、まあ七はそれだけではなさそうだ。

 時の粒子を捕らえるのが上手いだけでは勘や予感が強くなるだけで、未来視にはならない。

 七の動きの迷い無さから言っても、相当はっきりとした予知に他ならず、そういった場合は“考思”との関わりが強いことが多い。

 “時軸”が自意識である“考思”と絡むと、粒子の捕らえ方の違いにより対象に予知夢や、未来視、過去視をもたらすことになる。

 ただその事例はあまりに少なく、生体にどういった悪影響を及ぼすかはわからない。

 しかし、七が戦闘中に本気を出さないことを考えれば、未来視特有の負荷のせいで、現在への認識に何かしらの欠陥があるのかもしれん。


 それはともかくとして、死風に対し、見過ごす者、試す者、待ち構える者、逃げ出す者……四者四様の反応を見比べる内に、“時軸”の本流は未来に廻り、その流れに空間が回ることで時は進む。空間と時は繋がりが殊更に強いため“時軸”に影響を与えるなら空間を使うのが良い。

 時の移ろいによって、忘王の死風はその顎を開き、急速に戦場に拡散していく。

 暴風に内包された刃片は、先行する刃が一瞬滞留する度、後ろの刃群が併呑し、次々に移り変わりながらも猛進していく。

 その死風の大きさは核融合生物など微かな点のように見えるほどのもので、濛々と流れ込む粉塵の大流に、一体だけ逃げていなかった四の配下は、前方火孔を噴かせて、後背側から死の風に突入する。

 彼は危険無しと判断したようだが、硬塵にぶつかった黒皮の至る所に小さな穴が空き、動作を一度、二度と繰り返すと、体の節々に走った細裂から内部の荷電粒子の光がほの見えるようになる。

 真空を維持する耐圧骨管の破断により、正六角構造の超伝導磁体を維持できなくなれば、あとは一瞬だ。

 内部から噴き出したプラズマの奔流によって、爆光に包まれ、脳細胞の破壊によって、核融合炉に冷温停止の指示がでるまではさしたる時間はかからなかった。

 通常の大気下での死と違い、死風内部は、“縛”の熱が濃いため、黒皮は気化することはない。

 この死風は、硬さと重力子の他、水素や散熱も混ざっているために、表宇宙の固体の全てを分解する力を持つ。

 これには延引性の高い金や黒皮も同様で、耐えられる物質は純粋に硬さで勝る繊棘くらいだろう。

 慌てたのは八の配下だ。

 さきほど実験した結果よりも危険だと判断したのか、それまで緩やかだった退避速度を最高位にまで跳ね上げ、死風から全力で逃げていく。

 と、中位個体の行く手を遮るように白靄が前方空域を覆った。

 これは、遠方の七からの足止めだ。

 敵の動きを封じるのに長けた七が、死風に追われる敵を見逃すわけがない。

 七の作る固圧配置は、高度な配置に、極小固圧を潜伏させたもので、相手を足留めすることに重きをおく。

 八の配下の回避方法は妨害系、それも特定の固圧の妨害に特化したやり方のようで発弾固圧と、八十房固圧を狙い撃ちして妨害するが、その他の固圧には無干渉だ。

 発弾固圧と八十房固圧だけを狙うこの妨害法は、有用な割に意外と習熟している者が少なく、八軍の上位者『二択の果断者』が得意とするものだ。

 見た目と、長い時間七と戦えていたことから考えて、彼で間違いないだろう。

 『二択の果断者』は危険な固圧二種に絞って無力化し、濃い白華を避け急進したものの、埋伏していた“極小撃発固圧”が閃光を散らし、続けざまに体表に衝突し、推力が三百十フォアから、急速に減じられていく。

 失速した八の配下の後背は死風が覆い尽くし、前方の空域にも、先回りした死風が流れこみ始める。

 まだ左方向から上にかけてなら大きく進路が空いてるものの、七の足止めも入る状況では、このまま逃げる切ることは難しい。

 『二択の果断者』は、七の白華のない上空に飛翔、円錐形の武器固圧を生成しつつ、幼体の作る紫棘の塔群へと、最大戦速で突撃をかける。

 現況から脱するために、まずは幼体から消しに来たか。

 『二択の果断者』は割り切った判断が得意な、なかなか手強い敵ではあるが、さて、どう対処すべきか。

 紫棘陣地の様子を観察した限り、幼体は忘王の固圧陣地を真似るのに必死で、ゆとりは無さそうに思える。

 また私自身に戦闘勘がないために、忘王の手法を使うのは難しそうだ。

 忘王が入り込んだ敵と戦う際は、熱配分と接着液の硬度変更で、棘類八方刀刃を動かし、敵に対応していたが、今回はそれは使えない。

 だから、『二択の果断者』への対応は陣地だよりの受動的なものにならざる得ない。

 幼体を守るのは、長大に伸びた棘山の塔群。

 八本の刀身が合わさって一つの棘の塔となり、塔が無数に合わさって絡まり合い、広大な陣地を構築する。

 止静期の陣地の特徴として、内部に必ず坑道が設けられていることがあげられる。

 これは防御のためではなく、敵を誘い込むためのものだ。

 止静期は地表域が戦場であったが、わざわざ敵の陣地にはいりたがる者はいない。

 あまりに陣地を堅くすると誰も内部に入らないため、だから、あえて安全な道を陣地内に生成、敵が侵入するゆとりを作ったり、敵が有利に戦えるようにする文化があった。

 

 結局彼らは戦闘のために戦争をする。

 地表は彼らの本領ではないため、どこまで敵に攻めやすいと思わせ、実際に攻めさせるか、それが止静期の固圧陣地の基本の一つだ。

 忘王も地表で戦っていた頃は、侵入し易い陣地を作り、時に格闘を交えながら戦っていた。

 しかし、地表を降り、岩翼下に移ると、忘王は完全に動かなくなる。

 動かなければ格闘は行えず、敵が近くまで来た時点での負けを意味する。

 それは、攻めさせる戦術から、敵を防ぐ戦術に変わったことの証であり、忘王が撃発固圧を倒すために全霊を費やした証明でもあった。

 しかし、止静期の個体故の意地もあったのだろう。

 完全に奥までの道を封じることはせず、多少の遊びを作っていた。

 風を遮る形で、斜めの侵入口が作ってあり、そこから敵が悠々と入り込むことができる。

内部は、四百フォアほどの全長の短い一本道で、横幅も六フォアほど、これは決して大きくはないが、最高速を出していなければ問題があるほどではない。

 その他の特徴として、内部は四手子濃度が低すぎるために、内部では固圧をほとんど生成できないことと、刃片が少量漂っている関係で、刃片に刺さらないよう飛行シ速を四十フォアほどに落とす必要があった。

 ……敵が四百フォアを進むまでに、過熱波の超重力や、刃片、折れ曲げられる棘類八方刀刃固圧を使って、敵と闘うことが、『岩翼下の忘王』の最後の遊び心ではあった。

 ……私はそれを知っていた。

 しかし私には遊び心は特にない。

 だから、生成時に忘王の作っていた侵入口や通路は全て潰してある。

 幼体の周りにあるのはただの棘山で、棘の隙間が広い場所でも、せいぜい一フォアから一フォアと五十シー。

 主を失った逆さまの陣地は無情となり、誰も寄せつけはしない。


 『二択の果断者』は下向きに生え伸びる、長さ数百フォアの紫棘の山に果敢に挑みかかっていた。

 彼の造った円錐形の武器は硬さを重視した造りのようだが、まるで意味を為さなかった。

 近づけた瞬間、紫棘の発する超重力に引かれて、棘の側面の刃に直撃、硬かったはずの静止固圧は、軽々と二つに分かたれ、棘の側面に張りついてしまう。

 その武器を持っていた、『二択の果断者』本人も、当然のように対宇宙則特有の強い引力に引き寄せられ、勢い良く刃に激突する。

しかしすんでで差し込んだ、手のひらの繊棘を刃にぶつけ、膂力によって自らの黒躯を弾き飛ばし、一瞬猶予を確保、同時に表火孔の全ての扉を開き、激しい電離気体の放出で、引力の軛を引き裂くように脱出する。

 その一連のやりとりで『二択の果断者』は引き寄せられる範囲を学習し、攻めるのは危険だと判断したようだ。

 下方に流れる死風の一部から四手子を上に持ってきて、百発ほどの固圧を生成、紫棘に射撃を開始する。

 撃ちながらも通れる道がないか、確認していたようだが、見つからなかったようで、もう一度、武器固圧を生成。

 限界まで硬くしつつ再びの突撃の準備をしているようだ。

慎重なのは悪いことではないが……この個体には、棘山を破るのは不可能だろう。

 これは当時の八が造った陣地だ。

 彼らの作れる物質の中では最高の硬さとなる静止固圧。

忘王はそれを“過熱波”で更に硬くしている。

“過熱波”を他の個体が使えない以上、武器によっては崩すことはできないのだ。

 そう思った矢先に、……私の思いもしなかったことが起きる。




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