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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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紫棘の尖塔




 千万を超す砲撃の明滅が、岩翼下に垂れ下がる紫棘の尖塔群に衝撃を与え、大気に散っていく。

 衝撃は強かったが、千万撃ち込まれようと硬くなった静止固圧には意味はないし、幼体を直接狙った撃発固圧は、白華の段階で超重力を伴う八方刀刃によって引き寄せられ、生成に失敗する。

 それから連続して砲撃は続いたが、忘王の防御は構造によって完成しているため、いくら撃たれようが特に痛痒はない。

 驚くのは特に何もせずとも、内部に出現する撃発固圧を妨害できていることだろう。

 さすがに忘王は撃発固圧と戦い続けただけあって、静止固圧を維持するだけでも、敵の攻撃を防げる仕組みを作り上げていた。

 止静期の戦いは、現在と違い、地表域での陣地生成が基本となる。

 空から静止固圧のヤリを降り注がせても、陣地内なら安全であるし、格闘の下手な個体も陣地に籠もれる。つまり、止静期はあまり動かず、飛行能力を生かさず、狭い場所に籠もっての戦いだった。

 陣地生成には大きさはもとより、数多くの機能がいることから、止静期上位の者は静止固圧に複数の効果を加味したり、複数種を同じ縛熱で維持できるように工夫を凝らす。

 そうしないと四つある思考を簡単に使い切ってしまうため、下位個体は集団にて維持し、上位者になればなるほど、少数にて戦闘を行えるようになる。

 たった一体で、それも止まったまま陣地を生成して戦えたのは、あの時代全てを見まわしても、止静期最強の忘王だけだ。

 その忘王の固圧陣地も今のところ、現代の首領たちからは無視されている。

 配下が散発的に砲撃を仕掛けて来ているほかは、特に攻撃をしてこないのだ。

 静止固圧による陣地戦は高火力、高防御ではあるが、あくまでも皆が地表域で戦っていたからこそ成り立っていた戦争文化で、撃発固圧の発達により皆が中空、高空で戦い始めると、静止固圧は廃れていった。

 現在は場所を選ばぬ撃発固圧が幅を効かせているため、常識的には静止固圧の陣地は既に役に立たぬものとなっている。

 だから忘王を無視するのは仕方ないことではあるが、可哀想なことに彼らは知らないのだ。

 忘王の戦闘方法には段階があり、時間が経つと撃発固圧使用者をも圧殺する、殺戮用の静止固圧を生み出し始めることに。

 序の段である今が忘王を倒す絶好の機会であるのだが、その僅かな猶予を逃す彼らは、少々哀れですらある。

「ふふ、知らないというのは怖いものだ。忘王は無敗で世を去った個体だぞ?無視する輩にはゆくゆく報いを与えてやらねばな。忘王に扮する幼体よ、まずは熱礎の攻撃に対処しろ」

 『熱礎の忙殺者』は、八との戦闘を継続しつつ砲火による警告を送っていたようだったが、幼体の本気を見て、ようやく殺す気になったらしい。

 その補助思考の幾つかが幼体に狙いを定め、ワイス機構表面の歪みがこちらに向く。

 瞬間、歪みに注入されし多大な熱量が、対宇宙を経由し、幼体周辺に散の超熱を撒き散らす。

 炉の上昇による大気の爆発的な揺らぎと、組み合わされた縛熱により、白靄が幼体の周囲で形成を始める。

 熱殺、それは止静期から、現代にいたるまで継承されてきた、止まった者を殺すための技術。

 囲いに入れられたら終わりであり、現代においては動き回ることで対処をし、止静期には熱殺を防ぐ固圧で時間を稼ぎ、態勢を立て直した。

 どちらにせよ、熱殺を避けるには、移動が主となる。

 しかし忘王は移動をせず、思考を使わず、ごく単純な方法で熱殺を防ぐ。

 その方法は単純だが、この言葉少なき世界では伝える手段がないため、幾らかの手順と幼体の従順さに賭けざるをえない。

 私は急いで幼体に大量の計算式を投げ渡し、その作業に集中させてみる。

 幼体が作業しなければおしまいだったが、幸い幼体は素直に作業に没頭し、幼体は四つの思考を使い切り、段々と幼体の意識が身体の制御から離れていく。

 中心となる主思考が身体の制御を止めたことで、自然と火孔の開閉口が緩み、体内を駆け巡るプラズマが放出されたのだ。

 四つに這う黒形の幼体は、まるで荷電粒子の球となる。

 帯電したかの如き様相だが、発する音は帯電したそれではなく、金属音と吸気音を混ぜたような独特な音となる。

 つんざくような高音の唸りと、空間を揺さぶる激震、プラズマの急流に乗せて吐き出された“散”の高熱は、幼体周囲の固圧生成を不能とさせ、相手に幼少期に覚えた固圧生成以外の選択を除外させる。

 幼少期の固圧生成は、荷電粒子の急激な熱上昇に対抗するため、力を縛熱のみに注がなければならず、雪の如き細かい粒が大量に降り注ぐ形となる『積もらせ方式』だ。

 つまり、火孔を全開放した時点で相手は、縛熱に全てを振り、雪状固圧を落下させて固圧を作ることとなる。

 そこでこの岩盤だ。幼体のように天井に貼り付いていると、降り注ぐ雪状固圧が出来上がった端から、下方、雲海に落ちていき、大きい固圧が形成できなくなる。

 忘王の熱殺対策は、火孔の全開放によって、敵に幼少期の積層型以外の固圧生成を不能にし、天井に張り付くことで、重力を反転、熱の対流を残すことにある。

 これの一番の利点は主思考を身体の制御から外せること、主思考は元々身体制御と熱操作くらいなら併用を可能とするが、身体制御をしない場合高度な固圧生成に熱操作も足せる。

 これによって忘王は四つの思考全てを生成や維持に回すことができる。

 『熱礎の忙殺者』は熱殺を何度か試みたが、幼体に効かないことがわかると、固圧陣地に守られた幼体への攻撃を止めた。

 元々殺したくはなかったようだったから、彼にとってちょうど良かったのだろう。

 ……と思ったら、『熱礎の忙殺者』は七を置いて、戦線から離脱する。

 阻害や経路状況から考えて、全思考を防御に振り分けているし、関節に灯していた赤い光を緑光に換えたから、これは紛うことなき主替えだ。

 七の配下から主替えをする者が出るとは思わなかったが、これは七が原因というより、幼体をそれほどに気に入ったのだろう。

 幼体期に静止固圧の陣地を作れる者など、今まで存在していない、その上、熱殺すら対処したとなれば、最早その才能は、現在の八をも超えている。

 ただ相手は幼体だから、今すぐに、主従となることはできない。

それで『熱礎の忙殺者』は幼体を後の主と見据え、戦闘を放棄、離脱したのだろう。

 『熱礎の忙殺者』は七の軍の熱圏生成の大半を担っていた者だから、軍にはなくてはならない存在だが、軍が瓦解している今はさほど重要ではない。


 しかし、いつの間にやら七の『麾下の四兵』も全滅か。

念のため、残りの三体『膨大狭窄の精鋭』『一路の侵略者』『遅咲きの高老』や、そのほかの七の配下を、何とはなしに探してみたが、特に軍円に残っている者はいなかった。

……となると、七の軍は完全に全滅したようだった。

 軍が根絶しても生き残るとは、さすがは『地表域の死火』といったところか。回避力が最も高かった首領として、覚えておこう。

 それはそれとして、熱礎が去ると忘王の陣地は特に攻撃に晒されることなく、岩翼下に佇み、ぼうっとした紫の輝きを灯していた。

 静止固圧の戦いは得てして地味だ。

静止固圧には動力源がないせいだが、あまり動きがない、止静期の空から降り続ける槍の雨を微かに想い出し、今は少し懐かしい。

……そうして眺めている内に、忘王の固圧が最終段階に入る。

 忘王は陣地が完成する少し前になると、“並行加熱”を使う。

 並行加熱は静止固圧の高等技術で、現代だと黄幻の五が『愚者の白柱』を作る時にも使っているが、単純にいえば、固圧群を少し硬くする度に、思考を別に移し、別の固圧群を固めていくことだ。

 “縛”の熱の冷える速度より多い熱を加えていくことで、その者のワイス機構の熱量より多くの静止固圧を維持できるようになる。

 硬くなるまでの速度は遅くなり、“散”の熱にも弱いが、この方法を使えるようになるとより大量の静止固圧を維持できる。

 黄幻の五で三倍、“過熱波”を使う忘王で、七倍程度維持できる量が増える。

 それを使って作るのが、“死風”という忘王の殺戮的な攻勢固圧だ。

 岩翼の天井の広大な範囲に現れる、幾百万の板状固圧。

 板には格子状の枠組が張られ、その隙間に鋭利な刃片固圧がぎっしり嵌まり、徐々に硬くなっている。

 この格子に嵌まった刃片こそが『死風』だ。

 じつは刃片を維持するのは難しい、“縛”の熱は互いに引き合う性質を持つため、大量の刃片を一カ所に集めてしまうと、刃片同士がくっついて固まってしまう。

 そうならないように格子状のマス目に刃片一つ一つを分け、熱の上昇に伴い解放される仕組みを作った。

 過熱波を受けた刃片は固圧の最高硬度より硬くなっているため、勢いさえついていれば黒皮を、そうでなくとも関節部を簡単に切り裂く。

 防ぐには相対速度を極限まで殺すしかないが、それ以外の方法では防御はほぼ不可能、それが風圧に押され、死の風となって、岩翼下に吹き荒れるのだ。

 忘王の強さは防備の卓抜さや、過熱波の力もあるが、岩翼下という立地を最大限に利用し、限界値以上まで硬くした静止固圧を広域にバラまくことにある。

 見ている内に、数千億にも分かたれた固圧の粉塵が、一斉に板状固圧から放出される。

 その『死風』は、シ速九十フォアの流れに乗り、戦場を霧で覆うかのようだった。

 これは忘王の決め手に他ならないが、迫り来る死風に気づいた四体は、四者四様の反応を見せた。





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