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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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岩翼下の忘王





 幼体が覚えたての爆縮固圧を使うなら、そこには当然、標的がいることになる。

 “億齢”は幼体が狙うには大きすぎるし、岩翼の下にいる生物は七と八、その他の三体だけであるため、狙いは恐らく彼らだろう。

 岩翼下から地表を狙うと、間にある厚い岩盤内の保護皮層が邪魔するため、狙える範囲が極端に狭まる。

 普通の物質なら対宇宙側から電磁波を迂回させればいいが、“億齢”等、核融合生物は体内保護のために、対宇宙側の電磁波を遮蔽する層をもっている。

だから岩翼を挟んでしまうと、反対側に対して、攻撃範囲が異常に狭くなる。

 つまり地表を降りた幼体の狙いは下にある。

 そう思い、岩翼下の雲海、交戦中の空域に視官を転じれば、八千フォアくらいの距離を開けて、二体の首領と、三体の中位個体上位者たちによる戦いが行われていた。

 その戦いの付近は幼体が固圧攻撃した座標も含まれていたから、幼体が横槍を入れてるのは間違いないだろう。


 岩翼下は大気の炉が八百炉程度と低いため、固圧生成が難しい。

 幼体が流用している計算式では生成できないはずだが、八や七、配下たちの作った熱圏のおかげで数個だけ爆縮固圧の生成に成功したようだ。

 この場合、それがかえって裏目に出る。

 基本的に、成体は幼体を殺さない、だから弱くても安全なのだが、これには幾つかの例外がある。

 例えば戦いの余波に巻き込まれたり、幼体から勝負を仕掛けた場合はこの限りではない。

 ただ幼体期は固圧攻撃はおろか、火孔の操作が下手すぎて、成体に近づくことさえもできず、どれほど凶暴な幼体でも勝負を仕掛けたことを成体に認識されることはない。

 つまるところ幼体は力がないからこそ、攻撃されないのであって、戦闘を仕掛ければ狙われる可能性はある。

 そのため今回のように撃発固圧による攻撃をすると、成体を怒らせる危険を孕んでいる。

 しかも幼体はしつこく攻撃を続けているから、誰かしらは怒るだろう。

「さて誰が先に怒気を発するか」

 幼体からの攻撃、それに最初に気づいたのは配下の内の一体だった。

 核融合生物は電磁波の発信源を探し、固圧発動者の特定をするが、探知までの速さは個々で違う。

 七や八のような最高位の者であっても、探知を主とする性質でなければ、索敵が得意な中位個体には敵わない。

 探知の早さと、形状から考えて、最初に幼体を見つけたのは、七軍の精鋭たる『麾下の四兵』の一体、広範囲の熱圏生成を主とする『熱礎の忙殺者』だ。

 攻撃に気付いた彼が最初に行ったこと、それは光固圧による警告だった。

 幼体の眼前に、流れるように組み上げられた光の粒は、他者の眼前に己の意を示す、緑、赤、赤の『戦闘停止』の光言語だ。

 幼体には遠距離の光言語を読み解く力はないが、今回は中位個体が光固圧を眼前に出現させたので、なんとか認識できる。

 認識できたのなら戦闘停止の意は伝わる。

 そのはずなのに、なぜか幼体は攻撃を止めなかった。

 幼体が攻撃を続ける間も緑、赤、赤の警告は幼体の前にしつこく出現し、幼体の攻撃を止めようとする。

 これは本来あり得ないほどの厚遇だ。

 遠距離からの警告には思考を一つ割く必要があるため、戦闘中に行うと戦闘力が低下する。

 『麾下の四兵』ほどの強き者が、八との戦いの最中、こうやって警告を続けるということは、同情というよりは、撃発固圧を使った幼体の才覚に感心し、未来の上位個体候補として、見逃すつもりになったのだろう。

 それでも幼体は攻撃を続け、中位個体は『戦闘停止』の警告を繰り返し、幼体は更に攻撃を重ねていく。

 その攻撃のあまりの執拗さに、私は訝しんでしまう。

 ……世界を守るためなら、ここで攻撃をする意味はない。

別に成体は幼体を狙ったりはしないし、私の斑赤玉は気付かれづらい。

 それなら世界滅亡を防ぐためではなく、幼体が個人的に狙う理由を持っているのだろう。

 黒光もないし、復讐はない。

 もし身に過ぎたる力に増長してるのだとしても、この何回かの攻撃が効いていないことで、自分の力が通用しないことも理解できるはず。

 それなら、性格上の要因だろうか。

 『数遊びの死火』は、他の個体より成長が遅く、火孔や固圧の覚えが悪いため、劣等感を持つ者が多い。

 そんな劣等感にまみれた幼体にとって、他者より遥かに早い撃発固圧習得は、我を忘れるほどの喜びなのだろう。

その喜びから戦闘に混ざろうとしているのだろうか。

しかし……なあ。

しかし、だからといって……。

「それは世界を滅ぼすほどか?」

 呟くと……、呆れ混じりの反感がもたげる。

 幼体が世界を犠牲にしてでも、力を試したということは、つまりは世界をそれほど大事には思っていない証左だろう。

 まあさっき滅ぼしに来た個体だからしょうがない。ただ現在のところ私の味方は、この幼体だけだ。

 ここで幼体を捨てたら、赤玉は星の中心に落ちてしまう。

 そうやって自分に言い聞かせ、気を落ち着けたが。

 ……しかし、幼体は若く、そして無謀に過ぎた。

 温情で見逃そうとする成体たちに信じられない言葉を発する。

 白光、緑光、白光、穏和な光の羅列に似つかわしくないその意味は……。

『服従しろ』だ。

「幼体が上位個体に、服従か、ふふ、どこまで増長し、危険を冒す気なんだコイツは」

 何か嗤いたくなってくる、世界の存亡がかかっているのに、誰も彼もが世界に関心を払わない。

 あまりの瑣末さに世界とは四の本拠以下なのか、と言いたくなる。

 幼体の挑発は運良く……八たちが、幼体の靭毛に関心を払っていなかったようで、今回に限っては、無礼な言葉は伝わらなかった。

 ただ、私だけは幼体の言葉を見ていた。

無関心な世界で、増長する幼体を見ていた。

 どれほど幼体が力を得ようと、そんなものに世界を賭ける価値などありはしない。

 どれほど戦争が楽しくとも、そんなものに世界を無視する価値などありはしない。

 僅かずつの不満によって、心に澱みが溜まり、苦々しくも、度し難い感情が生まれる。

 この感情はなんというかな、鬱憤とも鬱屈とも違う、そう……静積の怒だ。

 静やかな怒りが積もって、私は囁くように呟く。

「無視、無関心、争いに増長、痛みがあるからといって貴様らばかりが被害者だと思っているのか?私が悪だというのなら、戦争しか行わない貴様らも同じじゃないか。

 あんまり私を怒らせるなよ、核融合生物ども」

 私は平和主義者だが、命を尊いと思っているわけではない、どうせ三齢半から四齢もすれば、今居る命は全て消える。

 ただ一体一体の可能性が世界を発展させるから、大事にしていただけだ。

 そこまで世界を無視するのなら、今この時をもって--。


「全滅しろ」


 もうさっさと全滅してしまえ、今この瞬間に全滅させてやる。

ああ、だが、まあ、注目はさせたいな。

“億齢”が滅びる理由が、下らぬ抗争の巻き添えなんて、私の誇りが許さない。

 世界の存亡なんだから、せめてもっと関心を払ってもらう。

世界存亡戦に皆を参加させる、これが一義だ。

 とはいえ、注目させるにはどうしたらいいだろう。

 斑赤玉のままだと彼らは私だと気づかない。

 斑赤玉を、四手赤玉には戻せないが、固圧で囲んで、赤玉内部の四手子配置を似せれば、私だと気づくだろう。

 その操作をしつつ考える。

彼らには幾ら荒ぶって見せようとも無意味だ。

 ……注目させるには当然力がいる。

 私自身の持つ力は変えられない、余白操作の力は七万発程度で戦闘経験はナシ。

 だが、この幼体は『数遊びの死火』で、私の渡した計算式をそのまま扱える特異個体だ。

 地点情報以外の計算式は変えないから、地点情報さえ彼が納得しているなら、私の意のままに動いてくれると思っていい。

 あとは戦闘方法だ。

彼らは戦闘種族で、戦闘経験は豊富。

私には戦闘勘も経験もないから、例え固圧を使えても、大きく不利ではある。

 それも……思考が一つなので、複数固圧の多数連動は向いていない。

 ただ代わりに脳裏に大きく図面を描ければ、複数種だろうとそれを作り上げることはできる。

 しかし、どんな図面だと強いんだ……?こればかりは経験がないと、……そこまで考え、幼体が張り付く翼下の天をみる。

 自力では飛べぬ幼体は岩盤に張り付くことで、暴風や引力に抗することができる。

 つまり他力で外界に抗しているわけだが、それは私にも言えるのではないだろうか、……戦闘勘を埋めるには、外力、つまり手本があればいい。

 手本として私の使えるのは……私が観察を続けた歴代の首領たち。

彼らの独創的な固圧配置は、全て覚えていて引き出せる。

 その時とは大気の状態は違うが、私の能力なら、敵の動きに完全に合致した配置は選べなくとも、少なくとも模倣、当時の配置は再現できる。

 あとは過去のどの首領の真似をするか。

私には戦闘勘がないから、できれば、配置を再現しただけで強い首領がいい。

 あとは状況確認--、幼体は火孔操作が下手だから飛行はできない。

となれば、幼体に撃発固圧戦闘をさせるのは無理だな。

 撃発固圧戦闘は、撃ち合いつつの回避が必須だから、飛行できねば負ける。

 飛行せずに、撃発固圧と戦う配置。

 飛行せずに戦うとなると、今代なら『黄幻の二』だ、ただ二は、地表を動き回るし十六層の厚い黒皮と、長い繊棘を利用して生き延びているから、幼体には使えない。

 ……となればさらに過去に遡る。

 本当の意味で、止まって戦う首領がいたのは、撃発固圧が開発されていない静止固圧全盛期……、つまり止静期だ。

 あの当時は止まって戦う首領もたまにいたが、ただ使うのは旧時代に栄えた静止固圧技術のみだ。

 基本的に静止固圧は撃発固圧に劣る、距離を撰ばぬ撃発固圧に対した時、低空にさえ届かぬ静止固圧は、一方的にうち負ける。

 ただ物事には過渡期があり、変遷がある、だから過渡期には静止固圧で撃発固圧を圧倒した者がいた。

 あの者が力を振るったのはそう、止静期末期。

 繁栄しつつあった撃発固圧を、静止固圧にて破った静止固圧の雄。

 名前は確か、「岩翼下の……忘王」

そうだ、真似するなら忘王だ。

 忘王は、止静期最後の八で、止静期から発固期に移る時代の終わりを見届けた個体だ。

止静期最強の個体にして、敗北から最も遠き者、この者が死んだときを私は止静期の終わりとした。

 制覇者を平定者もしくは大主としか名付けぬ私が、王と名付けたのは、彼が静止固圧戦最強にして、死ぬまで一度も負けなかった個体であったからだ。

 彼は生涯を静止固圧に捧げ、撃発固圧との一度の戦いで、敵の利を悟った忘王は、撃発固圧の使い手を三体ほど格闘戦で仕留めると、あっさりと地表を去った。

 そして彼は引力の向きが真逆になる岩翼下に移り、静止固圧にて戦闘を継続、引力を利用し、撃発固圧使用者に対しても圧倒的な力を見せ連戦連勝を誇ったものの、索敵され難い岩翼下に居を構えたのが徒となり、次第に忘れさられ、地表上には忘王と戦わずして首領となった者たちが権勢を誇ることとなる。

 『岩翼下の忘王』は無敗にて世を去った、止静期最強の個体だ。

そんな岩翼下での彼が使った戦法は---



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