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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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液化型阻害固圧




 六の飛行進路の先に、長い下り勾配が広がり、斜面の終わりに地表が無くなっていた。

 ここ四の本拠、終端は岩翼の奥まった所にあるだけあって、全幅が狭く、横切った際の翼の終わりまでの距離が短い。

 まあそれでも三角翼であるから幅は相当なものだが、翼が終われば、そこは地表の終わりだ。その先に飛び込めば地表はなく、ただ翼上と翼下を流れる気体の炉差によって生じた暗き雲海と、暗い暗い液が広がっている。

 ……翼の後縁に向かうなら、理由は一つしかない。

 不安を打ち消すべく、六の性格や、瓦礫の構造、岩翼の状況等を考えながら、徐々に大きくなる後縁の終わりを見続ける。

 六はなぜ岩翼の終わりを目指す?

 例えば赤玉を崖から放り捨てて滅ぼすんだとしても、あまりにも冗長だ。

やはり熱殺が嫌いなんだろうか……。

 ……考えつつ、ふと赤玉を見ると、赤玉の表面で強烈な融解現象が始まっていた。

 表層に起こっている発光や変容の状況から察するに赤玉が“散”の熱で溶かされ始めたようだ。

 滅ぼすための攻撃だろうな、これは。

 六が今更赤玉を溶かそうとするとは思えず、これをしているのは六とは別の者なのだろう。 対処をしつつも呆れた想いが湧いてしまう。

どうしてこう、私の世界の者どもは、こうなのか。

 なぜこいつらは、自死もしないくせに、世界を滅ぼそうとするんだ?

 そんなに嫌なら世界を巻き込まず自分だけ滅べばいいじゃないか、その権利はやってるんだから。

味方がほしいな味方が。

 それから僅かに待ったが、誰も止めないから、仕方なく自分で対処する。

 基本的に周りを囲ってから“散”の熱を送る殺害方法は、確殺の状況と言っていい。

 一方で、熱殺が開発された時代には、それを防ぐための技術も存在していた。

 開発された当時は止静期、静止固圧全盛期で、硬くした静止固圧が地盤から乱立、その針山の如き地表を主戦場とし、飛び回って闘う戦争だった。

 静止固圧群は地表から生え伸びているため、遠巻きに様子を窺う敵を、武器格闘や落下型固圧、数的誘導を使って、地表に追い込み。

 そしていったん、地表の針山に入れてしまえば乱立した静止固圧で、充分に敵を殺すことができる。

 当時としては画期的な戦法ではあったのだが、より遠距離から敵を殺せる撃発固圧が開発されたことで、戦場が地表域から、低空~高空に移り、使う機会が激減、当時使われていた静止固圧の大部分は受け継がれず廃れてしまった。

 そうして忘れ去られた静止固圧の一つに、熱殺を防ぐための固圧はあり、液化型、通風型、常在型、脆弱型、更新型と五種に分けられる。

 全般に通ずる仕組みとしては、敵が固圧によって対流を遮断するより早く、自らの周囲を固圧で覆い、熱の逃げ道を確保する。

 これを、“四則の静止技法”と私は呼ぶが、以下四つの原則を押さえるほど抵抗値が高い。

 一つ目は、『阻害用固圧は、敵が生成中の固圧に流用されない形であること』

これが一。

 二の則は、熱の通り道を残せる構造となっているか否か。

 三の則は被覆面積の広さ。

 四の則が習熟の度合いだ。

 この四則に、私の赤玉の周囲の状況を当てはめると、瓦礫を纏めている接着液は殻固圧と分子構造が違うため、一の則は及第。二の則は、熱を逃がす仕組みがあるため可でいいだろう。

瓦礫を含めれば被覆面積は大きいから、三の則も可。

 最後に四の則、習熟については、未熟な幼体が造ったものではあるが、今回は私の送った計算式に依って維持をしているため、習熟のブレが完全に存在しない。

 これは最高位とまではいかないまでも、次点くらいには強い操作抵抗を示す状態で、余程固圧操作に長けた者でなければ、構造を組み替えられない。

 四則全て満たしているとなれば私の勝ちだ。

この接着液は構造上崩れやすいため、どれほど“縛”の熱で硬めても限界があり、“散”の熱が高まってくると先に溶け始める。

 すると接着液が用を為さなくなり、囲んでいた瓦礫がバラけ、大気が流入、一度までは、赤玉は溶かされずに済む。

液化型の阻害固圧は、当時でさえ対処の難しい固圧であったから、馴染みがない現代の核融合生物では、対処はできないだろう。

あとは待っているだけで熱殺は防げる。

 そういった取り留めのない思考を弄びつつ、実際はやれることもないので、ひたすらに赤玉に“縛”の熱を込め続ける。

 熱を込め、熱を込め、世界を守り……気の紛れに瓦礫の外を眺めていたが、しばらく経つと、映る風景が変わった。

 それまで下方に広がっていた地表の翼が消え、闇がどこまでも底を覆っている。

広く果ての見えない、無主の空だ。

私の透視は、四手子のない空間までは透視ができないため、岩翼の下の底を見ようとするとどうしても断片的な光景となる。

 翼の切れ目から向こうは後方気流と、翼端渦の強い流れくらいしか見るものがない。

 おそらくここが目的地だと思うが、六はどう動くだろう?瓦礫を運ぶ六を視界に映す。

 六の行動は淡白だった。無造作に腕を振ると、巨大な瓦礫が孤を描いて放り投げられる。

 私の入る赤玉ごと瓦礫は宙を舞ったが、距離を飛ぶうち、横や上方向への加速が徐々に減衰。素粒子均衡による表宇宙の重力は大した力がなく、酷くのったりとした落下となる。

 地表から投げ捨てたのは赤玉を破壊するために相違なく、僅かな望みを持って六を見上げれば、背から発せられる荷電粒子の二度の発光させ、光跡を残し戦場に戻り去った。


 六が去った今、落ち行く瓦礫を支える者はもういない、この下には地表はない、落ちていけば直に星の中心部に飲み込まれ、赤玉は壊れる。

 独りは辛いものだ……彼らは何度こんなちっぽけな赤玉に世界を守らせるのか。

「私独りか、ふふ、自分の優秀さが嫌になる。私はしつこいんだ。できる限り、貴様たちを生かして命に喜びを感じさせてやろう」

 赤玉に力無きとはいえ、瓦礫に埋まっている幼体にも接続できるし、私は優秀だからまだ対応できる。重力の加速のみなら、低空から落ちきるまでに、まだ時間はかかる。

 あまり悩むのは好きではないので、周辺視で落下中の変化を見つつ、作業に没頭する。

 熱殺は未だに続いている“散”の熱が上昇していき、瓦礫全体の接着液がついに融点に達し、瓦礫の塊が散り散りに崩壊する。

 落下中に溶けるのは想定通りだが、これは予定より少々早い、想定では赤玉の周囲から先に溶け、その後に瓦礫全体に波及するはずであったから、ほぼ同時に全てが崩れるのは想定外だ。

 崩壊により、瓦礫の中に閉じ込められていた幼体が四体、空中に放り出され、私はその内の一体に接続、幼体のワイス機構に指示を送る。

 幼体は変わらずに落下し、……ふと違和感を覚える。幼体が落下?

普通火孔は無意識下で、その場に留まるように推力を発生させる。

 圧力に対してはもちろん、重力に対しても働く、彼らは眠っていても落下することはない。

 そんな彼らが落下しているなら、意識的に火孔を閉じていることになる。

落下中に火孔を閉じるなど、本来ありえないことではあるが、理由としては瓦礫と瓦礫全体に加えられた熱だろうか。

幼体たちは密閉された状況での“散”の熱上昇に不安を覚え、炉が上昇しないように火孔を閉じていたんだろう。

 ただ“億齢”は飛んでいるから、このまま火孔を噴かさないと、幼体の火孔操作能力で戻れる範囲から離れてしまう。

 死地に向かいつつある彼らに見切りをつけたくないので、しばらくは幼体と赤玉間を固着し、起こすための固圧をぶつけてみたが、まるで起きない。

 地表が近づいた所で見切りをつけ、固圧の溶解を開始、幼体から離脱する前に、幼体のワイス機構に最後の指示を送る。

 生成してもらうのは赤玉に装着する円盤固圧と、八千の爆縮固圧。

 後はせめて彼らの助けになるように、岩翼の後縁に風除けの大きな壁の生成を指示、できるのは三十八シ後だが、これで生き延びてくれるといいが。



 赤玉につける円盤の生成が終わり、岩翼の間に八千の白華が撒かれた頃、幼体たちはようやく落下していることに気づき、火孔を開放、しかしそれは生体反射に頼ったもので、進むことはなく、岩翼に置いていかれた位置で静止し、更に距離が開いていく。

 今はまだ“億齢”からさほど離れてはいないが、この辺りは下に運ぶ後方気流が強いため、彼らの拙い火孔操作では、じきに追いつけなくなる。

 同じ末路となる前に、八千に並べた撃発固圧を順に円盤の後方で爆発、爆圧で“億齢”に向け円盤を飛ばしていく。

 八千の連続する推力を得て、跳ね飛ぶ円盤は猛烈な勢いで岩壁に迫り、鋭い音をたて壁面に直撃した。

 岩翼後縁の死細胞は硬いため、本来爆圧程度では固圧は刺さらないのだが、円盤に“縛”の熱を長く込めた影響で、少ない推力でも思いのほか深く地盤に刺さっていた。

 岩翼の側面から円盤が突き出る格好だが、赤玉は岩壁にめり込んでいるから“縛”の熱を加えていけば、岩壁に固着し、幼体が死んだ後も長く粘れるだろう。


 そうしてしばらく岩翼後縁に刺さって、緩やかに過ごしていたが、赤玉に加えられていた“散”の熱がなぜか止まっていた。

 その者は世界を滅ぼす意思を持っているはずで、世界を滅ぼすための攻撃が簡単に止むとは思えんし、心理的要因では、理由はわからない。

 となると別の要因は……、これは考えてようやく思いついた。

 例えば……敵が、瓦礫崩壊で赤玉を見失った……と考えるのはどうだ?

 実は斑赤玉はワイス機構では見つけるのが難しい、構造的に稀少な四手赤玉と違い、純粋な四手子層とに分かれる斑赤玉は、固圧と混ざると見つけるのは困難だ。

 そういえば敵は瓦礫全体に“散”の熱を送っていた。

 熱殺の場合は、“散”の熱を対象の周囲だけに絞るのが基本となる。

そうしないと壁の耐久が下がり、脱け出されやすくなってしまう。

それでもなお熱殺を広範囲にしたのなら、つまり瓦礫を生成した時に斑赤玉を見失っていた可能性はある。

 赤玉を瓦礫の中で見失っていたから、仕方なく瓦礫全てを溶かしたのだ。

 推論だらけではあるが、狙っていた者が赤玉を見失うなら、これは願ってもない状況だ。

 斑赤玉は二手が真実を話した後に、私が作り変えた物質だ。

 つまり、これは偽装となる。核融合生物は四手赤玉を狙うはずで、斑赤玉は探さない。

 ただそれは今この瞬間に、私の思考を見ているかもしれない二手に気づかれた可能性もある、それならまた狙う対象が変更されるやも……、いや、今この瞬間に違いを悟られたとしても大丈夫だ。

 高い“縛”の熱下にある斑赤玉は核融合生物たちには見分けが難しい。

だから私が“縛”の熱を強く込めている限りは、固圧に紛れてしまい、至近に近づいて電磁波の反射で形を識別しないことには、見つけるのは至難だ。

だから先ほどから、核融合生物の動きが異常に緩かったんだろう。

 私が斑赤玉に作り替えた時点で、彼らの狙う対象は消えたのだ。六や幼体たちは斑赤玉に変わる前から狙いをつけていたから、かろうじて追えたんだろう。

となれば、まだしばらくは安全なのか?


 少し気を良くして、それからしばらく、空を見ていた。

 地表に置いていかれた幼体の内、三体は結局戻れずに、もう見えぬほどの距離が開き、死が確定したが、一体だけ懸命に火孔を噴かしたのか、岩翼の後縁に繊棘を刺し、地表にぶら下がっていた。

 私の作った風除けは大して役に立たなかったが、それを見ると可笑しくなる。生き残った幼体は世界を滅ぼそうとした一体だ。

そんな者が生きるためにもがくなど、世界を好きな証拠じゃないか?

 そうやって、僅かな活力を貰っていると、……その幼体が繊棘を崖壁に刺しつつ、こちらに向かって降りて来るのが見える。

降りて来る?なぜ、私の方に?

にじりよる幼体を見て、私は幾筋の不安と、僅かな期待を抱き、ついその幼体を凝視する。




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