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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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幼体




 二手から真実を伝えられたというのに、戦場には変化は見られなかった。

 私を殺しに来ないことは、世界に感謝しているようでもあるし、守りに来ないというのは、世界の存亡などどうでもいいと言われているようでもあった。

 まあ暗く考え過ぎか、二手の精神感応は感情に直接訴えるから、信じさせやすいことはやすいんだが、さすがに埒外の話すぎて、納得するのに時間がかかっているんだろう。


 そのあと空を眺める内にようやく動きがあり、私の風上に熱圏特有の揺らぎが生まれ、白靄から白華の形に収縮していく。

 その白華群は数百から現れ、暴風によって歪みつつも着実に形を造成しながら、地表を流れて迫ってくる。

 私を狙った発弾固圧のようであるが、少々大きいからあまり使われない巨砲型の撃発固圧なのだろう。

 赤玉を壊そうとするなら、少なくとも私を恨んでいる者はいるようだ。

 まあ個体数が多ければ、そういう不満を持つ者がいるのも当然で、一つ動きがあれば、逆の動きも巻き起こるのが自明だ。

 世界を守りたい者たちは、当然私を守り、この撃発固圧を止めてくれるはず、それなら私は待っているだけでいい。

 それでニシ待ったのだが、誰かが阻害してくれる気配もなく、赤玉を壊すための撃発固圧が完成に近づいていく。

 いや……妨害はまだか?……あまりにも兆候がないので、念のため、赤玉に“縛”の熱を込め、耐性をあげておく。

 軽く“散”の熱で内部を溶かしてから、水素で不要な成分を吸着し、その後強力な“縛”の熱を込め、純粋な四手子の結合体とクロム、硝子等の層に分離させて作る斑赤玉。

 分離によって色合いは赤と透明のまだらとなり、部分的な最高硬度の上限を増やす代わりに、維持に強い縛熱がいるようになる。

 元々四手赤玉は超高圧化で生まれる物で、固圧と違い四手子以外の物質もそれなりに混じってる。

 そのおかげで縛熱がなくとも気化しないという四手子にしては珍しい性質を持つが、代わりに弾性限界が低く、場所によって硬度がバラけるため静止固圧の武器や繊棘を使われたら破壊されてしまう。

 その四手赤玉から不純物を分離し、層分けして内部に封入したものを斑赤玉と言って、これにすれば縛熱の通りが良くなり、弾性限界があがる他、表面に繊棘と同じ硬度の物質を集められるから、繊棘の数発で壊れることはなくなる。

 私が封入されてるなら、斑赤玉の方が安全だ。

 ……それからほんの僅かな時間、縛の熱を強めつつ、守ってくれる存在を待ったが、結局味方は現れないまま、地味ながら世界を滅ぼすための攻撃が始まった。

 暴風に乗って、たどり着いた巨弾型の白華が、立て続けに発光、砲弾が地に穴を穿ち、いくつかが斑赤玉の表層にぶつかる。

 斑赤玉の部分的な劈開は“縛”の熱が粘りついて破損を防いでくれるために壊れる心配はない。

 巨弾によって赤玉に加えられた衝撃は、逃げ場を求めて地表に放出、その強烈な反動によって赤玉は地表から跳ね飛び、暴風によってふき飛ばされていく。

 赤玉が飛ぶのはいいが、外を回る景色が鬱陶しいので、統合視界に変化させ、見下ろす形にし、視界を安定させる。

 直撃か、どうやら世界を守りたい者はいないらしいな。

 藍闇の冷然な空は、変わらずに戦光の溜まりを作り、私は少し現実逃避をする。

 さすがに防衛側ゼロはありえない、……二手は本当は真実を伝えてないんじゃないか?彼らが未だに勝負のことを知らないと考えれば、彼らに動きがないことも説明ができるし、守りに来ないことも説明がつく。

 存亡が掛かっていないなら、こんな赤玉守る意味も壊す意味もないからな。

 ……ただ二手の立場からみれば、それにはさしたる意味もない、私は七から離れているから黙っていても二手は私に勝てるし、私と約束を結びたかったのだとしても、あんな約束私の気を損ねたら無しになる程度のものだ。

 私が約束を履行すると言っている以上、嘘をつく利点はあまりない。

 ……二手の嘘は考えづらいが、世界を守りたい者がいないというのは……。

 砲火に跳ね飛ばされる赤玉は見ないようにして、戦場に変化がないか、祈るように観察を続ける。

 近くを見回しても特に変化はない、上を見れば私が見てない内に七たちの戦いには変化があったようで、黒呼の3から、黒光の情炎が立ち上り、七を執拗に狙っていた。

 黒光は『抑え切れぬ負の感情』を示す光言語だ。

 大抵合一を結ぶ個体の死で引き起こされるから、多分黒呼の1か2が殺されたんだろう。

 これで八の狙う対象に黒呼の3が加わり、八は危険空域で重点的に黒呼の3を狙っていた。

 その戦いを見てなんとなくボヤく。

「本拠攻防戦は参加者が多い」

 少し羨ましい。

 真実が伝えられて間もないとはいえ、本拠地攻防戦の方が、未だに世界存亡戦より参加者が多いじゃないか。

 赤玉が壊れた時点で本拠も滅ぶのに呑気なものだ。

 赤玉に加わる砲火を見ないようにして、そんなことばかり考えていると、ようやく世界存亡戦にも参加者が現れたのか、舞飛ぶ赤玉を四体の幼き核融合生物が追って来ているのが見えた。

 幼体が追って来るのは珍しい、幼体は普段、大した行動を見せない。

 核融合生物は養殻期から始まり、幼体期、子産期、子育期、そして成体期の順に成長していくが。

 幼体期は、子育期の者に食事の補助をしてもらわなくては、生きることさえままならず、一齢の六割にあたる、約六千三百六十ジュの時間を費やし、生きるために必要な身体操作や殻固圧生成を学ぶ、その期間は移動するのさえ苦労するから、こうして動き回るのを見るのは稀だ。


 私を追う幼体期の者たちは、吹き荒ぶ暴風に飛ばされまいと、姿勢を低くしつつ、時折、火孔を強く煌めかせては十フォアばかり跳ねるように移動、姿勢制御を繰り返し、巨弾に飛ばされる赤玉をそれなりの速度で追ってきていた。

 幼体がわざわざ出向くとは、……私を守りに来たんだろうか?

それとも壊しに来たんだろうか?

 僅かな期待を持って観察していたが、幼体たちが赤玉に向かって繊棘を伸ばしたので、んー、と期待を減退させる。

 繊棘は黒皮の同素体だが分子構造が違うため、段違いに硬く、主に身体の固定と攻撃に使われる。となればこの幼体たちも破壊しに来たんだろう。

 四体の幼体たちは慣れない火孔を噴かせて、暗い地表を転がる赤玉に飛びかかり、五十シーほど届かずに、また追いすがってくる。

 幼体に当てないためか、先程の巨弾の攻撃は止んでいたから、幼体の動きを観察する。


 動きを見るまでもなく、幼体は火孔の使い方が下手だ。

 火孔は気絶している時でも安全なように、圧力に対抗してプラズマを放出するようになっている。

 前から風が吹けば、それに対抗して後ろの火孔が開き、右から風が吹けば左の火孔が開く、圧力の強さに反応して、自動的に扉が開閉し、出力や斜角の調整、磁力線の渦の形によって推力を調整する仕組みになっているから、火孔を制御する練習をしないことには僅か一シーでさえ、移動ができない。

 移動しようと後ろの火孔を噴かせば、その推力に対抗して前の火孔が開き、動きが止まってしまうからだ。

 実際の飛行は、全四十二基の火孔の開閉と出力や噴出斜角の調整を同時に行う必要があり、ほんの一瞬の意識の乱れも許されない。

 だから幼体期に、意識しなくとも四十二の火孔操作の全てを同時に行えるように長い期間練習することになる。

 そんな練習中の者たちにとって、赤玉を追い掛ける動きは少々難しい。

 追いかける際、彼らの火孔は、後背側からの風と後背の火孔に抗するため、前側の開閉扉が不規則に強く開こうとしているはずで、火孔での移動に慣れてない幼体たちにとっては、それなりに動きづらいはずだ。

 一応簡易技術の片面全閉は覚えているようで、だから赤玉を追い抜いたり、追いつけなかったりして、攻撃を外している。

 まあ追いつかれたところで、繊棘の一撃や二撃耐えられるが……とはいえ、それだけでは危険なので、近づいて来た幼体のワイス機構に波長を合わせ接続。

 拒否をされない内に余白操作を使い、地表付近に溜まった白華を適当に凝縮する。

 ワイス機構は幼体も成体も変わらんから、拒否さえされなければ大丈夫だ。

 私の操作通りに、宙空で静止固圧が凝縮、空に構造物が生まれ、瓦礫が五フォアの高さになるまで大量に降り注ぎ、追ってきた幼体たちが埋まっていく。

 こんな瓦礫程度、火孔の出力を考えれば脱出は容易だが、幼体の火孔制御能力では難しいだろう。

 幼体が瓦礫に埋まったことによって接続が切れたが、しばらく安全になった私は、妙に感情が淡々としていた。

 世界が滅びるのは間違いない、今のところ、私を狙う者しかいないのだから、助かりようがない。

 ただ疑問もある、普通、個体数が多ければ、必ず逆の選択する者は出てくる。

 それが出てこない理由はなんだろうか。

 例えば、洗脳、洗脳を第一に考えたが、残念ながら二手にはその力はない。

 洗脳は波統では行えず、彼らの脳の構造を知らない二手には難しい。

 脳の細部を知らぬ状態で洗脳を強行するならば、狂う者が多数出るから、私にはすぐわかる。

 二手ができるのは洗脳もどきで、核融合生物の感情を強くし、それから囁きかける方法だ。

 これの仕組みは情動が主となるので、情動制御に長けた彼らにはさしたる効果はない。

 もう一つ考えられるのは、二手が彼らに嘘の目的を伝えた場合だ。

 例えば、どうでもいい理由を伝えたり、逆に報酬、赤玉を壊せば強さを与える……と報酬を約束するやり方等色々ある。

 ただ成体があまり攻撃してこず、幼体だけが私を狙うならこの線は薄い。

 戦争は成体の権利で、幼体は参加してはいけない。 それなのに成体は攻めてこず、幼体が慣れない火孔操作をして赤玉を壊しに来るのだから、報酬を与える方面の嘘は考えづらい。

どうでもいい理由なら幼体は動かないから、それも消去できる。

 もう一つありえるのは披我の逆転、つまり真実は伝えながらも、私と二手の立場を逆に教えるやり方だ。

 もしそうなら彼らは世界を守るためにここに来たことになる。

 守るために……か、やはりこれだろうか?幼体たちは二手に嘘を教えられてるんじゃないか?

 これの調査は簡単だ。

 波統は瓦礫を透過するから、精神感応で幼体の心の状態を見れば目的は明確にわかる。

良い心境なら世界を守りに、悪しき心境なら、世界を滅ぼしに来たと決められる。

 また波統の動きで二手の洗脳の有無もわかる。

そう考えながら精神感応を準備する。

 赤玉に心を合わせ、幼体を映す、精神感応によって映し出された幼体の心象風景は、うねり続ける溶岩の海だった。

 七の奥底にあった溶鉱が輝いていたのに比べ、幼体たちの心の溶岩はもっとくすんでいて、毒々しく、それなのに妙に動きが激しかった。

 見ていてもあまり快い印象を受けないから、悲鳴か、慟哭か、そういった負の感情だろう。

 痛みの発露なのか、のた打つ溶岩に一瞬黒い岩が撃ち込まれては、溶岩のうねりが激しくなって壁に打ちつけられる。

 悲惨な心象風景だ。……あの痛みが常時続くんじゃ、恨まれるのもしょうがないか。

 幼体の心が荒れている以上、つまり二手は真実を話した可能性が高い。考えてみればあんな痛みがあって、私と二手の立ち位置を逆転させる意味はないものな。

 まあわかってはいた。

 心象風景を切って、辺りを透視してみると、瓦礫を囲む幼体の数が、十体ほど増えていた。

 どう見ても赤玉を守りに来た雰囲気ではない。

 納得はしていても……少々拗ねたくなったので、彼らに光言語で話しかけたくなる。

 瓦礫は電磁波を遮断する、先ほどの個体には電磁波は届かないから、他の幼体たちに電磁波を飛ばしてみる。

 すると瓦礫に埋まった内の一体に運良く届き、その者のワイス機構を借りて光言語を生成する。

 彼らへの説得は、何がいいだろうか、どうせ語彙がないから、大して選びようもないが……。

 まあ幼体なら、あれでいいか、私は幼体たちに送る言葉を決め、固圧を生成する。






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