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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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水素爆鳴気




 七の突進攻撃はもはや見慣れた光景と化しているが、これは彼の得意戦法とは異なる。

 本来七は極小固圧によって敵の動きを崩し、隙を突き状況に即応する戦いを得意としている。

 それは七の思考の回転の速さや、極小固圧の特性、身体能力、格闘勘と相まって、単純ながら非常に強い戦法であったために、七は常にそれを主体に戦っていた。

 そんな七が固圧を封印した際に採る戦法は、『黄幻の一』に似た戦法のようだ。

 『黄幻の一』は七の合一個体であったため、その情報を元に、一が亡くなった今でも、戦法くらいなら模倣できる。


 むろん、精神や、身体能力、また能の働きその他は違うため、『落伍した英雄』種の中で最強であった一に比べると、身体能力面や技術面で見劣りはするが、固圧を封じている今は一得意の突進戦法を多用しているようだ。

 ただこの戦法の七は、前戦った『落伍した英雄』相手にもやや劣勢であったから、上位個体と戦うには辛いだろう。

 それに対する黄四黒呼の3は、通常シ速二百八十フォアと悪くはないが、格闘が得意な者から見れば遅い。

 さらに青輝色の静止固圧は、非常に脆く、最高硬度でようやく黒皮を切り裂ける程度のため、武器同士打ち合ったら、一方的に破壊されることになる。

 速度に劣り、武器に劣る、身体面に限れば黒呼の3は空戦格闘がそれほど得意ではない。

 ただ補助固圧を交えた場合の格闘戦でいえば、全核融合生物中上位二十に入るほどの戦闘巧者だ。

 格闘と補助固圧の融和、格手の時代では使い道のなかった才能も、こうして使う余地ができて、上位個体にも多様性が生まれた。

 黒呼の3の強さがどれほどのものかは、固圧を封じた七と戦えばわかるだろう。

 惜しむらくは、戦争以外に文明がないことだ。

彼らはどうすれば発展したのだろうか?

 滅びる段となるとそういうことばかり考える。



 七が仕掛けた突進攻撃は、黒呼の3の避けられる速度を超えている。

 シ速にして五十フォアの速度差があると、十分の一シ辺り五フォア、三十分の一シでも、七の槍よりやや長い、一フォアと六十六シーほど動く計算となる、そこまでの速度差があると武器を弾いたりするのは難しい。

 黒呼の3が黒空に青き光刃を引いて、避けようと後方に退いた先に、飛び込んだ七の暗紅槍の切っ先が滑り込み、容易に刺し貫いたように見えた。

 遅き者にとっての突進攻撃は、そのほとんどが回避不能だ。

 だから、昔の基本でいえば退くのは悪手で、むしろ遅き者も相手に向かって突進攻撃をし、互いの相対速度を五百から六百フォア付近にまで高め、彼らの認識可能速の四百五十フォア帯を越えさせることで、互いの認識を難しくし、勝利を拾う。

 そのための道筋作りに戦術があったのだが、しかし現在は、習熟の進歩による脳とワイス機構の連携によって、その辺りの速度帯でも感覚的に状況が理解ができるようになっている。

 相対速度を高めるだけでは勝てなくなって来ているので、だから、現在遅い格闘巧者が使う戦術は……。

 黒呼の3の胴体に吸い込まれた七の槍は黒皮を三層貫いたところで、動きを止めていた。

 硬くした静止固圧の武器は、普通やすやすと黒皮を切り裂いていく、黒皮は硬いだけでなく軟の層の粘りも相当なものだが、七ほどの突進の速度を持ってすれば、貫通できない黒皮などない。

 しかしそれは、貫通するための形状が維持されていてこその話だ。

 今は紅暗槍の刀身に小さな静止固圧がびっしりと付着していた。

 その付着した静止固圧は、槍が奥に刺さるにつれて、槍と黒皮の縁に盛り上がり、ある程度の分厚さになったところで“縛”の熱が効いてきて固着、その突起が留め具となって、槍はそれ以上差し込むことができなくなった。

 槍に引っかかりを付けて止めた訳だが、この位の小さな静止固圧だと構造的に脆く、あまり速度が上がると貫通されたりする。

 そのため退くことで相対速度を落としておく必要がある。

 七は槍に刺さった黒呼の3ごと、猛烈な勢いで突き押していく。

 その風の摩擦による圧力の最中に、“散”の超高熱を放出し、槍に付着した静止固圧を溶かそうとするが、黒呼の3は、長い双剣を同時に振るって、七の持ち手とわき腹を狙う。

 変化を嫌った七は伸ばしきった速筋を爆発させ、槍を円転、直上に振るい刺さっていた黒呼の3を上に放り飛ばし、さらに急加速、一時的に使えぬ槍を横に振るって、敵の持つ青輝色の構造体を破壊しようとする。

 硬さに勝る得物で、強い衝撃を与えれば細い武器は曲がる。

 槍は黒呼の3の捧げ持つ双剣に迫り……、すると一瞬、双剣の右手側の内部に白亜の輝きが見えた。

 その輝きに、瞬間、怖くなった私は、七の僅か右、上方にあった白華を凝縮、丸い二十シーほどの構造の雑な静止固圧を生成する。

 するとどうだろう?つんざくばかりの爆音とともに、私の作った丸い固圧に、黒呼の3の剣が突き刺さり、その勢いそのまま剣撃が七の肩部に振り下ろされる。

 七が避けれなかったのか、避けるまでもないと考えたのかはわからない。

 いつの間にか振り下ろされた剣撃は、私の丸い静止固圧ごと肩部に当たり、あっさりと丸い固圧を断ち切ったものの軌道がズレたおかげで、刃先が七の黒皮の表層を滑っていく。

 右横に周りこんでいた黒呼の3の頭部に七が振り切った槍の側面がぶつかり、その衝撃で黒呼の3が落下していく。

 頭部とはいえ、核融合生物は衝撃に強い身体をしているから、これはわざと吹っ飛んだだけだろう。

 七は上方、黒呼の3は下方と互いに離れる方向に飛び去り、距離が見る間に七百フォアほど離れた。

 そういえば、私は今反射的に固圧を使ったが……、守るだけなら意外と使えてしまうらしい。

 これは心理的な問題だ。平和主義者の私は、攻撃は好きではないため、攻撃の場合だと無意識の内に力を抑えてしまうんだろう。

しかし危うかった。

 七は知らんだろうが、黒呼の3のあの剣撃は、初見殺しだ。

 青輝色の武具は基本的に脆く、弱い。

だがある操作をすれば他にない特性を一つ持つ。

 それは双剣に含まれた酸素を利用する水素爆鳴気での攻撃だ。

 この攻撃の前段として、戦闘中に片一方の剣の内部を溶かし、四手子と酸素を分離、中に酸素の溜まりを作る。

そして、狙った瞬間に外界の水素と化合させ、酸水素爆鳴気による水素爆発を引き起こし、その爆発の衝撃を利用し急加速、予想外の一撃を喰らわす。

 核融合生物の似たような技に水素の膨張を使った物や、速筋の二手子と水素の化合を使ったやり方があるが、水素爆鳴気を利用するのは黒呼の3のみが使う技法のため、初見ではまず避けられない。

 七も前線においては黒呼の3と空戦格闘を行ったことはあるが、この技は見たことがないはずだ。

 というのも、青輝色の武器自体が大気の酸素含有量が多い空域でしか作れないため、黒呼の3は遠征中と本拠では武器を変えるのだ。

 彼が首領となる決め手となった技術で、終端で戦う時にしか使ってこない奥義と言っていい。

 見極め方は慣れれば簡単で、剣の内部が一時液化することが前段、次に四手子と酸素の分離が始まり、四手子によって酸素を内包する際、青輝色の剣の内部に白い静止固圧の層が生まれるため、青輝がうっすらと白く輝く。

 白くなったら何時でも水素爆鳴気を扱えるため、ワイス機構で剣材質の薄い箇所を捜しておき、爆発の方向を把握しておくのが大事だ。

 一度使った剣は弾けて一時的に使えなくなるから、彼は双剣のどちらか一方しか爆破させないし、準備もしない。

 つまり今距離をとったのは、また弾けた右側の剣を生成しなおし、水素爆鳴気を利用するためだろう。

そうやって対応策を思い出す内に、私なら対処は可能だということも悟る。

 水素爆鳴気を使った方法は、妨害が可能だ。

 ただそれは核融合生物には難しい。

 普通、ワイス機構は指定されていない操作は投げ出しやすくなる習性があるから、別の用途の固圧を妨害に流用した場合は、大抵相手の正規の操作に負ける。

 そこで阻害系や妨害系の習熟は、汎用性に多くとって、それを深化させるのが基本となる。

 広域の熱操作で相手の生成を遅らせたり、乱気流や雷の発生や、熱圏の無力化、白靄での吸着等、敵の習熟との比べ合いをしながら、あとはワイス機構の判断に任せるしかない。

 しかし私なら、自分で計算式つきでワイス機構に指示を与えられるので、妨害なら任意の地点を無力化できる。

 ……妨害する操作をしようとして、……私はまた考える、練習は良い、守るのも良い、だが、一方に汲みし、核融合生物を殺すのには僅かな嫌悪を感じる。

 だが滅びるしな……、だから操作しようとして、操作しようとして……

「うーん……まあいいか、しばらく眺めよう、だいいち、まだ彼らは選んでない、気が乗るまではこれでいいさ」




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