原初生命、ガス惑星にて邂逅す。
第一章
四手の主-二手の主と相対す!-
ガス惑星の濛々たる大気の移ろいを眺めていると、暗闇に、私に訴えかける波長がある。
これは読み取るのに時間がいる、原初生命同士の言葉のようなものだ。
この言葉の送り手“二手の主”は私の作った世界を見学しているから、その感想だろうか。
私は少々楽しみに二手の言葉を翻訳する。
二手の疎密波を言葉に直すとこんな感じか。
『さて四手の主シーフォアよ、つい先ほどまで一億齢の地にて生命の観察をし、その有り様を眺め、結論が出たので申し渡す』
結果を聞くのは緊張する。
私は原初生命としての力のほぼ全てを、このガス惑星に生命を作るのに費やしたから、ここが否定されたら何も残らない。
「そうか見たか、どうだった私の世界は?美しい世界を見たのだ。さぞ感動したことだろう」
『大いに感情は揺れ動いた』
それにしてもよく伝わる疎密波だ。
二手の疎密波は“波統”を使っているため、通りが良いんだろうか?
四手子を介する私の波長は遠方への伝わりが弱い故、このガス惑星に居を構えてからは、他の原初生命との繋がりは断たれていた。
だから二手が見学に来てくれて本当に嬉しい。
その感想も良いものだといいのだが……。
次に伝わってきた二手の疎密波は、少々どころではない悪言が含まれるものだった。
『何が最高なものか、四手の主シーフォアよ、貴女の創世は過酷にて、非情、残酷にて、陰惨、見るのもはばかるその惨状はもって生命を育む地にあらず、この地を評するのに他に言葉はいらない。
むろん褒める点など一切なく、即座に滅ぼすべきである』
滅ぼ……
「ん?なんだと?」
『このような残虐な世界を創り出した貴女は誠に恐ろしい女である。
ただただ息絶へるべきだ。
よってシーフォア、我は貴女を成敗し、この無情の世を滅ぼそうと思う。これが短くはあるが貴女への処刑宣告である』
ほう、二手、大きくでたな、こいつは私の世界を滅ぼすのか?居丈高な口調に、温厚な私も怒りを覚える。
「よくも言ったな二手の主、どこを見ているのだ貴様は、私の世界の生物共はみんな幸せに暮らしておるではないか。
まったく嘆かわしい、貴様など招待した私が馬鹿だった、この世界を滅ぼす?貴様こそ非情なやつじゃないか、この宇宙から消え去れ、殺戮者」
と、まくし立ててから考える。
状況がよくわからんし、滅ぼされたくはないが、抵抗は無理だろう。
今は二手の方が強いし、二手は強引な奴だ。
二手の物質の一つたる酸素がはびこりそれまでの生命体が滅びた星も少なくはない。
二手は、枯渇した私なんかより遥かに力があるし、戦っても無駄だ、仕方なく私は二手の主と思念を交わす。
「あーあー、わかった、二手よしかし、なんだな、ずるいなそれは」
『狡い?』
「そうだずるいぞ、私は世界を創るのに力を使い果たした。
貴様は命も生み出しもせずに、怠け、力を持て余しているではないか。
一方的だ。せめて滅ぼされない望みがほしいのだが」
その言葉に二手は呆れ果てたようだった。
『この期に及んで命乞いとは、はなはだ情けない女だ。
とはいえ、我としても自らの一存で、そなたが創り出した核融合生命全てを滅ぼすのは心苦しい。
我は生命を大切に扱う。そこで斯様な私案があるが、それでよろしいか』
私案?少なくとも二手は一方的に生命たちを殺すつもりはないのだろうか。
「どんな案だ?」
それの返答は、意外なほど対等なものだった。
『内容はこうだ。互いが抵抗のできない姿にてかの地に降り立ち、彼らに真実を話し、彼らの手でもって我か、貴女を殺させる』
しかしわかりづらい。
「うむむ……貴様の言い回しは面倒くさい」
『つまり、我がこの世界の真実をかの者たちに伝へるから、恨みがある者は貴女を殺しに行こう。
貴女はもって沙汰を待てということだな。命乞いはかの者らに致せ』
何となくはわかったが、念のため確認する。
「いや、すまない。つまりこの世界が助かるためには、私の作った核融合生物たちに私が命乞いをすればいいのか?そして互い、つまり二手を殺させれば私の勝ちか」
『左様、我もかの者らに真実を伝へる。
この苦しみの原因は貴女で、貴女を殺せば世界が終わることを伝へる。
それを伝へたなら、創造主を恨む者は貴女を殺しに行く。
それが敵対者たる我の手勢となる。
逆に貴女はかの者らに命乞ひをする。
この世界を慕う者は貴女を守り、反逆者たる我を殺しに来る。それが貴女の手勢となる。
我らは宝玉となり無抵抗にて降り立ち、周りの生命を説き伏せる。
彼らの手によって貴女の宝玉が壊されれば貴女は世界を滅ぼす。
我の宝玉が壊されれば我は世界から手を引く。
単純な戦いであろう。まあ我は力を温存してる故貴女に何かされたところで死ぬことはないが、貴女が勝ったのなら、この世界からは手を引こう』
「つまり。この世界を存続させるには、彼らにこの世界の素晴らしさと、貴様の目的を伝えればいいのだな?私の世界に満足していれば私の宝玉を壊されずに済む?」
『如何にも、貴女は力が無いから手勢を好きに強化してよろしい、我は手勢を強化しない。
まあ微々たる強化になるだろうが、なんの抗いもなく死ぬのは虚しかろう』
つまりはまあ、二手からしてみれば私の世界が残酷で苦しいものだから、核融合生物たちは必ず私を殺すと考えてると云うことか。
そして逆に世界を恨む者がいなければ私の勝ちとなる。
しかも手勢を強化していいのは私だけ?こんな条件どう考えても私が有利だと思うのだが、本当にいいのだろうか。
私の世界は食糧も豊富だし、透視さえできれば風光明媚でもある。
彼らには見えんが。
とそこであることに気づく。
「しかし、なんだな、二手よ。説得する……といったが、核融合生物どもは言葉が通じんのだ。
彼らの会話は光を点滅させるだけで、たかだか単語が40程度しかないからな。
そんな者どもをどうやって説得し手勢に加わえればいい?
だって彼らは言葉の意味がわからないのだ。“私”とか“あなた”と言った概念もないんだぞ、“宝玉を壊すな”なんて概念もない、それでどうして伝えられるのだ」
『それは貴女が考えるべきこと。我は“波統”により、精神感応ができるため、単語に寄らず、おおよその意志伝達が可能だ。
彼等の概念になくとも根気強くやれば意味ぐらいは伝わるだろう。
まあ卑しい貴女のことだ。もし会話ができたのなら、彼らを騙し手勢に加えることであろうな』
「卑しい?無礼なやつだ。私はそんな奴ではないぞ、騙したりはしない。正々堂々とこの世界の素晴らしさを教えるだけだ」
二手の波紋は渋さを含んだものだった。
『四手よ、もし貴女の言うようにここの生命たちが世界を素晴らしいと思っているのなら、何人も貴女の宝玉を壊しには来ぬだろう。
あり得ぬことではあるが、問答は終いだ……己の罪業を悔い、彼の者らに八つ裂きにされに落ちよ、シーフォア、貴女の創りし飛翔せし一億齢の地に』




