彼女は、誰?
――――町はずれにある『裏野ドリームランド』。
そこは、もう随分と以前に閉園となった遊園地だった。
開園当時は明るい音楽が流れ、笑顔と歓声に溢れた楽しい雰囲気に包まれていたに違いない。だが、閉鎖され廃墟となってしまった今では、当然人気などない。
広大な敷地のあちらこちらに置き去りにされた薄汚れた動物の乗り物。
長い間雨風に晒され続け、塗装が剥げて堕ちて鉄骨が剥き出しになった、錆付いた遊具。侵入者に荒らされたらしき建屋は扉が壊され、周囲にはごみが散乱しているし、建物自体も老朽化によって傾き、入り口には自然に落下したらしい看板が拉げて転がっている。
そして、かつてたくさんの来園者が歩いただろう歩道は生い茂る雑草に押し上げられ、至る所で波打ってアスファルトに亀裂を走らせている。
残酷な程鮮明な時間の経過。
しんとした静けさと過去の名残が、寂れた園内をさらに薄気味悪く感じさせる。
だが、明日香たちにとって、それは特殊なものではなく日常の一つの景色だった。
郊外といっても町からそれ程離れていない、そんな立地にあるものだから通学路を少し外れれば当然その姿は見えてくる。中に入ったことはなくとも、子供の頃から見ている柵越しのその光景には皆、見慣れてしまっているのだ。
彼女たちにとって、そこは単に「身近な廃墟」、そんな認識でしかない。
だから、友人の誘いに軽い気持ちで応じた明日香は、鉄柵を越え園内に足を踏み入れた瞬間、湧きあがってきた漠然とした後悔の念に、首を傾げた。
言い知れないこの感情は恐怖なのか、それとも不安なのか。
本当は乗り気ではなかったのかもしれないと、明日香は思っていたより小心者の自分を笑った。後ろで、彼女の後を続いて同じように柵を乗り越え入ってきたさくらとゆかが「きゃーきゃー」と楽しそうな悲鳴を上げて、「怖い怖い」と笑っているのに、どこかほっとして振り返る。
真夏の蒸し暑い夜だ。
夜風も生ぬるく、不快指数は非常に高い。
こんな熱帯夜が続くと、涼を求めたくなるのが人の性と言うやつなのだろう。
「ねえ、裏野ドリームランドの噂、知ってる?」
そんな風に話を切り出したのはゆかだった。曰く、あの遊園地では度々子供が居なくなるとか、ミラーハウスから出てきた人が別人に変わっているとか。
廃墟と言えば怪談話が付いてまわるのはお約束みたいなものだ。古くからある薄気味悪い遊園地が心霊スポットになっているのは、近所に住む彼女たちにとっても有名な話だった。
「知ってるよ。でもさー、信憑性無いよね」
「えー?なんで?」
「だってさ、遊園地で子供が居なくなるなんて、本当にあったなら警察沙汰じゃん?」
「ま、それを言っちゃ興ざめでしょ?せっかく、あそこで肝試ししようと思ったのに」
「肝試しー?」
「そそ、私ちょっと、細工してきたんだよね~」
楽しむことにはとことん努力を惜しまない、それがゆかだった。
「楽しそうだね!いこ、いこっ」
噂自体をあまり信じていない明日香と違い、さくらは楽しそうにゆかの提案に賛同している。空気を壊すのもなんだしね……と、本当に軽いノリで、
「うーん、まあ、即興のお化け屋敷と思えば楽しいか。いいよ。行こうか」
そう言って明日香も行くことにしたのだ。
****
「うわー、真っ暗」
無人の遊園地の中を懐中電灯の明かりだけを頼りに歩く。
「よく一人で来れたね、ゆか」
無燈の園内は、町の中では体験したこともない様な暗さだ。
「昼間と夜とじゃ全く雰囲気違うよ。さすがにこの状況だったら一人は無理」
「だよね~」
3人分の懐中電灯で前と足元を照らして、3人団子みたいに肩を寄せ合って歩く。
すごく怖いとかじゃないけれど、雰囲気を楽しむためだ。
非日常を楽しむ、ということはどこか興奮する。怖さ半分、わくわくと楽しさ半分。
案内役のゆかが真ん中になって、先導していく。
辿り着いた先は、ミラーハウスだった。
懐中電灯を向ける先の入り口に扉はなく、ちらりと覗き見える中の鏡にはスプレー缶の落書きが見える。廃墟に不良は定番だが、ここも御多分に漏れず荒らされた後らしい。が、そんなことなど気にもせず、ゆかは楽しそうな顔で解説を始めた。
「えーっとね、このミラーハウスの出口横にスタッフ用の扉があるんだけど、その中に通路とトイレがあるんだよね。ほら、着ぐるみ着たマスコットがお客さんと同じトイレは使えないじゃん?だから、スタッフが使いやすくて目につかないこういう建物の中に設置してあるんだって」
「良く知ってるね」
「おばさんが若い頃ここでアルバイトしてたことがあってさ~、それで聞いたんだ」
「なるほど」
「で、さっそく肝試しの説明ね。ルールは簡単。ミラーハウスの中を通って出口から外に出る前にトイレに
寄ってあるものを取ってくることーっ」
「あるもの?」
「手拭き用のペーパー。誤魔化せないように私の落書きがしてあります。それを持ってくること!」
「わざわざそんなもん設置しに昼間来たの?」
「ふっ、ふっ、ふっ。楽しいことには労を惜しんではいけないのだよ、明日香君」
「ゆかってば、全力で肝試し楽しむ気だね!」
呆れた明日香に、ゆかは得意満面に胸を張り、さくらは噴き出して笑った。
じゃんけんで一番勝ったはずの明日香は腑に落ちない顔で、自分の手をにぎにぎした。
「何時も勝てないのにこういう時に限って……っ」
一番勝った人が先行、という勝負。何故か、勝ち抜け一番。こういうのを試合に勝って勝負に負けたと言うのだろうか。
後ろではにやにやした顔で二人が手を振っている。
それを恨めし気に見て溜息を付くと、懐中電灯を片手に明日香はしぶしぶミラーハウス内へと足を進めた。
『さぁ、さぁ、さぁ。鏡の中に映る君は本当に君かい?』
赤字でそんなことが書いてある。ゆかの字だ。
ミラーハウスの入れ替わりの噂に合わせたネタだろう。思わず懐中電灯で鏡を照らし、自分の姿を確認してしまった明日香は苦笑いをした。
「と言うことは、他の所も噂に合わせた何か準備してるのかな?」
ゆかは中々に凝り性だから、今夜の肝試しは結構面白いかもしれない。
(ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車……ほかに何があったっけ?)
何はともあれ、まずはここの攻略が最優先。明日香は懐中電灯でぐるりと周囲を照らして見回した。天井に並んでぶら下がった裸電球。当然灯っているずもなく、ミラーハウスの中は本当に真っ暗だ。懐中電灯の明かりだけが頼り。暗闇の鏡というだけでも恐怖を誘うというのに、今までに侵入した不心得者が割ったのだろう、幾つかの鏡は砕け散っていてそれがまた懐中電灯の光を不規則に反射させるものだから、ますます恐怖が煽られる。それでなくとも、物理的に尖った鏡の破片も怖い。
ふと、気が付くと、二人の声が聞こえない。
外からの音が全く聞こえない。……とても静かだ。
静かすぎて不安になってきた明日香は足早に先に進む。けれど、此処は迷路の中。通路だと思っていた先に足が見えて驚いた彼女は足を止めた。
よくよく見れば、それは自分の姿だった。
「びっくりした……」
うすぼんやりと自分の姿を映す鏡を前に立ち竦んだまま、明日香はほっと息をついた。
けれど同時に、その後ろに何かが映ったら……と嫌な想像してしまい、ぞっとして全身に鳥肌が立った。
慌てて鏡から目を逸らし、鏡を直視しないよう気を付けながら、先に進む。
ミラーハウス自体は子供向けのアトラクションだったらしく、暗闇とは言えむやみやたら迷うこともなく、その後は何も起こることなく、無事出口へとたどり着いた彼女は出口ではなく「職員専用」と書かれた扉を押し開いた。
聞いていた通りそこにはバックヤードの通路とトイレ。トイレは思っていたよりも綺麗だった。鏡も割られていないし、公園の公衆トイレみたいな悪臭もない。
そして洗面台のところには吸着固定用のペーパーホルダーが設置されていた。どっかで見たことが……と考えた明日香は呆れた声をあげた。
「ちょっとこれ学校のじゃん」
ゆかはこの肝試しのためにこっそり学校の備品を拝借してきたらしい。
(ばれたら絶対叱られると思うけど……、ゆかがそんなへまをするわけもないか)
変に度胸があって、要領のよい悪友である。
肝試しだというのに、最後の最後で笑ってしまった明日香は、
「とにかく、ミッションをこなさないとね」
そう言いながらペーパーホルダーから紙を引っ張り出した。
ずるりと引き出されたその紙にはゆかお気に入りのキャラクターのイラストが。それから、ゴールおめでとう!と、おどろおどろしい文字で書かれている。
(可愛いな、これ)
怖がらせるばかりじゃないのか、ゆからしい。
「あ、やだ、インク付いちゃった」
しっとりと濡れた感触に、指を見れば赤いインクが付いてしまっている。
(昼間に準備したと言っていたけれど、まだ乾いていないの?)
「どうせ、乾かないまま突っ込んだんでしょう。ゆかってば、もう」
と言うことはさくらが取りに来る分も濡れているんじゃない?そう思って、もう一枚紙を引き出した。同時に彼女の手を掠めて、ぽとりと何か落ちてくる。
つられる様に視線をおとし、……明日香は悲鳴を上げた。
綺麗にマニキュアの塗られた、それは。
切り取られた、人の指、だった。
「何、何、何、何っ?!」
慌てて外へ飛び出す。
だが、そこには二人の姿がない。
しんとした静寂と無人の暗闇が広がるだけ。
動揺も露わに慌てて周囲を見回した。
「嘘でしょっ?!ちょっと、ゆかっ!さくらーっ!」
大声で呼びかけるが、返事はない。
「いい加減にしてよっ!ゆかーっ!さくらーっ!一人にして怖がらせようとか最低なんだからねっ!」
僅かな残響を残して、己の声が消える。
願うように返事を期待するが、何処からも応えはない。
静寂と暗闇に、どっと不安が大きくなっていく。
叩き付けるような鼓動を沈めようと胸に手を当て、明日香は大きく深呼吸を繰り返した。
(落ち着け。落ち着け)
思わず慌ててしまったが、あれはきっと玩具に違いない。怖がらせるためにゆかが仕掛けていたんだ。
(本当に、質の悪い悪戯。ゆかをとっちめて、さっさと帰ろ!)
そう思うのに、がくがくと膝が震えるのを止めることが出来ない。
あの、生々しい切断面。
触れた感触を思い出し、明日香は身震いした。
無理だ。此処に留まるのは、無理。
二人は出てこない。
恐怖を誤魔化すのはもう限界だった。呼吸は既に引きつけのように浅くなっている。
友人たちを心配する余裕は一欠片も残っておらず、二人を探すと言う選択肢は選ばれるどころか浮かび上がることもなく、彼女は入り口に向かって一目散に駆け出した。
どれだけ外灯があろうとも、廃園のそれが明かりを灯すことはない。
真っ暗な暗闇の中。足元を照らすのは懐中電灯の小さな光だけ。
明日香は、ただひたすら走った。
虫の音すら聞こえない静けさに、聞こえてくるのは自分の足音と息遣いだけ。
体感的にはそろそろ遊園地の端に辿り着く頃の筈。全力疾走に痛む脇腹を押さえながら、明日香は先を照らした。懐中電灯に照らされたその光景に唖然として、絶望に顔が歪む。
「ど……ゆ、こと……っ?」
入口に向かって走っていたはずだ。いくら暗闇とは言え、地元。土地勘もあるから方向も間違うはずなどないのに。
(それなのに、どうして……っ!)
目の前にあったのは、逃げ出してきたはずのミラーハウス、だったのだ。
呆然と立ち尽くす彼女の背後から、砂利を踏む音が聞こえた。
慌てて振り返る彼女の前に広がるのは漆黒の闇。
「誰っ?!」
20メートルはゆうに先、アスファルトを照らす明かりに間接的に照らされて、気配はぼんやりと人の形を作った。
それは、ゆらーり、ゆらーりとゆっくり近づいてくる。
右手だけが、何か持っているのか異様に長い。
誰かいる。
たった一人で遊園地に残されて心細かった明日香にとってその存在は安堵を齎した。
ほっとして改めて、相手へと懐中電灯の明かりを向けた。助けを求めようとして一歩踏み出しかけて……立ち止まる。
足元が照らされた。
汚い、古びた靴。
汚れて解れた黒っぽいズボンの裾。
浮浪者?
安心はまた不安に変わる。
人にしては長い手。
そしてその手が持つ長い物が……どす黒い色をした鉈だと知った瞬間。
ぞわり。
全身に、一気に鳥肌が立った。
カタカタと震える手が、意図せず懐中電灯の角度を変えて、相手の顔を照らし出した。
その途端。
「きゃぁぁぁぁっ!!!」
明日香の口から絶叫が迸った。
返り血を浴びた男がにやりと嗤っていた。細い月のような弧を描く目、裂けた様な大きな口元から奇声のような嘲笑が上がる。
明日香は、真っ白になった頭で、踵を返した。
何も考えられず、とにかく逃げるために走り出した彼女は、すぐに何か重たいものに足を取られる。転びそうになった体勢を慌てて立て直すが、蹴飛ばしたものの柔らかな感触に、すごく嫌な予感を覚えた。
恐る恐る、足元を見下ろす。
その先にあったのは。
友人の……さくら。その首は、有り得ない向きを向いている。
まだ、足に触れる体温は温かい。
だが、間違いようもない。穏やかな表情ながら、白目をむいた彼女は息をしていなかった。首をへし折られ、生きているはずがない。
「ひっ」
明日香は後ずさりして、別の方向へ逃げ出した。
何でこんなことに。
来るんじゃなかった。
来るんじゃなかった!
あの柵を乗り越えるんじゃなかった!
(誰か……っ、誰か、助けてっ)
必死に暗闇を走り抜け、建物の物陰に隠れる。
零れそうになる悲鳴を自分の掌で塞いで、震える肩で息をする。
しんとした、静寂。
足音は、聞こえない。
(……追って来ていない?)
でも、もう、ここが何処かもわからない。がむしゃらに走って来たから、方向もなにもわからない。自分で園外に出るのは難しい。
ならば……助けを求めればいいんだ!
携帯の存在を思い出した明日香は壁に背を預け、震える手で携帯を取り出した。悴んだように指はまともに動かない。それでも何とかディスプレイに自宅を表示させると、通話ボタンを押して祈る様に携帯を耳に当てた。
1コール、2コール、3コール……
「早く、早く……っ」
4コール、5コール……
(お願い繋がって……っ)
6コール目が終わる頃、ぶつっと繋がった音がして、安堵感に泣きそうになりながら、明日香は助けを求めた。
「もしもし?!おかあ、さんっ。おとうさん、助けて…っ」
「…………」
何故か、返事が返らない。
「え、どうして?」
耳から離してディスプレイを見直せば、そこにはちゃんと「自宅」の文字。
もう一回、携帯を耳に当て、懸命に話しかける。
「おとーさん?おかーさん?聞こえてる?!」
小さなノイズ。
電波状況が悪いのかと、その声を聴き洩らさないようにとぐっと耳元に携帯を押しつける。
「……る」
漸く小さな声が聞こえ初め、明日香は泣きそうになりながら聞き返した。
「え、なに?おとーさん、聞こえない」
「……殺してやる」
受話器から聞こえてきたのは、知らない男の声だった。
「殺してやる」
次は直ぐ後ろから。
振り返ると男が鉈を振り上げていた。明日香は必死で逃げ出した。
「いやぁぁぁっ!!」
どれほど走ろうと、遊園地の中からは出られない。
メリーゴーランド、ドリームキャッスル、ジェットコースター……薄暗い視界の中で、様々なアトラクションを通り過ぎるのに、遊園地の端にはどうしたってたどり着けない。
走って、走って、近くにあった建物の中に飛び込む。
奥まった通路を、壁にぶつかりながら走り抜け、その奥のトイレの扉を開いた。
トイレの一番奥の個室に入り、籠る。
鍵を掛けて、がたがたと震えていると、
きぃい……
扉の開く音が聞こえてくる。
(大丈夫、鍵さえかけていれば、中には入ってこられない)
息を殺し、祈るようにそう思う。
パタリ、隣の扉が開いて、閉まった。
(ああ、トイレに入りに来た人か)
…………
沈黙、音がない。静かすぎる。
隣のトイレに入った人は…
いや、此処は廃遊園地、誰がトイレなど使うと言うのか。
自分の思考が混乱して鈍ってきていることに明日香は気付いた。
ふと、暗いのに更に陰った気がして、頭を上げる。
上の隙間から、にいと裂けた口で笑った男が上から覗き込んでいた。
「ひ……っ」
スライド式の鍵を開け、まろびでるように一目散に駆け出す。
もう、悲鳴すら、出て来ない。
怖い、怖い。
何時まで逃げ続ければいいんだろう。
何時まで、この鬼ごっこは続くのだろう。
通路を走り抜けて、悪夢の中を逃げ惑う。
誰もいない遊園地の中。
「かはっ……っ、はぁ、はぁ…はぁっ……」
息も絶え絶えになって、足元が覚束なくなっていく。足が縺れて明日香は転んだ。
コンクリートにぶつけた膝が熱い。擦過傷に血がにじむ。
この鬼ごっこは終わらない。
絶望の中、はと顔を上げようとした次の瞬間、首筋を強烈な灼熱感が襲った。
けれど声帯は壊され、悲鳴も何も零れることはなかった。
かふっと、裂けた気道から息が漏れ、血飛沫が噴水の様に吹き出して地面を濡らす。
それをどこか他人事のように視界に捕らえながら、彼女は唐突に理解した。
(ああ、分かった)
さくらの顔が穏やかな表情をしていた理由。
死ねば、終わる。
(だから、か)
ごとりと音がして、床に転がった彼女の顔は安堵の表情を浮かべていた。
****
「ねえ、ゆか。大丈夫?」
「うん……」
彼女の仲の良かった二人の友人が居なくなって1週間が経つ。
捜索願も出て、警察も探してくれているそうだが、未だ二人は発見されていない。
そのせいか、ゆかは人が変わったように暗く、沈んでしまった。
「無事でいるといいね」
「うん」
クラスメートは皆、明るくムードメーカーだったゆかを知っていた。だからこそ、あまりの落ち込み様が居たたまれない。男子の一人が彼女の肩をぽんと叩き、励ますように声を掛けた。
「俺達で力になれることがあったら言えよ」
「……本当?」
その目に期待の光が宿るのを見て、彼は友人と共に頷いた。
「ああ」
「任せろよ」
僅かな逡巡の後。
躊躇いがちに、彼女は口を開いた。
「少しだけ。もしかしてって、心当たりがあるの。あのね……裏野ドリームランドって知ってる?」
皆に伝わっている怪談だけが事実とは限らない。
人が消える、人が変わる外に居る人にわかっているのはそれだけ。
その原因なんてわからない。だって、当事者はもういないのですから……
夏のホラー2017に参加するつもりで書き始めたものです。が、参加間に合わず(笑)
面白い企画と設定だったので、最後まで書いてみました。
少しでもひやりと夏の風物詩らしい思いをしてもらえたなら嬉しいです。
後半走ってしまっているのは、書いてるのが怖くなってきたからでした……すみません。