プロローグ / 自己紹介は簡潔にすべし
『物事には基準がある』と初めに言い出したのは誰だろうと、いつも思う。
わざわざ口にせずとも、みんなが大体同じようなところに設置する『基準』。
それに初めに気づいた人はおそらくその『基準』に大層苦しめられた人なのだろう、と親近感を抱かずにはいられない。
大きく下回れば馬鹿にされて距離を置かれ、逆に飛び越えてしまうと、今度は天才だなんだともてはやされてされて、やっぱり距離を置かれてしまう。誰とも揉め事を起こすことなく、平和に平凡に人生を送るためには他の人に埋もれて見えなくなるくらいの地味で無個性な人間であることが不可欠だと、私は思う。
その点、私――相園美幸という存在はその基準をなぞったような人間だと自負している。
お金持ちというわけでもないが、貧乏というわけでもない。特筆することがなにもないような家の一人娘として生まれた私は、頭脳・運動神経全て人並み。持病などもなく、使命感に燃えるタイプというよりかは今どきの若い人にありがちな少し冷めた性格で、見事に無個性。二人組になってお互いの自己紹介をしてくださいと言われ一通りのことを話し終えると、相手の人が「そ、そっか」と曖昧な笑みを浮かべ、そこで会話が終了してしまう。
そんな調子なら、さぞかし平凡な人生を送っていることだろうと思っただろうか?
……残念、そうはうまくいかないのが人の世というものである。
普通の日常をおくるにはこれ以上ないバランス型スペックの持ち主だというのに、たったひとつ。そのたったひとつにして最大の問題に、私の人生は振り回されてきたのだ。
――朝の身支度のため大きな姿見の前に立つと、鏡に自分自身の姿が映し出される。
シミひとつない真っ白い肌とミルクティーのような色をしたブロンドの髪は、外界に一切触れたことのない、ショーケースの中で大事に守られてきた人形のように綻びを感じさせない美しさで、大きな翡翠の瞳と甘めの顔立ちがさらにその人形らしさを強調している。
わかりにくいのであれば、美少女の外見を褒める表現をいくつか思い浮かべて見て欲しい。
それをいくつか組み合わせて、先ほどいった要素を反映させていけば私が出来上がる。
ようするに、私は神の創造物級にかわいい美少女なのだ。(この表現は他人から言われたものであって、自分から言い出したものではないのであしからず。世界一とか言い出さないだけマシだと思って、軽く受け止めて欲しい)
ここで、また先ほどの話に戻る。
優れていても劣っていても、平均から大きく外れているというだけで注目を集めてしまう。
見られて、遠ざけられて、他の人がやったなら気にもされない少しの失敗がクラス中の話題になる。そんなの、いじめと何も違わないし、かわいく生まれて得だなんて、生まれてから一度も思ったことがない。
もちろん友達なんてできたことがないし、きっと私は孤独なままで一生を終える。そのことに恐怖し、涙を流すことにも疲れ果てた。
もう、なにも期待しない。
長年の葛藤の末そう決意した私が、どうしてまた人と関わるようになったのか。
それはもう、あの日祐太さんに手を差し伸べられてしまったからだと言うしかない。