美を知る旅
人がごった返している。まるで、戦争なんてなかったみたいに。あんなに人が死んだのに、全然減りもせず、むしろ戦前以上に人は増えていた。
「おい美季、こっちだ」
「大丈夫見えてる」
「そうか、だったらいいんだ。もうじき着くからな」
私がいつまで子供だと思ってるのかわかんないお父さん。仕事ばかりで全然家にいなかったお父さん。ガラにもなく旅行の計画を立てたお父さん。お父さんなのにあんまり知らないお父さん。
「わかってるっていうか建物は見えてるから迷うことないよ」
「あ、まぁ…そうだな。うん。悪かったよ」
「や、別に謝んなくてもいいけど」
「そうか…。そうだな」
180センチちょっとの長身にほっそりした身体つき。スタイルはいいけど顔は普通だ。顔が良くて背が低いよりは救いがありそうだけど。そんなに歳もいってないのにメガネをかけて、髪には白髪が混じっている。私の目があんまり良くないのも、背がお母さんより高いのも、たぶんお父さんの影響なんだろうな。
お父さんの携帯から、流行りの音楽がワンフレーズ流れた。たぶんお母さんからの連絡だ。
「美季、いまお母さんから連絡が来たんだけど、もう向こうに着いちゃってるらしい。はぐれないように少し急ごうな」
「別にはぐれやしないから急ごうよ。お父さん大きいから見えるよ」
本当…すぐ子供扱いする…。
気を遣ってゆっくり歩くお父さんを追い抜く勢いでスタスタ歩く。今日は天気が良い。ほどよく暖かいが少し風は冷たい。このくらいが暖かすぎるよりはちょうどいい。