プロローグ 泣きたくなる音
――泣きたくなるような、音がした。
それは無色透明の揺り籠だった。
保存と管理を目的とする溶液槽。
そしてそれを維持するための動力源。
誰も知らない地下に沈んだ建造物は、ただ与えられた設定の通りに動いていた。
故に大気中から食らった魔素は常に動力へと変換され、その全てが余すことなく施設の維持に充てられる。
それはとても長い、永遠とも思えるほどに長い待機の日々だった。
眠ることも許されず、止まることも許されず。
ただ守るために待機状態を維持し続けた。
けれど――その時間はあまりにも長すぎた。
物質はやがて劣化する。
長く稼働していた施設の大半は時間という毒に蝕まれ、部品は摩耗し、取り込んだ魔素の変換作業にもいつしか支障が生じていた。
すなわち、動力という名の生命線が絶たれたのだ。
――耳を塞ぎたくなるような音だった。
施設から発せられた異常を知らせる警報音。
それは一つに留まらず、二つ、三つと徐々に数を増やしていく。
同時に問題の対処が遅延、停滞を繰り返し、蓄積された負荷が一瞬、本来の機能を狂わせた。
まるで傷付いた身体から血を流すように。
痛みに耐えかねた悲鳴のように。
一部の情報が誤信に混じって、地上の外界に漏れたのだ。
――誰か助けて。
それは、泣きたくなるような音だった。
ルビが機能してなかったので修正




