ENGAGEMENT
小説家になろうのR15に対しての判断基準の中に「いじめ、自傷行為、殺傷行為、薬物使用の描写」がありましたので、一応R15の警告タグをつけさせていただきました。
「いまーこそーわかーれめーいざーさらばー」
卒業式を終え、外に出ると校庭に咲いている桜が僕たちの門出を祝うかのように満開だった。
小学校や中学校を卒後してもその近くの中学校や高校に入学すれば、大抵のことがない限り知っている顔がある程度はいたはずだ。
高校もおなじかというとそれは違う。大学に進学するにしても一緒の大学のましてや同じ学科の人なんてほとんどいないだろう。さらに卒業後の進路が大学だけならまだしも、専門学校や就職という道に進む人だっている。
なかなか会えなくなる人ほとんどなのだろう、そのためか小中学校とは一味違った涙がそこには多くあった。
「いいじゃないか。互いに生きていれば会おうとすれば会えるし、今の時代、直接会わなくたってテレビ電話とかで顔を会わせることができるのだから」
そんなことを呟きながら一人ぶらぶらと駐輪場へと向かった。そうあの人とはもう会えない。
僕が生きている限り。
「おーい、さとっち。ちょっとこっち来てよ」
正直なところもうこんな居心地が悪い場所からさっさと去って、目的の場所に早く行きたいのだが、幼馴染の明来に呼ばれて無視をするわけにもいかず足をいままで進んでいた逆方向に向け再び歩き出した。
明来の周りには同じクラスの人がほとんど集まっていた。きっと明来が大方集めたのだろう。
「よかった。よかった。てっきりこっちにこないかと思っちゃったよ」
「いや、さすがにそんなことはしないよ」
「そうだよね。それでこのあと、さとっちは時間は空いてるかい?クラスのみんなでクラス会やろうとおもっているのだけど」
「ああ、別に大丈夫だよ。ただちょっと用事があって少し遅れて行くことになるけど」
「ああ、それなら大丈夫。この後とか何か用事がある人もいるだろうから、すぐに始めようとは思ってなかったから」
「そうか、じゃあ後で場所と持っていくものを教えてくれ」
「わかった。それじゃあ」
そういって明来はクラスのほかの仲間のところへと向かって行った。
明来は小学五年生の時に初めて一緒のクラスとなり、それ以来の付き合いだ。お互いよく気が合い、ときには喧嘩したり、遊んだりした。
明来はいつも明るくユーモアな性格の持ち主である上に勉強もそこそこできたので、クラスではいつも話題の中心にいて多くの人から信頼されていた。
それに対して僕のクラス内ヒエラルヒーは中の中という微妙なところなのだが。
今回のクラス会も明来が中心になって企画したのだろう。それならばクラスのほとんどの人が集まるだろう。
これからなかなか会えなくなる人もいるだろうし、最後の思い出として行ってみよう。
さまざまな感情が混ざり合っている校庭を抜け、一人、目的の場所を目指しペダルを漕ぐ。途中花屋で勿忘草の花を買った。
そして、目的の場所に到着した。市街地からそれほど離れていないにも関わらず、まったく人の気配がない。
それもそのはず、ここは墓地なのだから。普通の人ならそう何度も何度も来るようなところではない。僕はもう何度も来ているようなしっかりとした足取りで、その場所へ向かった。
「藍夏先輩、今日はですね、僕たちの卒業式でした。県外の大学に受かったので、これから引越しやその準備とかで忙しくなってなかなかここに来れないので、卒業の報告としばらくの別れを言いに今日は来ました。ああ、これ先輩が好きだって言っていた勿忘草の花です」
そうして、お墓に買ってきた勿忘草の花を置いた。
いつのまにか涙が頬を流れていた。
今から約三年前、僕はこの学校に入学した。どうしてこの学校に入学したかというとその当時の自分に聞けば十中八九、自宅から近かったからと答えるだろう。
そう特に深い意味はなかった。
入学してからしばらく経ち、ある程度交友関係もできて、高校生活にも慣れ始めた。
そんなある日、机の引き出しの中に一通の手紙が入っていた。一瞬ラブレターなのではと思ったが、自分のルックスはよくわかっているつもりなので候補からはずした。
それではなんだろうと不思議に思って開けるとそこには「今日の放課後、しばらくひとりで教室で待っていてください」とだけ書かれていた。
一体誰が何の用だろう。謎が深まるばかりであった。
そして放課後、手紙に書かれていた通りしばらく一人で本を読んで待っていると突然目の前が真っ暗になった。
「だーれだ」
その直後背後から女性の声がした。しかし、自分の思い出せる知り合いで今の声を出せる人を聞いたことがなかった。僕は堪忍して
「すいません、誰だかわからないです」
ガーン。後ろからそんな音が聞こえた気がした。……気のせいだよな。
目を覆っていた手が外され視界が開けたので、後ろを見てみるとそこにはみんなの憧れの豊原先輩がいた。
豊原藍夏先輩はとても美人で学力も高くみんなから慕われる性格の持ち主だった。そのため、校内のみならず他の学校の人からも多くの告白を受けたと聞いている。
しかし、それらの告白をすべて断っているため、すでに彼氏がいるだとか本当は女子が好きだとか様々な噂がある。
ちなみに後者は勇気のある女子がいないため真相は定かである。
「あの、どうして豊原先輩がここに?」
「あれ、手紙読まなかった?」
先輩が不思議そうに聞いた。
「しまった。読まなかったか。これは第二案に……」
「あの、いえ読みました。でもこの手紙あの豊原先輩が書いたんですか?」
「うん、そうだよ。こうでもしないと君となんてなかなか話せないからね」
「僕、先輩とどこかで面識ありましたか、少なくとも自分の思い出せる限りないんですが」
そのことを聞いた先輩はびっくりして慌てて僕に聞いてきた。
「あれ、私のことおぼえてない?」
「はい」
「あっそうか、名前変わったからか」
先輩は自分のことを指さしながら
「私は神崎藍夏。覚えている?小学校三年生までずっと一緒のだった。幼馴染の」
「あー! えっ、あの藍夏ちゃん?」
「うん、そうだよ」
「あの豊原先輩が藍夏ちゃん……。この学校に来てから今まで全然気づかなかった」
「私もね、前に廊下で初めて見かけるまで、純ちゃんがこの学校に来たこと知らなかったよ」
先輩は久しぶりに会ったことがうれしいのか少し口調が弾んでいた。
「お久しぶりです」
「もー、そんなに他人行儀にならないでよ。昔みたいに『藍ちゃん』って呼んでいいんだよ。お医者さんごっこもした仲じゃない」
「いや、一応先輩なのでそれはやめておきます。それでなんですか。これだけで終わりじゃないですよね」
「さすが、純ちゃん。よくわかってる」
先輩はすると自分の前に来た。
「純ちゃん私としばらくの間、恋人のふりをしてください」
そう言って僕に頭を下げた。僕はしばらく先輩が何を言っているか。わからなかった。
「えっと、とっ……とりあえず、頭を上げてください。一体急にどうしたんですか」
僕は先輩にこうなった経緯を尋ねた。
そして、先輩は「実はね……」そういって話始めた。
「要するに先輩はもういちいち告白されて断るのが面倒だから仮の彼氏をつくって、それらの手間をなくそうと考えたんですね」
「うん。要はそういうこと」
「はぁ、ずいぶんと贅沢な悩みですね。そういえばなんで僕なんです?別に僕じゃなくてもほかの人いますよね」
「だって……その、彼氏のふりをしてもらうから、私のことをいろいろと知っている人がいいと思って、そう考えると純ちゃんしかいないんだよ……だからね、引き受けてくれる? 長くても卒業での間だからさ」
「……はぁ、わかりましたよ。どうせ断ろうとしたってどうせ何らかの策を用意しているだろうし……」
「おー、さすがだね。そのとおりだよ。純ちゃん。じゃあ、さっそく明日から二人で登校して周りに私たち付き合ってますよアピールをしよう!」
「明日からですか」
「もちのろんだよ!」
「先輩……明日は土曜日で学校ないです」
「えっ……」
月曜日いつものように学校に行こうと玄関を出ると豊原先輩が門の前に立っていた。
「おはよう。純太君」
「おはようございます。豊原先輩」
「……純太君、私の彼氏なんだから別に『藍夏』とか呼び捨てでもいいのよ」
「いや、さすがにそれはちょっと……」
「わかったわ。それじゃあ、藍夏ちゃんでいいわ」
「……それもっと悪化してますよね。さあ、行きましょう時間がなくなりますよ藍夏先輩」
「……そうだね。学校に行こうか」
「はい」
当然のごとく、あの豊原先輩に彼氏ができたという噂はその日の二時間目にはほぼ全員に知れ渡った。そしてその噂を確かめるべく、多くの人が僕のいる教室にやって来た。
なかなかクラス内に入ってきて直接確かめに来る人はいなかったが、もともとクラスの中にいるクラスメイトは本当に付き合っているのかとしつこく何度も聞かれた。
そのたびに僕は「付き合っている」と答える作業が続いた。
人気者で美人の豊原先輩の彼氏になったことで最初は常にいろんなところからいい目で見られなかった。時には一部の行き過ぎた先輩に呼ばれて、脅されたりなどされることもあった。
もちろんそれらがすべてではなく「お金は払うから先輩の写真を撮ってきてほしい」など下衆な話もあったがすべて断った。そして、それらは日が経つにつれ減っていった。
そんな感じで落ち着き始めたあるとき用を足していると明来が隣にきた。
「あのさ、みっくんって本当に豊原先輩と付き合ってるの?」
唐突に投げかられたその質問は僕を動揺させるには十分すぎるものだった。
「どうしてそんなこと思ったんだ?」
「いや、なんか二人を見ているとね恋人の雰囲気とはちょっと違う雰囲気が出てる気がするんだ。なんていうかこう、砂浜と海みたいな?」
「えっ?なにその表現、まったく分からない。」
「とにかくちょっと違うんだよ。」
「何言ってるんだよ、きちんと付き合ってるよ。」
そう言って外にでた。
「そうだよね。やっぱりどんなに近づいてもあの人がいる限り無理だよね。」
純太が出ていく直前に明来が放った言葉はドアの開閉音に邪魔されてかき消された。
僕は明来と話しているとき心臓の音が聞こえているんじゃないかと思うぐらいドキドキしていた。大丈夫だよな、ばれていないよな。幼馴染だからと言ってここ二、三か月いろいろ助けてもらっていたけど、表情に出ていたのかもしれない。
これからは少し距離を置いたほうがいいのかもしれない。
そんなこんなで僕と先輩についての話題の熱が冷め始めたころ、学校は夏休みに入った。
夏休みに入ったから部活のない人は自由に遊べるかというとそうではない。
一応進学校なので夏休みの前後一週間は特別学習というものがある。それなので実際ちゃんとした夏休みは二週間ぐらいしかない。こういうシステムが将来の優秀な社畜を育てるに違いない。
休む時はしっかりと休むべきだ。そして、前半の特別学習が終わり、僕はやっと夏休みを手に入れた。
彼氏のふりをしているからといって藍夏先輩と毎日会うかというとそうではない。勉強ができると言っても受験生なので、毎日塾や図書館でしっかり勉強している。
僕も一応勉強しているが、約二週間後に向かう戦場に対する準備を進めていた。楽しい時間はあっという間に過ぎる。気づくともう後半の特別学習が目の前に来ていた。
やばいどうしよう宿題全然終わってない……。そんな学生なら誰しもが通りそうな状況に陥っていると電話が鳴った。藍夏先輩からだ。
「もしもし」
「元気―?愛しのマイダーリン!会いたかったよ」
「はいはい、そういいのはいいですから。あと会っていませんからね。」
「もう、つれないなあ。まあ、そういうところもいいんだけどね」
何をいているんだこの人はそう思った。しかし、久しぶりに先輩と話せてほっとしている自分もいた。
「で、なんですか。要件は」
「私たち一応付き合っているじゃない」
「はい」
「それなのに、夏休み中一度もお祭りに行かないのはなんか不自然じゃないかと思ったの。というわけで行きましょう!お祭り!」
「まあ、別にいいですけどいつあるんです?」
「明日よ」
「明日ですか。わかりました。用意しておきます。」
「そう、それじゃあ、よろしくね」
はあ、明日か……また急だな。
先輩に呼ばれた場所に行くとそこには多くの屋台が出ていた。先輩曰く複数の自治会のお祭りらしい。
先輩はそれから十分後ぐらいに来た。さすがに女性を待たせるというわけにはいかないので、早めに来た。
「ごめん、待たせた?」
「いえ、大丈夫です。……浴衣にあってますね」
「ほんと?ありがとう。今日のために買ったんだ!」
お世辞ではなく本当に先輩は浴衣が似合っていた。
「さあさあ、満喫しましょう!高校最後の夏休みを!」
「そうですね。僕はあと二回ありますが」
留年しなければの話だが
「若いっていいねえ」
「何を言っているんですか。藍夏先輩も十分若いじゃないですか。」
そんな感じで話ながら、熱い渦の中へと進んでいた。
綿菓子、射的、金魚すくい、りんご飴、焼きそばなどなど様々な屋台を二人で回った。
先輩の知り合いなどがやっている屋台などもあって、そんな店からサービスをもらったりした。
先輩は本当に楽しそうでキラキラ輝いて視えた。
そして、締めの花火の時間がやって来た。僕は先輩に連れられ花火がよく見える特等席に案内された。
そこは人気もネオンも周りより少なく花火を見るには絶好の場所だった。
「どうして、こんな場所知ってるんですか?」
「ふふふ、それは秘密よ」
「秘密ですか……」
ひゅ~~~~~~どーん
夜空に花火が上がった。
「きれいだね」
「そうですね。でも藍夏先輩のほうが……なんて言いませんよ」
「はいはい、わかってました。期待なんてしていません。ところで、純ちゃん」
「なんです……!」
先輩に呼ばれ振り返ってその瞬間僕の唇と藍夏の唇がお互いに挨拶をしていた。僕は突然の出来事に何もできないまま、唯々それが終わるのを待つしかなかった。
「んはぁ、純ちゃん大好き!」
「どっ、どうしたんですか!急に」
「恋人なんだから、これくらいしないとね」
そう言った先輩の顔はりんご飴のようだった。
「あの、いいんですか。先輩の初めてもらっちゃいましたけど……」
「何言ってるのこれが始めてなわけないじゃない。」
「そ……そうですよね。」
そりゃそうか藍夏先輩みたいな人はもう済ませてるか。
僕の唇にはしっかりと先輩の感触が残っていた。
「さあ、恋人らしい夏休みも体験したことだし、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
そして、僕らはお互いを支え合いながら家へと帰った。
その日は僕にとって忘れられない日となった。
いい意味でも悪い意味でも…………
そして、後半の特別学習初日がやってきた。どんな顔をして藍夏先輩と会えばいいか不安になったが、その必要はなかった。
「行ってきます」そう言って家を出るといつもいるはずの藍夏先輩がいない……。そうかさては驚かす気なんだろうと思い、玄関を出てもいない。
じゃあ、途中かと思ったが結局先輩が学校に着くまで現れることはなかった。
学校につき先輩のクラスに行ってみたが、そこにもいなかった。不思議に思い携帯電話に電話してみると、驚いたことに藍夏先輩の母親がでた。
そして、母親から衝撃の言葉が発せられた。『藍夏はもう学校には行けない』と……
後半の特別学習をさぼり、先輩の母親から教えてもらった病院へ急いで向かった。
「藍夏先輩!」
僕は先輩がいる個室へ入った。
「あっ!純ちゃん。おはよう」
そこにはベットに、もたれかかる先輩がいた。いるのは先輩だけで部屋のつくりも他よりも豪華な気がした。
「『おはよう』じゃないですよ。一体何がどうしたんですか?」
「うん? ただ調子が少し悪くて入院しているだけだよ」
「調子が悪いだけだったら入院もましてやこんな個室に入院しませんよね?」
「ははは、そんな簡単にはごまかせないか。わかった。全部話すよ」
そう言って空気に溶け込むような声で話し始めた。
偶人病。または安楽病とも呼ばれる病。
正式名称『急性脂肪変成症候群』
ある日、突然筋肉や神経、骨が足から脂肪化していく病気である。そして、最後は心筋が脂肪化し死に至る病気である。
しかも、この病気はそこで終わりではなく患者が死んだ後も、脂肪化を続け最終的には体の内部がすべて脂肪となる。
その最期の姿がまるで人形のようだったので偶人病とも言われているが病気による痛みがないことから安楽病とも言われている。
症状は特になく唯々、体が脂肪化していくだけというある意味恐ろしい病気である。日本では特別指定希少難病に指定されている。
「なんで、なんで……先輩がそんな病気に?」
「そんなのわかんないわよ。ある日突然なるんだから」
「そんな……」
「あら、一応は心配してくれるのね。うれしいわ」
「そりゃそうでしょう。知り合いがそんな病気になっていたら心配しますよ。ましてや幼馴染なら。」
「……そう、そうだよね。それでね、医者から言われたんだ。あと一週間しかもたないだろうって」
「えっ……延命治療とかは?」
「しないよ。わざわざ痛い思いをしてまで生きたくはないから……そのかわり純ちゃんには彼氏としてこれから一週間とことん付き合ってもらうからね」
先輩は悲しそうに微笑んだ。あの時の先輩は今はもうどこにもいない。
「そうですね。いいですよ。とことん付き合います!」
頬に流れていた熱くて冷たいものを手で拭い、微笑んだ。
「じゃあ、さっそく行きましょうか!」
「えっ、今からですか?」
先輩の発言に僕は驚きを隠せなかった。
「いいんですか。病院にいなくて」
「いいのよ。どこにいようが変わらないから」
半分あきらめの声で言う。
「そうですか。じゃあ、どこいきます?」
「もちろん……」
十分後。僕たちは絶賛買い物中だった。
「どう、純ちゃん似合ってる?」
先輩が選んだのはオレンジ色のワンピースだった。季節からは少し外れているような気もしたが、先輩はしっかりと着こなしていた。
「似合っていますよ」
「本当?じゃあこれも買おうかな」
そんな感じであっという間に一日目が終わった。
「それじゃあ、明日も来てね」
僕が帰るとき先輩はウインクしながら言ってきた。
エレベーターを降りロビーに向かっているとそこには映画で出てくるような黒服の人たちがたくさんいた。誰かお偉いさんでも入院するのだろうか。
その日家に帰り、先輩の病気について調べた。日本では前例が二つしかなかった。ほかにも発病原因が全く分かっていないことや、その病気に限らず特別指定希少難病の患者は国が死ぬまでのいろんな支援をする代わりに、カルテを提供する義務があるらしい。
そこにはそれ以上の詳しいことが書かれていなかったが、今日、先輩があんなにたくさん買い物をできたのにも納得できた。
そして、残りの五日間。遊園地や水族館、映画館や海など本当にいろいろなところに行き、いろんなことをした。そのおかげで僕たちはその五日間がとても充実したのになった。
そして、七日目。その頃には藍夏はもうほとんど動けない状態になっていた。
そう、まさに人形のように……。
病室には朝からいろんな人が出入りしていた。藍夏のクラスメイトや友達、医者や政府の人本当に様々なひとが来た。
そして、人の動きが落ち着いた夕方……
窓の外には赤い太陽が沈もうとしていた。先輩の周りには家族と僕がいた。
「お母さん、お父さん。今までありがとう。先に死んじゃってごめんなさい。」
人は死期が近づくと本能的にそれがいつごろかわらるという。先輩は突然、親に感謝の言葉を送りはじめた。
「純ちゃん、純ちゃん。」
そして、伝えた終わった後、先輩が今にも消え入りそうな声で僕を呼んだ。
「なんですか」
僕は先輩の手を握る。その手はとてもとても軟らかかった。
「いままで、こんな先輩と付き合ってくれてありがとう。純ちゃんと過ごした日々は少なかったけど、とっても楽しかったよ。願いが叶ってよかった。」
「ぼくも……僕も楽しかったです。」
「純ちゃん、最後にお願いしたいことがあるの。私のことを忘れないで。」
「何言ってるんですか、忘れるわけないじゃないですか。こんなに迷惑かける先輩のことを」
「よかった……じゃあ、安心して逝ける。純ちゃんこっち来て。」
僕は先輩のすぐ隣に移動する。
「いい?一度しか言わないから、よく聞いてね。純ちゃん、ありがとう」
その瞬間、先輩が優しく微笑んだのをいまでもはっきりと覚えている。
その言葉の裏に何が隠されていたのかは、今ではもうわからない。
ただ、一つだけ言えることはその言葉がただの感謝の言葉には聞こえなかったことだ。先輩はそのあと眠り二度と起きることはなかった。
携帯が鳴った。見てみると、明来からだった。クラス会の場所が決まったそうで、そこにはその位置と集合時間が書かれていた。
明来には夏休みが終わってから本当にお世話になった。感謝してもしきれないぐらいだ。普通はここまでしないだろうというところまで明来は幼馴染だからとうれしそうに言いながら手伝ってくれた。いつも明来と僕が一緒に言うので、周りからは「まるで夫婦だな」なんて言われたりしてからかわれた。
夏休みが終わった直後は何事にもやる気が起きないひどい状況だったが、それも一か月過ぎたにはそれも だいぶ良くなって、普通の生活ができるようになった。
しかし、完全に前の生活に戻ったかというとそうではない。いつも心のどこかに小さな穴が開いている状態だった。そして、その穴は決して埋まることはないともわかっていた。
さて、だいぶここに長居してしまったようだ。もうすぐ集合時間だし、会場に向かうとするか。
会場に着くとそこにはもうすでに多くのクラスメイトがいた。クラス会は全員が参加し大いに盛り上がった。こんな経験はもうできないだろう。いい思い出になった。
帰り道、僕は明来と一緒に帰っていた。
「いやー、今日は本当に楽しかったよ。ありがとう明来。」
「いやいや、こちらこそ楽しんでもらえてよかったよ。最高の時間になった?」
「ああ、先輩と過ごしていた時間の次ぐらいにいい時間になったよ」
「そうか、やっぱり越えられないか……それならいっそ……」
「うん?明来どうかした?」
「いやいや、なんでもないよ。やっぱりさとっちの中では先輩が一番なんだね」
「そうだな。いろいろ体験したり教えてもらったりしたからな」
そんなことを言っていると明来と分かれる道まで来た。
「そうか……じゃあここでさようなら」
「ああ、じゃあね」
僕は明来と分かれ家へと向かった。
「さとっち」
そう明来に呼ばれたので振り向いた。
「うん?なんだ……」
グサッ……
突如、何かが刺さったような音がした。下を見ると胸のあたりに見覚えのない黒い棒があり、黒っぽい液体が垂れていた。
「えっ」
突然の出来事に思考が止まる。
その次の瞬間、僕は思考が再び動き出すのと同時にアスファルトの上に倒れていた。
「な……んで……」
人は死に直面した時生き延びる方法をみつけるべく、今までの記憶の中に手がかりがないか必死に思い出すらしい。そして、そのことを走馬灯を見るというらしいがそんなものを見る暇もなかった。
本能的にわかった。ああ、僕は死ぬんだなと。
そして、アスファルトの冷たい感触と生温かい感触を感じながら、僕は最期を迎えた。
「さよなら、さとっち。君のことは永遠にわすれないよ」
2015年8月28日現在「急性脂肪変成症候群」「偶人病」「安楽病」という病気はありません(作者調べ)。もし、間違っていたら教えてください。
みなさん、お久ぶりです。どうも、円周率です。季節の変わり目がきたのかだいぶ過ごしやすくなりました。みなさん風邪には気を付けてください。私は風邪をひきました……。
そう言えばこれを書いているとき明来の性別がどっちかわからなくなる時がありました。一応聞きます。読者の方々は読んでいる時、どちらだと思いましたか?答えは書いてありますので探してください。ああ、あとそういえば、純太と藍夏の二人はきちんと再会していますよ。
さて、前にも書いた通り今年度中の更新はこれが最後です。勉強に専念したいと思います。それが終わったらまた書き始めていきたいと思いますので、その時はよろしくお願いします。それではまた……。文は続くよどこまでも!