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「お早いお戻りですにゃ。」


確かに早い。

ギルドを出て5分と経っていない。


「それにしてもレンさんが《獅子姫》のギルマスとお知り合いとは。世間って狭いですにゃ〜」


「やっぱり有名?」


「有名も何も。あ、お聞きしたいのですにゃ。レンさんと〜、メレさんは〜、恋人ですにゃ?」


な、な、な、な、な、な、何を言いだすんだこの受付猫は。

キトさんが発した瞬間に、ギルド内に不穏な気配が漂う。

分かっていたことだがやはりVR空間においてもタカヤンの魅了は絶好調のようだ。

強面の歴戦の戦士たちが一斉にこっちを見る。

そして、黙って背中の大剣に手を伸ばす者、腰の剣に手をかける者多数。

マズイ。

・・・ここは慎重さが肝心だ。


「い、いや、僕はあくまでタカヤンの親友であって。」


「そうですにゃ?あんなにリラックスされたメレさん見たことなかったにゃので、てっきり姫が陥落したのかと。」


「な、なに言ってんの。そんな訳ないじゃない。」


本当にそんなわけではありません。

そりゃ、さっきまでちょっとは不埒なことを考えもしました。

でもほら見てください。

一人で道化を演じてた哀れな僕を。

だから、皆さん、武器に手を掛けるのはやめませんか?

というかやめてください。


「と、とにかく、依頼を見せてよ。僕でも受けられるやつ。」


駄目だ。不穏な気配は増大し続けている。

話を変えよう。

そして早く依頼を受けてギルドを出るんだ!


「にゃ?依頼ですにゃ?レンさんが受けることのできるのは・・・・この辺りですにゃ。」


と言ってキトさんが差し出した依頼は全部で3つ。

分かったのは討伐系が2つ、生産系が1つということだけだ。

でもきっと僕のアレならなんとかなる。

僕は内容をよく読まずに3つ全てを受け、ギルドを飛び出した。



「・・・はぁはぁ・・・はぁはぁ」


こ、ここまで来れば大丈夫だろうか。

飛び出した後、そのまま走り続けた。

大通りから路地裏へ、路地裏から大通りへ。


これがゲームであることを忘れるくらいの殺気だった。

暫くは走れそうもない。

体力をほぼ全て使ってしまった。


かと言って道にいるわけにもいかない。

すぐそこにカフェがある。

体力が回復するまで休んで行こう。

ついでにさっき受けた依頼を見てみよう。


でも、入って後悔した。

そのカフェには、女性客しかいなかった。


このゲームにネカマはいない。

男は男、女は女しか選べない。

どういう技術かは知らないが、最初に緻密なデータを採られるからその辺りが関係しているのかもしれない。


つまりこの店に居るのは正真正銘、女性だけだ。

まるでスイーツバイキングに一人で来たみたいだ。

すごく落ち着かない。

居心地が悪い。

けど今は動けない。

アイスコーヒーを注文してカウンターに突っ伏した。


体力に自信がないのにあんな馬鹿みたいに走るもんじゃないね。


「大丈夫ですか、お客様?」


店員かな?

顔を上げるとグラスを持った女性がいた。

黒地の多いメイド服を着ている。

店員だね。


「ああ、どうも。」


アイスコーヒーを受け取って一口飲むと、再び突っ伏した。


「随分お疲れのようですね。そんなにギルド本部からのダッシュは堪えました?」


え?


「でも申し訳ありません、当店はお休みになる施設ではございませんので。ですがお客様柄お望みとあれば、今すぐ永遠の眠りにつかせてさしあげますわ。」


何言ってるんだ?

顔を上げると、店員さんは包丁を振りかざしていた。

慌てて飛び退く。

目の前を、包丁が縦に通り過ぎる。

前髪が少しパラパラと舞った。


「どうしてお避けになるのですか?あなたを生かして帰すわけにはいかないのですよ。ここで帰せば再びメレ様に近付いてしまうでしょう。それだけは回避させていただきます。」


駄目だ。

目が据わっている。


「これまでも多くのオスがメレ様に、近づきましたわ。けれど、お客様はそのどのオスよりも危険な香りが致します。」


メレ様?

タカヤンか。

タカヤンの魅了は男だけでなく女にも効くらしい。

確かにタカヤンはカッコカワイイ系だしなーっと、そんな事考えてる場合と違う!


ガタガタッと椅子が幾つも倒れる音がした。

それは僕の後ろからだ。

瞬間、ギルドで味わったものと同様かそれ以上の殺気が放たれる。


う、後ろは絶対見ないんだからね!


店員が放ってきた下段からの《袈裟斬り》を斜め前に躱して、カウンターにアイスコーヒー代を叩きつけると全力で店から飛び出した。


これが火事場の馬鹿力というやつか?

それともアイスコーヒー一口分の回復効果か?

後者なら凄い。

二度と飲みには行けそうにないが。


この町に僕の居場所なんてあるのか?

メインストリートからは離れるべきだ。

でも路地裏に入っても地理に明るくない僕ではすぐに追い詰められてしまいそうだ。

となると、もう街を出るしかないんじゃないか?


考えている暇はない。

まず街を出てから考えよう。

ラテルの街には二つ門がある。

一つは街道から王都へとつながる門なのだが、今いる場所からではギルド本部前を通る必要が出てくる。

そんなリスキーなことはしていられない。

となると強制的にもう一つの門になる訳だが、おっと、ゴリラの門じゃないか。

ということは森か。

でも、あの森に魔物なんているのか?

その辺もゴリラに聞いてみるかな。

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