7
「さてと、次はレンの番だ。」
「あ、うん、えっと、じゃあまずは生産職からね。」
「私としては戦闘職の方から聞きたかったが。レンはどこまでも焦らすねぇ。」
別に焦らしているわけじゃない。
まずは生産職をじっくり説明して、次に戦闘職をサラッとという策だ。
さすがにレアな紋章だから食いついてくれるとは思う。
「じゃ、改めて。生産職は『眠る神魔の収集人』だよ。スキルは《アイテム鑑定》と《アイテム変換》。」
「どの節も初めて聞くよ。相当なレアなのではないかい?ただ、《アイテム鑑定》っていうのは『錬金術士』とか『商人』とかでも出来るからね。『収集人』の固有スキルは《アイテム変換》なのだろうね。そんなスキル聞いたことないから。」
『錬金術士』や『薬師』では素材を原料に物を作り出すことが出来る。
でも、僕の『収集人』は、素材と引き換えに物を取り出すことができる。
似てはいるが、『錬金術士』などではあくまで素材由来のものしか作れない。
僕の『収集人』は素材とは全く別物でも取り出すことができる。
似て非なるもののようだ。
「じゃ、次は戦闘職だね。」
心なしかタカヤンの声が弾んでいる。
生産職も驚きはしていたがこうではなかった。
「うん、戦闘職は『眠る神魔の侍』だよ。スキルは《居合い》。」
初めは『剣士』にするつもりでいた。
でも、スキルをどう言おうかで悩んだ。
今後使うとしたら《瞬斬》迄だろう。
それでも《瞬斬》もレアなはずだ。
生産職みたいにそのままでは駄目だ。
ということでなんとか似たような技はないものかと考えた結果、《居合い》を思いついた。
そして《居合い》といえば『侍』だ、となったわけだ。
ただこれも結構な賭けだ。
『侍』がレアの可能性も有る。
そうなったら捏造した意味が半分くらい無くなる。
『大英雄』よりマシなのは確かなんだけど。
「二節レアのようだね。ただ『侍』はノーマルだよ。割と多い。でも《居合い》と言うのはそんなには居ないかな。レアってほどではないけどね。」
一安心。
良かった。
レアじゃなかった。
「ということは前衛だね。そして『侍』で《居合い》か。パーティではトリッキーな部類だよ。」
《居合い》というのは発動に条件があるようだ。
その条件とは周りに人がいないこと。
つまり集団戦にとっては、特にダンジョン内ではお荷物のようだ。
「いや、いいよ。どうせ生産職メインだし。」
「いや、レベルが上がればどうなるかわからない。」
「いや、別に落ち込んでるわけじゃないから。ああ、それと、紋章は見せられないんだ。」
ここがチャンスだろう。
タカヤンの真似を決行する。
「僕もタカヤンみたいに見せられない位置にあってね。」
「レンは男の子だろう?ガバッと脱いで見せてくれればいいじゃないか。」
いやいやいやいやいや、何言ってんの?
僕にも羞恥心ってものがあるんだよ。
「ま、レンのそういうところが好きなんだけどね。」
ドキッとする。
駄目だよ、タカヤン。
この年頃の男に「好き」なんて言っちゃ。
勘違いするよ?
しちゃうよ?
「さて、そろそろかな」
タカヤンがギルドの入り口に歩き出す。
「タカヤン、このあとどうするの?レベル上げとか手伝ってくれるの?」
紋章の話で随分話し込んでしまったけど、そもそもタカヤンから用があると呼び出されていたのだ。
でも、タカヤンは不思議そうに首をかしげる。
「レベル上げ?あれ?言ってなかったかな?この後うちのギルドで大規模レイドがあるんだよ。だから、今日はここまでさ。」
「・・・え?ということは、タカヤンの用っていうのは・・・」
「もちろんレンの紋章さ。親友がどんな力を手に入れたか、ゲームに誘った私としては気になるからね。」
・・・てっきり今日はタカヤンと二人きりで過ごせると期待していたのに・・・。
・・・武具屋とか道具屋とかでカップルみたいに擬似デー・・・いや、やましい気持ちなんてないよ?
というか親友、か。
異性としては見られてないってことかな。
いやいや、諦めるにはまだ早い。
今一番タカヤンに近いのはきっと僕のはずだ。
多分。
「それじゃ、また学校で。」
そう言って、タカヤンは《転移》した。
冒険者、プレイヤーは必ずギルドに登録する。
と言ってもそれはギルド本部に、という話だ。
ギルド本部から職別ギルドに枝分かれする。
それが戦闘職ギルドと生産職ギルドだ。
さらに、その先に幾つもの個別ギルドがある。
タカヤンは戦闘職の個別ギルド〈獅子姫の絆〉に入っている。
というかタカヤンがギルドマスターだ。
ギルドに入るとギルドスキルというのが使えて、《転移》もその一つらしい。
ギルドに入るには一定以上のレベルが必要だ。
戦闘職なら戦闘職を、生産職なら生産職をレベル15まで上げる必要がある。
僕にとってはまだまだ先の話だ。
というより、当面、入る気は無いけどね。
さてと、予定が狂ってしまった。
まぁ、勝手な予定だけど。
とりあえず依頼でも受けてみようかな。
野良じゃないギルドの依頼の感触も確かめておきたい。
僕はギルドに引き返した。