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ギルド支部に向かっていると、事件は起きた。
事件と言っても怪我人はない。
大通りを走っていた馬車の荷台の車輪の一つが突然壊れたのだ。
割と大きな音で思わず振り返ってしまった。
馬車に近付くと、馬車の御者が頭を抱えていた。
急ぎの依頼があるようだ。
これはもしかしてクエストの一つではないだろうか。
試してみよう。
「御者さん、僕でよければ直せるかもしれませんよ。」
頭を抱えていた御者が振り返り、僕を見た。
下から上へ値踏みするかのようにだ。
その顔はあからさまに期待していないようだ。
「君が?子供の遊びじゃないぞ。」
「子供じゃないですよ。ほら、これでも冒険者なんです。」
指輪を見せると、一瞬驚いたようだったが、すぐに表情を戻した。
「冒険者といったって、ランクHじゃないか。そんな駆け出しの奴に大切な馬車を見させるわけにはいかん。」
御者は拒否しているが『クエスト発生!』の板は降りてきて音も鳴った。
板はデフォルメされたペガサス・・・・いや角がある・・・一角ペガサスが銜えてきた。
やはり難易度なんだろうか?
ところで御者の言うランクHとは何か。
ギルドに登録されると、プレイヤーには指輪が与えられる。
その指輪の身分証の部分には、各冒険者のランクが表示される。
ランクはHから始まり、SSSまであるらしい。
まさにランクHは駆け出し冒険者なのだ。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
それに、門番ゴリラの時も割と強引に行けたのだ。
これも行けるのではないだろうか。
食い下がってみよう。
「もし、何かあったら損害は全額弁償しますから。どうですか?」
「ううむ、そこまで言うならやってみるといい。但し、ダメだった時は、私の受けている依頼の損害金も払ってもらうからな。」
上乗せ分の方がやばい。
というか、何かあったら、と言っているのにいつの間にか何かなくても払わなくてはならないようになってるし。
とにかくやってみよう。
車輪を見てみる。
【壊れた車輪】とある。
スキル《アイテム鑑定》を使ってみる。
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【壊れた車輪】
長い年月使い続けた結果、荷重に耐えきれず壊れてしまった車輪。
木製。
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御者が本当に大切していたのか疑いたくなる。
無事な残りの三輪も見てみようか。
すぐ隣の車輪を《アイテム鑑定》してみると、
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【ボロボロの車輪】
長い年月使い続けた結果、今にも壊れてしまいそうな車輪。
木製。
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こっちも壊れる寸前のようだ。
これは全部を変換しないとならないか?
狼素材の残数はまだまだあるから、大丈夫だと思う。
それに、蝶番は金属だった。
それが【狼の骨】でどうにかできたなら、この木製の車輪だってどうにかできるはずだ。
まずは【壊れた車輪】から。
狼素材の【狼の骨】を取り出し、《アイテム変換》発動。
紋章が浮かび、車輪に重なり、光り始める。
弾けた光の中から直った車輪が現れた。
一応、《アイテム鑑定》してみる。
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【新しい木製の車輪】
削り出したばかりの新しい車輪。
鉄製に比べると乗り心地はイマイチ。
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荷台だし、これでいいだろう。
残り3つは壊れていないし、骨じゃなくても大丈夫だろうか。
試しに【狼の毛】でやってみる。
紋章が現れない。ダメみたいだ。
【狼の皮】でやってみる。
紋章が浮かび、無事変換できた。
これでいいだろう。
御者の反応はどうだろうか。
「直ってる!凄いじゃないか。さすが冒険者だな。」
態度が激変していた。
「壊れていなかった残り3つも相当ガタがきていましたので直しておきましたよ。」
「いや、ありがとう。本当に助かったよ。」
この激変ぶりに気持ち悪くなってきた。
「お礼をしなくてはならないね。ただ、持ち合わせが無くてね、そうだ、これはどうだろう。」
そう言うと御者は荷台から何やら引っ張り出した。
白くモコモコした素材。
羊毛、のようだ。
羊毛だったら狼素材よりも高度な変換ができるかもしれない。
十分過ぎる報酬だ。
「受け取ってくれ。これを売ればそこそこの金になるはずだ。それでは、また何処かで。」
そう言って手渡すと、御者はすぐに馬車で走り出す。
羊毛はアイテムボックスにしまい込んだ。
クエスト終了の音がして、メニューからクエストを見てみる。
『適当の結果』が追加されている。
印は銀色の角だ。
金印の1つ下ということだろうか。
『適当の結果』ってどういう意味だろう。
やっぱり手入れを適当にしていた、ということかな?
と、何か忘れてる気がする。
あ、ギルド支部に向かっていたんだった。
急がなくては。
タカヤンを怒らすと、僕の紋章も僕自身も大変なことになりそうだ。
メレ・タカヤン。
僕の友達にして、廃人。
タカヤンがゲームをしていないのは昼間学校に行っている間だけだろう。
考えたくないことだが、もしかしたら学校に携帯型端末を持ってきているかもしれない。
いやいや、幾ら何でもそんな事は・・・ないんじゃ、ないかな。
ギルド支部の扉を開けると、タカヤンはキトさんと話をしていた。
受付カウンターに寄りかかりながら、手には・・・コーヒーだろうか、カップからは湯気が立っている。
「おっ、来た来た。待ってたよ、レン。遅かったじゃないか。」
タカヤンが僕に気が付いた。
「やぁ、タカヤン。ごめん、いろいろあって。・・・それにしても相変わらず、だね。」
タカヤンはスラリとした長身にして、重装鎧を纏って背中には大きな両刃の斧、ラブリュスを背負っている。
「レンだって、相変わらずじゃないか。」
「仕方ないだろ。いつまで経っても慣れないのはさ。学校と話し方違うし、それに」
それに、タカヤンは男女共に慕われる、アイドル並みに可愛い女の子、なのだから。