20
岩場は巨大な岩が積み重なっていて、さらに階段状になっていた。
各階層に10以上の狼がいて低く唸りながら僕らを威嚇している。
その岩場の最上段から、一際強い威嚇を放ちながら赤鱗狼がレンとラフを睨みつけていた。
赤鱗狼が一声雄たけびを上げると、それを合図に最下層から順に狼たちがレンたちに向かって走り出した。
「雑魚は僕が片付ける。ラフは赤鱗狼をお願い。」
「おう、任された。だが、レンも無理するなよ?」
ラフは向かってくる狼をかわしつつ、たまに薙ぎ払いながら赤鱗狼へ向かっていく。
あくまで通行の邪魔を排除しているだけで、実際狼たちはそんなラフには目もくれず、一直線に僕に向かってきている。
まずは弱そうな奴から、とでも言いたそうな感じで。
でも、残念。
赤鱗狼には攻撃は通らないかもしれないが、下位の狼に負けるほど僕に力がないわけじゃない。
「≪瞬断≫!!」
さすがに数が多すぎるため、倒すことだけを考えて繰り出している。
よって、あっという間に前方は赤く染まり、真っ二つになった狼の死体が山を作り始めている。
岩場の最上段では、無事たどり着いたラフが赤鱗狼と対峙していた。
ラフという比較対象がいて初めて、赤鱗狼の巨大さがわかる。
赤狼も大きいとは思ったが赤鱗狼はそれ以上だ。
下位の狼たちの攻撃の手が緩くなってきた。
死体の山のせいで少しばかり見難くなってしまったため、後どれだけ残っているのかはわからないがほどなく終わりそうだ。
これだけの死体ならしばらく狩りの必要はないくらいの素材が取れそうではあるし、なかには子赤鱗狼もいそうではあるんだけれど、そんなことをしてる時間はなさそうだ。
徐々にではあるけれど、ラフが押され始めている。
すでに防戦一方という感じだ。
死体の山の向こうから狼がやってこなくなった。
全部倒したのか、仲間の山が登れないのかわからない。
仕方ない。
山を掻き分けて行くしかない。
最早ピクリともしないとはいえ、死体の山を掻き分けて行くのは勇気がいる。
斬り漏らしがいたらどうしようっていう恐怖に対する勇気じゃなくて、このべチャッというか、グチャッというか、震えるほど気持ち悪い感触の中を進み続けるための勇気が。
勿論、そうしたのは僕だし、そうするしかなかったのは僕の経験の低さゆえではあるけれど、そもそもこんな事態を招くことになったのは・・・運営のせいだ。
・・・ぬちゃっ。
確かに質問に「ほしい」と答えたのは僕だけど、与えたのはシステムで、ひいては運営だ。
・・・ぐちゃっ。
僕は強引に奪ったわけじゃない。
・・・ぐちょっ。
脅し取ったわけでもない。
・・・くちゃっ。
与えられたんだ。
・・・べちゃっ。
だから、僕に与えた運営が一番悪い。
・・・ぐちゅっ。
そうだ、運営だ。
・・・ぐにゅっ。
運営のせいだ。
・・・ぐちゃっ・・・ぐっちゃ・・・。
う・ん・え・い・の・せ・い・だぁぁぁぁぁ。
っと、運営への怒りを動力源にしてようやく山を抜け切れた。
あんな気持ち悪いところにあと少しでも居たら気が狂っていただろう。
腰から下が真っ赤に染まっているがなるべく見ないようにしよう。
山を抜けて周囲を見渡す。
周りに狼はいない。
気配もない。
岩場にもいない。
最上段にデカブツが残っているだけだ。
デカブツの前には未だ防戦一方のラフ。
赤狼の手足の叩きつけは弾き返せていたのに、赤鱗狼のそれは弾くことができず、ついには片膝をついてしまっている。
その状況を見てすぐにレンは走り出した。
ゴツゴツした岩場は走りにくい上、段差が所々にあって危ない。
でもそんな事構ってはいられない。
多少の擦り傷位なら大差ない。
それよりも僕がたどり着くまでラフが耐えきれるかどうか。
ラフのところまではあと2段ある。
ここからなら《瞬断》は届くけれど、赤鱗狼の攻撃を止める事ができるほどのダメージは期待できそうにない。
ここで、アレを使ってみるべきなのかもしれない。
ふと、左手の甲に目をやる。
甲に刻み込まれた花の紋章の花びらは2枚が黒く染まっていた。
特に痛みはなかったから気付かなかったけど、もしかしてこれが所持数の上限と現状の所持数なんじゃないか?
現在所持している召喚獣と数は合う。
花びらの数は全部で15枚。
最大15体所持できるんじゃないか?
と、そんな事考えている場合じゃなかった。
ここから届くかどうか不安だけれど、やるだけやってみよう。
ところで結局何て呼べばいいんだ?
せんろっぴゃく、でいいのかな。
「1600《憑依召喚》!」
『注意!
《憑依召喚》が発動されようとしています。
該当の召喚獣との契約は憑依召喚を持って正式に為されます。
発動しますか?
Yes or No?』
アーテルの召喚時にも出たポップアップが表示される。
文面は若干異なるが、召喚と憑依召喚とでの差異ということなんだろう。
迷うことなくYesを選択する。
僕の目の前に巨大な紋章が出現する。
それは僕に対して垂直に出現した。
アーテルの歳にも出現した花びらの紋章だ。
左手の甲と同じく、15枚のうち2枚が黒く染まっている。
そして2枚目の花びらから黒い霧のようなものが這い出してきて、紋章の上一杯に広がる。
やがてそれは緋い人型のような形になると、そのまま僕に纏わりついた。
どうやらこれが憑依ということらしい。
憑依時はてっきり召喚獣に身体の優先権があると思っていたが、意識もはっきりしてるし身体も自由に動かせる。
身体強化みたいなものかな?
〝1600〟 Leve1000
・スキル
神威 Level10 状態異常付与、ステータス低下。
神剣 Level10 攻撃。
神域 Level10 防御。
この1600の攻撃スキルは≪神剣≫のようだ。
ちなみに≪神域≫は防御スキルで、≪神威≫は状態異常付与スキルだ。
届かなかったら急いで近寄って発動するつもりでいたのだが、驚くべきことにここからでも発動が可能なようだ。
発動の前に念のため、≪神剣≫の詳細を見てみる。
≪神剣≫
【“契約者”の眼前の敵を無に帰す絶対の剣。
世界のあらゆる因子を断ち切り、新たな可能性を宿す、神の力の体現。】
よくわからないが、もの凄く強い、って感じだろうか。
この説明通りなら一撃必殺だろうけど、そこまでこのゲームが甘くないことはスライムアックス戦で分かっているつもりだ。
距離もあるし、大ダメージにすら至らない可能性もある。
それでも赤鱗狼の気を一瞬でも逸らせるかもしれない。
そうなれば、その隙をついてラフの一撃が届くはずだ。
よし、行くぞ。
「≪神剣≫!」
そう口に出した瞬間、足元に再び花の紋章が現れた。
同時に体全体に負荷がかかる。
余計な圧というか、重力が掛かっているような感じで、とても怠い。
花の紋章は一瞬光を放ち、2枚目の花びらが紋章から離れて僕の前に浮かんだ。
その黒い花びらにピシピシっと音を立てて少しずつヒビが入る。
そのヒビは全体に広がっていく。
ヒビからは眩い光が漏れだし、やがてその光が花びらを覆い尽くしていく。
全て覆い尽くしたのか、一瞬溢れて弾けるように光が零れると、気付けば花びらは光を湛えた一振りの剣と化していた。
これが神剣なのだろうか。
それはラフが持っている大剣よりもさらに大きい片刃の大剣だった。
いや、もはや大剣というよりも巨大剣といった方がいいかもしれない。
背はなだらかに反っていて、刃は薄く、艶やかだ。
すっと僕の手が伸びて、剣柄を握る。
それは僕の意思とは無関係だ。
けれどそれはとても自然な所作だった。
“僕”はぐっと柄を握りこんで、横にして構えて力を込める。
僕の体はさらに気怠くなり、重たくなる。
剣先から光が溢れ、その光はさらに長大な光の剣を生み出した。
光の剣は煌めいて
“僕”は一瞬体を捻り込むとあとは一息に横に凪ぎ払った。
全ては言い訳に過ぎないが、神剣を握り込んだ時点で既に体の自由は僕には無かった。
光の剣は赤鱗狼に一瞬の隙も与えることなく一片の塵も残さず完全に消滅させた。
剣が完全に赤鱗狼の体を上下に分断し、剣から伸びていた光がその体を粉々に焼き崩したときには、僕の意識は混濁し始めていた。
その混濁に完全に飲み込まれた刹那、神剣の刃が返されて逆方向に再び手が動いた、気がする。
赤鱗狼がいた少し下あたりに向けて。
―――――――――“因子渡界者NO.001”の消滅を確認。
―――――――――“適応者”の転移開始。
―――――――――“適応者”を“可能性亜未来ZZ”の必須守護者前に転移完了。
この世のものとは思えないほどの断末魔を聞いた気がする。
それは狼のものだったのか、それとも・・・。
身体が自分のものではない様に重い。
意識がどんどん沈み込んでいく。
もがくことも出来ない。
そして僕はもしかしたら死んでいたのかもしれない。
真っ暗闇の中で揺さぶられ、声を掛けられるあの時まで。
そして僕は草原で目覚める。
いつのまにかブクマが50を超えていました。
ありがとうございます。
西東青夏です。
今回の20話で第1章完のつもりだったんですが、改めて考えてみるとここまでがプロローグのような気がしてきました。
なので、ここまでをプロローグとして、本編次話からが第1章という形にさせていただきます。
それとここまでで感想などがあればよろしくお願いします。
ただ、当方豆腐メンタルですので強い批判は何卒ご容赦ください。




