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1話目改訂しました。流れは変えていません。

ゲームを始める前の興奮は幾つになっても変わらない。

遠足の前日や台風の夜とおんなじだ。

興奮冷めやらず目が覚めてしまう。


友達タカヤンの地道で執拗な布教活動が功を奏し、GIGO『ギャザー・インクリーズ・グロウス・オンライン』を購入するに至った。


βからやっているタカヤンによれば、すべては開始時の紋章で決まるらしい。


プレイヤーは誰しも開始時に1つの紋章を持つ。

無論戦闘職だ。

生産職は後天的に取得が可能だ。


さらに一度ゲームを始めたら作り直しは不可となる。

ゲームを初期化しても、サーバーにはVRギア固有のシリアル番号が登録されていて無駄なのだそうだ。

さらにはゲームチップのシリアル番号も登録されるらしい。


VRギアとゲームチップを購入しなおせば、勿論作り直しは可能だ。

だが、高価なギアを使い捨てできるものはそうそういないだろうし、それがどんな紋章なのかは始めてみなければわからない。

少なくとも僕にはそんなお金もないし、どんな紋章になってもそのまま続けるつもりでいる。

たとえ本当に使えない紋章だったとしても、ハードモードにはハードモードの楽しみ方があるはずだ。


とにかく始めよう。

タカヤンが待っている。




VRギアのスイッチを入れる。

ヴォンという重低音がした。

一旦真っ暗になって、すぐに光が弾ける・・・と聞いていたのだが真っ暗なままだ。

でも僕の体はすでにVR空間にある。

真っ暗闇ではあるけれど僕の体の存在だけはここにあると認識できている。


なんとなく透き通った体が見える。

鏡が無いから顔まではどうなっているか分からないけど、VRギアの初期スキャンで顔データは取得されるって聞いている。

おそらくリアルな僕の顔だろう。


身体は宙に浮いている。

依然真っ暗な世界に唐突に、


「ようこそ、GIGOの世界へ。初期設定を開始します」


機械的なアナウンスが流れた。

体の周りに靄のようなものが集まり始める。

よく見るとそれは記号の羅列のようだ。

白文字だが、アルファベットでも日本語でもない。

よくファンタジーものに登場する魔法言語みたいな感じだ。


「プレイヤー名はギアに設定されている、レン・ヤワラギ、で宜しいでしょうか?」


レン・ヤワラギ。

僕の名前だ。

と言っても本名じゃない。

本名をアナグラムしている。

ギア自体の初期設定は昨日の内に済ませてあった。


目の前にYES・NOが表示されて、YESを選ぶ。

どのゲームでも一緒だが名前を考えるのがどうしようもなく不得意だ。

それで大抵はこの名前を使用している。


他に、性別・年齢・誕生月を答えた。

するといまだ真っ暗だった世界に変化があった。

丁度僕の目の前にさらさらとした砂が一筋流れ落ちはじめた。

砂は光り輝いている。


「一つだけ質問をしよう」


口調が変わった。

最初にして最後の質問、これはタカヤンから聞いていた。

この最後の質問が付与される紋章に影響を与える可能性が高い、と。

あくまで可能性であって検証はされていない。

検証するためには前述のとおり何台もの装置とソフトが必要だからだ。

ちなみに質問は皆同じだという。


――――この世界に求めることは何か。


それだけの問いの答えがこのゲームの全てに影響する。

それだけに慎重に答える必要がある。

制限時間は特にないらしく、その場で考えてもいいらしい。

でもテンポよくゲームを開始するにはあらかじめ考えておいたほうがいい。

タカヤンにしつこいほどそう言われ、素での答えは決めてあった。

あとはどんな紋章が与えられるのか。

それを待つばかりだった。


「お前は『特別』を望むか?」


目の前にYES・NOが出る。


タカヤンの話と違う。

質問の内容が違う。

それに最後の質問は自由解答が求められる、はずだ。

それはβから正式版になっても変わらない、と聞いている。

それならこれは何だ?

タカヤンのドッキリか?


とにかく、選ばないと。

特別が欲しいか、否か。

特別、ということは、特殊な紋章が与えられるということだろうか。


日本人、に限ることではないが僕は限定品に弱い。

とにかく弱い。

期間限定、季節限定、数量限定、様々な限定に心踊り、財布の紐を緩ませる。


大勢の人が持てないものであればあるほど、その時にしか手に入らないものであればあるほど財布に手は伸び、紐は緩み、口は開き、場合によっては何人もの諭吉様が舞う。


弱いことは悪じゃない。

欲望に貪欲なのは素直ってことだ、といつものように自分に言い聞かせる。

でもこうもはっきり聞かれるとつい伸ばす手が止まる。

曖昧な現実をくっきりと映し出されるようで。


「何を躊躇う必要がある?お前は欲しい。誰にもない『特別』が。」


再び声がする。

当たり前だとでも言うように。

半ば呆れたような声が。


――――僕は『特別』が欲しいのか?


「欲しいさ。だから私が呼び出された。」


――――私?


「しかし何も無しに与えられるものに本物は無い。代償はしっかりと頂こう。」


――――何を言っている?


再びヴォンという音が聞こえた。

途端にNOは崩れるように消え、YESが血に染まったかのように赤く輝く。

YESはそのままくるくると回り始め、文字を捉えられなくなった頃、不意に消えた。

刹那、右手が刺されたように激しく痛み出した。

あまりの痛さに転げまわる。

そのまま意識は闇に溶け込むように失われた。


気が付くと、どこもかしこも緑で覆われた深い森の中で倒れていた。

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