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第二話 責める男(ラスト)

……………………

「ここは、どこだ?」咄嗟に飛び起きた。と同時に周りを見回したなら、手にはグラス、前にはボトルがあった。そして、カウンターにうつ伏せの状態でもたれかかる自分に気づいた。

 馴染みの酒場か? どうやら夢を見ていたということか。はっはっはー、それはそうだ。あんなことが起こる道理がない。俺は納得しつつ、辺りをもう一度胡散臭そうに眺めた。ただ、少しホールの雰囲気が変わったような……?

 それより若い男はどこだ! ふっと思い出し、「お若いの」と隣人を探してみるも、あれ? おかしいな、側には誰もいない。たった一人で、ポツンと座っていた。それでも記憶を辿り、確か男に物乞いしたはずなのに……。俺は、いつからここにいるんだっけ? とまるで狐に摘まれた気分でいると、

「ヒューイ!」突如うしろで声がした。

 俺はその声に、一瞬焦って体を竦める。しかも今までの出来事を全て忘れるぐらい緊張した。何故なら俺みたいなアウトローに善良な知り合いなんているはずもなく、どうせどこかのごろつきが、いちゃもんをつけるため現れたに違いないからだ。

 仕方なく、俺は恐る恐る振り返った。……が、その直後、「えっ……?」驚きのあまりグラスを床に落としてしまった!

――甲高い音が酒場に響く!――ガラスが粉々に砕けようとも、失態を省みる余裕などはない。俺は目を見開き、震える指先を突き出して叫んでいた!

「ジェームス!?――」

 何と、奴がいたんだ! 俺の前に、少し年老いているが、紛れもなくジェームスが立っていた!

 俺は混乱した。どうなっている? もしやさっきの夢は、現実だとでも……。ならばこの場もパームシティの酒場じゃないというのか?

 そう必死に考えを巡らす中、奴の方は平気な顔で俺に話しかけてきた。

「おい、何で来ないんだ。今日はお前の誕生日じゃないか。俺たちはずっと家で待っていたんだぞ」と。

 うっ、訳が分からん。……しかし、ジェームスの顔を見れて、心底安らいだことは間違いない。俺の罪が浄化されていくかのようだ。

 俺はヨロヨロと近づき、目一杯奴を抱き締め、「よ、良かった、生きていてくれて……」と涙ながらに驚喜した。

 けれど奴は、俺の熱い抱擁など袖にして、「当たり前だろうが。ははあ、お前酔ってるな。あの時の事故を思い出したのか? 俺の身代わりにぶつかった時のことだろう? 実際お前には感謝してるよ、足の骨を折ってまで俺を助けてくれたからな。だけどそれは10年も前の話だろうが。その後、『メアリーと早く結婚しろ。お前たちは似合いのカップルだ』そう言って俺に進めたじゃないか」と覚えのない経緯を説明するだけだった。

 するとそれに合わせて、俺は不思議な感覚を持った。段々と昔の記憶が戻ってくるような、「ええっと、待ってくれよ」……否、上書きされるような感じで、「あっと、そうだ、今夜は寄るんだったよな。俺たち3人で」と唐突に状況を思い出したのだ。

 そこに、「もうすぐ4人になるわ」と言う女の声も聞こえてきた。奴のうしろから顔を出した、メアリーだ。どうやら彼女も俺を心配して来てくれたみたいだ。

「4人?」ただ、この話は初耳だ。俺は何のことか理解できずにいたら、ジェームスの方が喋り始めた。

「パーティ場で言う予定だったが……まあいいか。ヒューイ 喜んでくれ。俺たちにやっと子供ができた、10年目でやっとだ。メアリーにとっては少し年齢の高い初産だけど、医者は大丈夫だと言ってくれたんだ」と。

 ほう、それは本当か! メアリーの腹の中に新しい命が宿っている? 俺はその言葉を聞いて、実に喜ばしいことだと思った。そのため、

「何て目出度めでたいんだ! お前たち、幸せに暮らしているんだな。俺は本心から嬉しいよ。良かった、おめでとう!」と祝福を送らずにはいられなかった。

 全てが素晴らしく、この上ない歓喜に満ちていた。これで 何もかも、解決した訳だ――!

「うっ?」

 いいや……違ったか。突然、俺はジェームスにすがりつくように崩れ落ちた!

 そうだ、忘れていたよ。

「ヒューイ! どうしたんだ?」奴が一心に俺を支えてくれた。

 だが、無駄なこと。若造との契約が最後に残っていたんだった。俺の望みを叶えてもらった、その対価を払わないといけない。

 そして、あの若い紳士……さっきまで、気づかなかったが、薄れ行く意識の中で、今了得した。 

 あの紳士の名は――メフィストフェレスだ!――


「ヒューーーイッ!?」


      ― ― ― ― ― ―


――天空に住まう者たちの戯言が後を締めくくる――


「いかになされるのです? 実際にあの者の魂を地獄に落とすつもりですか? 悔い改めていましたよ」

「うむ、そうじゃな。……どうしようか? わしはどっちでもいいんじゃがのう」

「……またぁー、そんな、いい加減なことを言ってー!」


      ― ― ― ― ― ―


      3 慈悲


 俺は、気がついた。

 見覚えのない部屋を目の前にして、横たわる自分の存在を認めた。ただ、理由など分からないが、この自我も消える定めと知りながら。

 それでも一時だけは判断できる。

 見える! 彼らが。

 ジェームスとメアリー。

 彼らの微笑む顔を間近にしていた。そして、俺に向かって何かを語りかけている。

 小さな? 俺の手を取って。

「良い子だねえ、お目覚めでちゅか? ジェームス・ジュニア…………」



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