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白川老人
「今、放鳩だそうだ。午前6時半。君が学校から戻って来てからでも遅くは無い。慌てなくていいよ」
勉強が手につかなくなるだろう香月に、川上氏は朝一番に連絡を入れていた。しかし・・当の香月には、そんな心遣いも、昼過ぎまでは待てなかったようだ。香織と一緒の昼食の後、仮病を使っての早々の早退となった。
「あれえ?朝、あんな元気だったのになあ・・」
担任が不思議がった。香織は一人、笑いを堪えていた。
しかし、当の香月としたら、実に真剣な事であったのだ。こんな悪天候の事も予想して彼は訓練をしていた。それも単独放鳩による悪天での短距離訓練を繰り返して・・。それも、春休みに地元に戻ってきた芳川に手伝って貰い、緻密なデータも取ってある。余談ではあるが、10分間隔で、6時間もかけての訓練を何回も・・。その中で、10羽の鳩は確実にこれまでのレースにも結果を残してきた。データと言う科学的な裏づけ・・香月が目指す、新しい使翔の方向なのだ。
香月が家に戻ったのは2時過ぎだった。放鳩から既に、7時間が経過。空には雨雲が立ち込めていた。鳩は今ごろどの辺りを飛んでいるのだろうか・・?不安な気持ちは隠せなかった。




