白川老人
香月は言った。
「でも・・僕も競翔を始めて、もう3年になりますが、こんな川上さんを見るのは初めてです。鳩を愛する姿勢は日頃より尊敬する所ですが、人間の管理能力にも限界があるのでは無いでしょうか。一日中観察出来る鳩舎なんて、ハンドラーを雇えるような所ならそれも可能でしょうが、あくまで、愛鳩家、個人で楽しむ競翔と言う枠内にあって、僕らは一日を鳩舎の管理に費やせる筈も無いのですから。そこにどれだけ万全の体制で臨んだとしても、やはり無理が生じます。まして、川上鳩舎は250羽も飼育されている大羽数鳩舎なんですから」
川上氏に、香月が意見らしい事を言ったのは初めてだった。それは、川上氏も笑みを浮かべ、深く頷いた。
「・・確かに・・。君の言う通りだ。現在の飼育羽数は過去最多。同じ規模の高橋会長の所も、近くハンドラーを雇うらしい。私の所はそんな余裕は無いし、自分の鳩を他人に管理して貰うには、少し抵抗もあるしね。君の言う通り、今春後、少し選手鳩群を減らして見ようと思ってる所だ」
ここにも、最優秀鳩舎賞新設の影響があるのかも知れない。だが・・それには、理由が隠されていた事を香月は知らなかった。
「おっと!開函時間は8時だったね。大至急で行かないと間に合わなくなってしまう!」
思わぬ長話になって、大慌てで、高橋会長宅へ向かう2人であった。着くと同時に開函時間が迫っている事もあり、挨拶もそこそこに2人はラジオの時報を聞き入った。「バシャーン!」やれやれ・・そんな表情で2人はやっと腰を落ち着けた。




