白川老人
外に出て、空を見上げた香月だが、その瞬間、明らかな陰が写った、鳩だ!それも10数羽の一群。低空で飛んでくるその中で、一直線に香月の鳩舎に向かう鳩達。口笛を吹く。日頃の給餌の合図に素早く鳩達は反応し、3羽同時にタラップに入った。香月は手際良く、ゴム輪を外すと、3羽同時に打刻した。やはりだ・・思った通り、今の一群が先頭集団に違いない。食い込んでいた・・トップ集団に・・。今日のような天候には抜群の成績を見せる香月鳩舎の血統だ。
時計を見る・・8時半であった。100キロレースとしてはまずまずの分速で、1400メートルは恐らく出ているであろう。再び空を見上げる香月の頭上には、100羽程の一群が見えた。その後ろに第2、第3の集団が続いている。だが、先頭集団から15分遅れで、第2集団が帰舎。今度は4羽ほぼ同じに打刻、結局もう一羽を打刻して、香月は打刻を中止した。帰舎状況からして、かなり分速が荒れているような、そんな気がした香月に、川上氏から程なく電話が入った。
「どう?何分だったの?」
「僕の所は8時半前後でした。3羽同時です」
「やはり・・その辺が先頭集団かな?私の所が、8時35、6分だよ。2羽だ」
香月と川上氏の鳩舎は10キロ離れている。ならば、ほぼ同タイムと言える。優勝争いの顔ぶれが見えてきた。その電話の直後、ノート(佐野)から電話が入った。ノートもこの距離はいつも上位に顔を出す、強豪鳩舎だ。そのノートだが、いつものトーンのやや低いぼそぼそと言う声ではなく、かなり高い明るい声でもあった。




