白川老人
川上氏は非常に驚いていた。既に香月の天分、競翔家の資質は、頂上を駆け巡るが如き成長を見せ始めていた。
「もう、ワンチャンスだけ下さいと言ったら、無理でしょうか、じいちゃんに」
「私が答える事ではない・が、それは白川さんも望む事でもないのかな?」
「僕が、白竜と、ネバーの交配を続ける事がじいちゃんの健康を蝕むようで、最近痩せて行く顔を見るのが辛いんです」
川上氏の胸が詰まった。香月は何かをその鋭敏な感覚で、感じ取ろうとしている。
「それでは、私からお願いしとこう、もう一度。白川さんは大丈夫だ、春になったら良くなると思うよ。それより磯川君が復帰するようだね。ペパーマン系の飛び筋を導入したようだ。スケールが違うねえ・・」
川上氏は話の方向を転じた。
「僕も佐野さんから聞きました」
「あはは。私もだよ」
2人は笑った。
「君の所の交配も2年は続かなかったようだが、春は初代交配もいるし、なかなか君の所も陣容が揃っている。私も春には、今回は大羽数参加できそうだよ」
この時点で、川上氏が既に、白川系の一部の種鳩を自鳩舎に導入している事を香月は知らなかった。川上氏も、今度の磯川の導入には相当警戒していたようで、競翔家としての彼自身の変革も・・何かが大きく変わろうとしていた、初冬の事であった。




