紫竜号
「こっちを飛べば、早い」
紫竜号に恐怖心は、無かった。本能が、迷う事無く、南下コースを取った。紫竜号のこの選択は、実は間違っては居なかった。曇天の中、隼等の視力は効力を弱める。紫竜号の本能は、死への恐怖を上回った。しかし、どこかで、紫竜号の脳裏には、昨年の出来事が引きずっていた。低空を飛ぶ紫竜号。そして、圧倒的に他を引き離す紫竜号に少し油断が生じたのは、この時であった。低空で、無風の状態に業を煮やした紫竜号が、陸地に急角度を取ったのだ。山際に進路を取る事で、上昇気流に乗り、家路までの飛翔を加速する事。この選択もやはり、紫竜号として間違ったものでは無かった・・が・・。高山に向かう途中で、紫竜号に異変が起った。自分の位置を突如見失ったのである。
「ど・・どこだ?ここは・・」
紫竜号は、旋回をする、それは何度飛んでも、同じ位置に戻る。自分は狂ってるのか・・・紫竜号は思った。そこは、地磁気がずれる鉱山の跡地だった。この選択が、1分遅れていたか、早かったなら・・紫竜号の1100キロ唯一羽当日帰りの、日本記録レコードでの総合優勝は確実であっただろう。それ程紫竜号は、充実していたのだ。




