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紫竜号
GCHレースとなった。香月鳩舎の参加は一羽。紫竜号が400キロからの大ジャンプで、1100キロGCHに参加させられていた。主翼の先端は、磯川の提案通り少し切り込まれていた。それによって、紫竜号の飛びぬけて長い主翼からして、影響が出る程の事では無かった。香月は、紫竜号をどのレースに投入するかで、決定を悩んでいたのだが、今期の競翔が磯川も言っていたように、終わったのでは無かった。このレースが紫竜号にとっては、初めての長距離メジャーデビューとも言える。香月はこのレースまでに、紫竜号の贅肉を殺ぎ落とし、初めて完璧とは言えぬまでも、十分なコンディションで、このレースに参加させていた。
この日の紫竜号は、気負い過ぎる程気合が漲っていた。その同じ籠の中で、パイロン3世号が声を掛けた。
「よお、おっさん。又会ったな。久し振りだな」
「お前か・・。今度こそ借りを返してやるぜ」
「ふふ。気の早いおっさんだぜ。海を渡るのは初めてかい?」
「2度目だよ。お前こそ、大丈夫かい」
「ふふ・・はあっはっは」
パイロン3世号は笑いながら、紫竜号から離れた。




