紫竜号
「川上さんが言うには、それは、香月君の為でもあり、紫竜号の為でもある。競翔に聖域を作るとするなら、犯してはならない事がある。それは、人間が作った勝手なルールで、その鳩を評価してしまう競翔界の中で、香月君のやろうとしている事は恐らく紫竜号にとって過酷なものになるだろう・・って事。何故なら、俺は川上さんに紫竜号を見せた。そして、川上さんは、紫竜号を優しく抱いて・・そして涙を零した。何故だか分かるか?一男。こんな深い傷を負って、それでも競翔と言う危険な冒険の旅に向かわされる、紫竜号の運命に泣いたんだよ。何でこんな傷を負ってまで、紫竜号は羽ばたかねばならない?俺は、その時思ったんだ。一男は、心底競翔家になっちまったのかなって・・」
「・・浩ちゃん・・今は・・俺の気持ちを理解して貰おうなんて思わないよ。でもね、一つだけ聞いて。俺は自分の鳩舎のピン太号や、グランプリ号、スプリント号、キング、メッシュ・・・。どの鳩よりも今は紫竜号を愛してる。そして、紫竜号は、俺に託くされた優しかった白川のじいちゃんの大事な宝なんだ。失うのが怖いんだ・・だから・・だからこそ・・その為に俺は鬼になって訓練をしているんだ」
涙声になって、反論する香月に、芳川はそこまで・・と言ってこの夜は帰った。だからこそ、競翔に参加しない方を選んだ川上氏の心情に芳川は同感した。何故、そんな辛い選択を香月が選ばねばならないのか・・今、何故紫竜号が暴発しているのか・・不思議な運命の中に自分も巻き込まれている事を感じては居た。




