紫竜号
「君が競翔家でもあると言う事を聞いたんだが、この鳩をどう思うかね?」
その鳩は、栗二引の綺麗な鳩であった。しかし、香月の眉が曇った。そしてしばらく香月は触診していたが・・
「・・ミューゲですね、病気に掛かっていますよ」
「え・・?」
予想外の答えに、マクガイア氏は驚いた。この鳩をどう思うかと、自信を抱いて来た鳩に対する香月のそれが答えだったからだ。
「重症には到ってませんが、マクガイア博士は農園をお持ちですか?」
「あ・・ああ。麦畑を3ヘクタール持っているが」
「それが原因でしょうね。ただちにこの鳩を隔離して、クレゾール等で鳩舎内を清掃して、飲料水には少量のヨードチンキを入れて下さい。病鳩には、ルゴールを50から100倍に薄めて、あげて下さい。鳩舎の餌には、玄米、牛乳に浸したパンなどをしばらく与えて、麦等は、極力減らして下さい」
次々と指摘する香月の言葉に、マクガイア氏は戸惑いながらも、鳩舎に向かった。後から香月が。呆気に取られたような、掛川とメリーがその場に居た。鳩舎内の12羽の鳩を全て触診した香月は、
「もう一羽居ました。幸いまだ発症してませんが、発症したら助かりません。治療を急ぎます」
慌てて、マクガイア氏は、放鳩籠に2羽を入れて、鳩舎内を掃除し始めた。楽しい筈のパーティーが、一変して、大騒動になったのだった。ようやく、落ち着いたのは、夜の10時前。流石にマクガイア氏も疲れた表情で、ソファーに座り込んだ。改めて、香月の迅速な処理と、動物医学的判断の鋭さに感心した・・と言うより、この高名な教授にして、香月の医者としてのレベルの高さを非常に驚いた様子。それは、メリーにとっても感激するような、出来事であった。




