春風と英傑の息吹
「そうか!ご両親はさぞお喜びだろう。凄い事だね。おーい母さん、香月君が博士号だって!」
「いえ・・俺の両親には、まだ話していません」
「何でだ。こんなにめでたい事なのに」
川上氏は不思議そうな顔をした。
「いえ・・今晩はその前に少し、お話があって来ました」
「まあ、立ち話もなんだ、早く入りたまえ」
いつもなら、とっくに家に上がりこんでいる香月を、川上氏は促した。母親恵子さんが、奥からばたばた飛び出して来た。
「まあまあ!何してるの、早くお上がりなさい!おめでたい事だから、早く話を聞きたいわ」
「どうしたんだ?」
いつもと違う香月、香織の様子に、川上氏は笑いながら再度促した。
「俺達・・婚約のお許しを今夜頂きたいと、そう思って来ました」
「ええっ!?おいおい・・香月君・・」
川上氏は驚きながら言った。
「いきなり・・そう言われちゃ・・どう返事して良いか分からんよ。とにかくだ。2人とも上がって話を聞こう」
余りの突然の言葉に、慌てる川上氏だった。しかし、母親恵子さんは、香織の顔をじっと見ていた。香織の目には一点の曇りも無く、揺るぎの無い顔であった。不思議と・・母親の感性は、冷静だった。




