春風と英傑の息吹
「日本記録を塗り替えたスピードバードですよ。有り得るでしょ、今回の帰舎は」
磯川がレース前に予言していた結果を、肯定するように言った。
「それにしてもだよ。放鳩地と、鳩舎位置を距離で換算しても、実距離600キロ余。すると鳩は分速2000メートル以上のスピードでしかも逆風の中を戻って来た事になる。脅威的だよ」
小谷氏が言う。他の会員も頷いた。
「しかし、実際ですね、他連合会では、500キロ、600キロのレースで、分速2300メートルとか2100メートルの分速が出てるじゃないですか。脅威とは言えないでしょ。分速1300メートル台なんですから」
磯川が反論する。解説者を取り囲むように、磯川を中心とした円陣が自然と出来た。連合会屈指の理論家である磯川の円陣に、川上氏もやや後方に位置し、座っていた。
「しかしなあ、この放鳩地が出来て、20年。過去40回もの開催の中で、分速1000メートル台の競翔は僅かに3回。その最高分速にしても、1100メートル台だ。今回、突出した一羽を除いても、2位から6位までの5羽は、分速が1200メートル台だと集計はまだだが、予想されている。一気のレコード更新をどう見るのかい?」
高橋会長の質問に、にやりとして、磯川が答えた。図を指し示しながら、
「・・・と言う2つのコースがあります。先頭集団は、このコースを飛び帰ったと予想されます」
ほお・・会員達から少しどよめきが上がった。川上氏も頷いた。




