プロローグ
一週間後・・香月が、嬉々として家に帰ってきた。両手には鳩が大事そうに抱きかかえられて・・。
「おっ・・鳩がとうとう鳩舎に入ったな・・」
兄貴分の芳川も気になっていたのか、鳩小屋を覗きこんだ。
「ほお・・一男・・伝書鳩じゃないか、こんな鳩を飼うつもりだったのか」
芳川は聞いた。
「う・・うん」
香月は少し、歯切れ悪く答えた。
「怪我してるけど、凄い羽毛がきらきらしてる。凄い良い鳩なんじゃないかなあ・・誰かから貰ったのかい?」
芳川の眼にも、この鳩が凛とした高貴な気品を感じたようだった・・。
「実は・・」
香月は理由を話した・・。
「そうだったのか・・」
彼はそれ以上は言わなかった。香月の喜びようを見て、この鳩に心奪われたその気持ちが理解できたからだ。もう少しこの鳩が元気になったら・・鳩の左足に装着してある住所管からして、車で30分も走れば飼い主の所へは連絡できる距離だ。
そして・・日数はどんどん経って行った。香月が学校から戻ってきて、毎日鳩小屋の前に立つその姿を見ながら、芳川は悩んでいた。
・・恐らくこの鳩は優秀な競翔鳩に違いない。元気を取り戻した今、輝くような羽毛とその凛とした高貴な姿は、本当の飼い主である川上氏もきっと心配されているであろう・・と。




