春風と英傑の息吹
香月は結局最終的にスタートを、46羽に絞った。それは厳選に厳選した選手鳩で、流石に経験鳩はしっかり体が出来ていて、これ以上に無い仕上がり状態であった。使い始めた飼料の効果もあるのかも知れない。
そして、まずまずの好天の空模様の中、快分速となったレースは、各鳩舎一線に並ぶ大混戦になったが、その中でも香月鳩舎では、紫竜号とカズエース号が殆ど同時に帰舎して、香月を驚かせた。佐野からの連絡によって、その中でも頭一つ抜けているのは、磯川鳩舎、香月鳩舎、川上鳩舎の3強だと言う事であった。川上氏宅へ着くと、
「いやあ、今日のレースは凄いよね。私の確認した所でも2分以内に4、5百匹のトップ集団が居る。分速も1800メートルは出ているだろう。私の所でも30羽ほど殆ど同時に戻って来たので、どの鳩をタイムしたのか、しばらく確認に迷ったよ。ははは」
好調のようで、上機嫌の川上氏だった。質、数とも揃った川上氏は、ここ数年の白川系試翔期間を経て、強大な存在になっていた。国内に於いても、既に有数の鳩舎となっている。香月はどうしても、現鳩群だけでは、一歩を譲らざるを得ない。ただ、香月には天才的手腕がある。類まれな洞察力がある。
「今日は参加羽数の多い総合レース並ですから、好天も幸いし、レベルの高いレースになったようですね」
「私の所は若鳩が良かったよ。君の所は記録鳩が良いみたいだね」
佐野からの連絡である程度情報を得ている氏に、香月は詳しくは言わなかった。
結局その日に開函の審査を立ち会う川上氏を残して、香月は一人席を抜けて家路に着いた。審査会場が大勢の会員でごったがえしていたせいもあった。




