白川老人
「あの・・・僕ごとき学生が生意気かも知れませんが、僕が競翔を始めたのは、川上さんの鳩が怪我をして迷い込んだのがきっかけです。そのおかげでこうして、競翔にも参加し、鳩との出会いが嬉しくて、楽しくて、そして川上さんに、一杯競翔を教えて貰える喜びを噛み締めて居ります。僕にとって鳩と言うのは家族であり、友達です。だから、僕の鳩舎に迷い込んでくる鳩は必ず、別棟に建ててある鳩舎にまず隔離して、それから病気の有無を確かめて、連絡できる鳩舎には連絡します。連絡できない鳩は、近所の子供達で欲しい子にあげていますし、何日かして自分で帰って行く鳩も居ます。僕が川上さんからいつも教えていただいている『愛鳩家であれ』と言う言葉はそう言う事だと思うんです。あの・・よろしければ、その鳩を僕に下さいませんか?競翔に使って見たいです」
「えっ・・?」
川上氏も佐伯成年も、目を見開いた・。
「差し上げるのは、全く抵抗も無い。喜んで・・でも・・君は今・・競翔に使うとか言わなかった?」
佐伯氏は驚いたように聞いた。
「はい・・言いました」
「おい・・おい。香月君・・君は鳩も見て無いし、その鳩は選手鳩だよ。そう簡単に君の鳩舎に慣れる筈が無い」
川上氏が言った。
「いいえ、分かります。あの鳩でしょう?」
香月が川上鳩舎内の、その鳩を指差した。川上氏も佐伯も目をくりくりさせた。香月が続けて言う。
「僕の鳩舎に慣れなくて・・佐伯さんの所へ戻ってきたその時は、この鳩を飼ってくださいますよね?」
「そりゃ・・勿論・・」
「あー良かった」
「あははは。面白い子だな、君って」




