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出発
「有難う、ひたむきな君の姿にはいつも関心させられる、私も負けては居られないね、ははは」
川上氏の胸の奥には、白川氏の言葉が過ぎっていた。グランドスラム、無謀なまでの挑戦。超銘鳩の誕生。彗星のご如く出現した偉才。今香月の手元に居る、その恐るべき可能性を秘めた紫竜号。この純粋で、ひたむきな若者を苦しませてはならぬ。全くこうなって見ると、罪な交配を香月君に託したものだ・・白川氏は・・川上氏はそう思っていた。ただ、他の鳩を完璧とさえ見極める事が出来る香月が紫竜号には翻弄され続けて居る。そんな不安や心配も過ぎっていたのだった。
翌朝は、向かい風7メートルのコンディションだったが、現地の低気圧が通り過ぎた午前8時ジャストに放鳩は開始された。風は多少吹いてはいたが、晴天で、レースとしてはまあまあの分速が出そうな気がした。過去香月にとっては、殆んど明け渡した事の無い文部杯であった。香月はこの秋で、文部、Jrレースから降りようと思っている。




