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事件
和尚は香月の顔を見た。香月は穏やかで、涼やかな顔をしていた、不安な顔だった香織も次第に落ち着きを取り戻し、平静な顔つきになっていた。安心したように和尚は叉喋り始めた。
「そうして、問答は7日目を迎えた。もう、これ以上香月君が霊に憑かれていては体が持つまい・・。倒れ無いかと心配するわしの心と裏腹に、次第に霊の顔は穏やかになり、問答にも『師』と従うようになった。そして、わしは、仏様の所へこの霊を導く事に成功したのだ。香月君の素晴らしい言葉によって」
「坊は申す、古今東西、人は生き、死んで行くもの。殺し、殺され、罪なき民草の不幸こそ、国の不幸。唐沢城の悲劇は、人の世の悲劇でありましょう。されど、義は残り、孝行は永世に受け継がれましょう。怨みあれど、一得無し。時は流れ、一掬の信念が永く士を称え、祭りを催しましょう。よくぞ、頑張られた、心静かに御上りませ」
「その時じゃった。穏やかな、本当に穏やかな表情になって、こう言ってあの世に召されたのじゃ」
「師、教えを蒙り、御礼申す。この若者の守護の霊も申す。我の御霊に力をお貸しくださると・・」




