事件
その言葉の意味が理解出来ないまま、香織は門をくぐった。石畳はあちこち剥がれているがそれでも綺麗に掃除がされていて、訪れる参拝客もあるのだろう、質素な本堂ながら、山間の涼とした雰囲気が、どこの立派な寺にも負けない一種独特の然として感じられた。
本堂へそのまま2人は入った。この寺には住み込みの結城と言う老夫婦が和尚さんの身の回りの世話をしていて、健在であろうか・・合宿中には大変お世話になった人の良い方達だ。そして、2人を出迎えたのは、その結城夫婦の信江さんであった。少しも変わらないその様子に香月はにこにこと頭を下げた。
「あら・・・貴方・・香月君?まあ、立派になってえ!」
「お久しぶりです。覚えていて下さって嬉しいです。おばさん」
信江さんは、すぐ大きな声で、満面の笑顔になり、
「お父さん!お父さん!ちょっとおいでなさい、ねえ、早く」
奥から、
「何だい?大きな声を出して、私はまだそんなに耳は遠くないぞ・・」
いぶかりながら出て来たのは、懐かしい顔の三郎さん。その皺だらけだが、背筋の伸びた肌つやの良い顔が途端にもっとくしゃくしゃになった。
「おお・・!香月君じゃないか!見違える程立派になったなあ。ほお・・こちらのお嬢さんは?」
「川上香織と申します。同級生です」




