めばえ
構内では厳しい事でも定評があり、学生達からは雲の上の存在、畏怖すら感じるような高名の名誉教授だ。なのに、香月には入試の面接の時と言い、今日の事と言い、桑原教授にとって、注目に値する学生と映っているのであろうか・・・・他の学生達はそう思った。
そんな教授達の思惑も知らず、この日も香月は、日下部ペットショップに来ていた。日下部氏は、最近アメリカのゴードン系の輸入にかかっていて、交渉が難航しているようだった。高橋会長も大羽数導入している血統で、人気の高い血統であった。地道に歳月をかけて作り上げた血統は、長距離系として、販売としては大きな商品だ。今回はその中でも記録鳩群で、その扱い金額が高い事もあって、交渉が長引いているようだ。日下部氏は長く競翔をやっているので、1羽1羽自分で確認し、これはと思う鳩を選んでから導入しているので、仕入れに時間が掛かる。その吟味のおかげで、このペットショップで購入した鳩は、評判がすごく良い。厳選した鳩を対象にする事で、信用がついて来る。地方から電話一本で注文を受ける事も多い。加えて、日下部氏がそう言う競翔鳩を主体に切り替えたのも、香月と言う男が並々ならぬ選鳩眼と言うか、洞察力の持ち主と知っているからで、自分の導入鳩に対する率直で、鋭い意見も聞けるからだ。それ程、香月は日下部氏に信頼を得ていた。丁度日下部氏が出かけようとする時、香月が彼を呼び止めた。
「あの、日下部さん」
「うん?」
「もうすぐ試験が始まりますし、それに夏休みも近いので・・」
すぐ日下部氏は反応した。




