競翔仲間
「でも、俺も負ける訳には行かない。俺は来年受験を控えてて、今秋のレースで一時鳩レースも中断するんだ。その意味でも今秋は、自信ある種鳩を導入して頑張って来た。そして、この文部大臣杯はこの数年俺は一度も負けた事が無いレース。君も初めての競翔で、色々分からない事も多いだろうけど、北村君や今日のメンバー、そして、俺にも色々聞いてくれよ。じゃ!明日、楽しみだね」
そう言って、磯川は帰っていった。横で居た、佐野がノートを開いた。
「凄い、ライバル意識だね、香月君。君に対する挑戦のようだ・・磯川さんは今年ゴードン系を導入してる。これは恐らくこの近辺では初めてだね」
異様なまでに、初参加の香月に対して、長年のライバル心むき出しのような言動だった。それは、磯川自身が打倒川上系を目指しているからかも知れない。事実、磯川は学生競翔家ではダントツの成績で、大人達の中でも上位優入賞に食い込む成績をあげていて、ハンドラーと言う、鳩の飼育、訓練を担当する人まで雇っている家は金持ちだ。総合病院の一人息子であり、自分の手に入らぬものは無いとさえ思うような気位の高い男だった。彼が、鳩レースをやり始めたのは、水谷支部長が磯川の病院に入院した時から始まる。いきなり外国の著名鳩を数羽飼うや、レースに参加。だが、途中の悪天候に祟られた300キロレースで、ほとんど全滅の憂き目に合い、競翔鳩は良い血筋、良い環境、良い餌だと思っていた彼は、完璧に打ちのめされた。そこで、やはり日本の気候風土に合った在来種、そして最強鳩舎の鳩を導入すべきだと考え直し、川上氏の家に行ったのである・・。こんなエピソードが隠されていた。




