脅威の力
そして、700キロGPPを持ち寄り前に、S工大から、連絡が入った。2次試験の合格をその時点で80パーセント確信した香月達であった。両親、川上氏に報告した後、最後の面接試験に香月は向かっていた。彼はこの時、初めて周囲の人に涙を見せていた。彼の努力がこれまでいかほどであったか、知る香織と周囲の人達も喜びの涙を見せた。どんどんと、香月、そして、紫竜号はその運命の波に引き込まれて行く。誰かが操るように・・深く、更に深く・・。
面接は、極めて短時間で簡単な質問形式だった。その面接官は、S工大教授陣の中でも特に高名な動物生態学の権威である、桑原善一郎教授であった。
「君は18歳かね。若いねえ。過去にもほとんど高校からストレートに入学した者は居ない。君の論文を見たけど、やはり専門的見地からは、厳しいと言う指摘もあったが、実にユニークな発想だった。興味深いので、一つだけ質問するよ」
「はい」
やや、緊張しながら香月は答えた。
「君は、人間と鳩とはどちらが優れていると思うかね?」
難しい質問だと思って緊張していた香月だったが、その質問に笑顔で答えた。
「はい、勿論人間と言えますが、能力を最大限に引き出す力は、鳩の方が優れています」
「はっはっは。こりゃいい、はっはっは。君はなかなかの科学者のようだ。楽しみに待ってるよ。私の講義を受ける事になるから、是非生態学の研究室のチームを希望してくれたまえ。数少ない研究員しか居ないが、出来るだけの設備と資料を用意しよう。はっはっは。」
思いがけない言葉で、香月は感激した。大学でも特に名の通った教授にチームに加わってくれと言われたのである。それだけ、香月の研究テーマが、認められたと言う事を意味するのだ。こんなに順調に・・全てが歯車のように回転して行く。不思議な一致と共に。




