競翔仲間
支部長の水谷勝氏・・この人は電気店を経営されている。副会長の渡辺茂夫氏・・鉄工所に勤務されている。そして、香月は正面に座る、長身の学生の視線を感じていたが、その男が磯川則哉と言う強豪学生競翔家であった。切れ長の目、鼻筋の通った顔、いかにも気の強そうな男に見えた。彼は、高校3年生。私立総合病院の一人息子であった。
やっと、笑顔を作るとその磯川が香月の横に来て座った。北村が、少し遠慮がちに香月の隣の席を譲った。
「やあ、香月君、はじめまして。磯川です。今聞いたんだけど、倶楽部長の川上さんから鳩を譲り受けたんだってね」
磯川の関心は香月の入会より、そちらの関心が高いようであった。
「え・・はい。僕の手元に川上さんの鳩が怪我をして迷い込み、それが縁で競翔を始める事になりました。これからもよろしくお願いします、磯川さん。その鳩の事ですが、貰ったと言うより、無期限でお貸しして貰ってると言うのが本当なんですが」
その話を意外そうな顔をしながら、磯川は眉をぴくぴくと動かしていた。
「そう・・。成る程。君は、俺にとっても最強のライバルの出現って事になった訳だ。何故なら、川上さんは連合会でも圧倒的な強さを誇る、ブリクー、勢山系、ノーマンサウスウェル系の飛び筋を駆使してる方だ。ほとんどこれまで飛び筋が他鳩舎に出た事は無いんだよ」
香月が鳩を譲り受けたのが磯川にとっては、意外・心外のようで、彼は言葉を続けた。この心外の意味は磯川が、川上氏に鳩を分譲依頼して断られた過去にあった。




